【令和5年予備憲法の解説・論証つき】既存予備校が間違える報道の自由の論証!予備試験頻出の博多駅事件と関連判例の射程を完璧に極めよう【外務省秘密電文漏洩事件・TBS事件・NHK事件】
目次
この記事を読んで理解できること
- 既存予備校の誤った論証
- 博多駅事件が認めた報道の自由の主体は限定されている~「報道機関の」報道の自由
- 外務省秘密電文漏洩事件の射程~報道対象の限定
報道の自由関連の問題は司法試験では平成23年、予備試験では令和3年と令和5年で出題されている頻出論点です(※令和6年8月時点)
しかし、予備校の論証が博多駅事件を精密に理解したものになっていないため、論証を記述しただけで減点されるものになっていることを理解していますか?
後で説明しますが、既存予備校の論証では理解不測として減点されてしまうことは、出題趣旨からも分かることです。
みなと同じ間違いや減点をされる中で、博多駅事件とその関連判例の理解を完璧にすることで、他の間違った理解をしている受験生を出し抜きましょう。
第1章 既存予備校の誤った論証
ここで例えば、伊藤塾さんの論証を見てみましょう。
(伊藤塾の博多駅事件の論証)
伊藤真監修・伊藤塾著『伊藤塾試験対策問題集 予備試験論文9 憲法 第2版』(弘文堂、2021年)p58
⑴ まず、報道の自由は、国民の知る権利に奉仕するものとして重要な意義をもつから、「表現の自由」(憲法21条1項、以下法名省略)の保障に含まれると解する(判例に同旨)。
(中略)
⑵ 次に、報道機関という法人も、自然人と同様、1個の社会的実体として活動しているから、権利の性質上可能なかぎり、人権保障が及ぶと解する(判例に同旨)。
そして、報道の自由及び取材の自由という自由権は、権利の性質上、報道機関にも保障されると解される。
※ ⑴の「判例に同旨」は博多駅事件、⑵の「判例に同旨」は八幡製鉄事件を参考判例として引用している。
大手さんであることもあり一度は見たことのある論証なのではないでしょうか。
しかし、この論証では予備試験や司法試験に対応できないのです。
なぜなら、博多駅事件及びそれを引用する他の報道の自由の判例を見ればわかるのですが、すべての人に一般的に報道の自由を認めた判例ではないのです。
そのことを、第2章で解説していきましょう。
第2章 博多駅事件が認めた報道の自由の主体は限定されている~「報道機関の」報道の自由
1 博多駅事件をもう一度丁寧に読んでみる
ここで、受験生であれば何度も見たことがあるであろう、博多駅事件における報道の自由に関する判示部分をもう一度確認しておきましょう。
・博多駅事件 最決昭和44年11月26日
「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。」
確かに、下線部だけを見ると、「事実の報道の自由が憲法21条の保障のもとにある」と一般的に論じているように読めます。
しかし、下線部は「したがって、」という接続詞から前の一文からつながっていることが分かります。前の一文が報道の自由が認められる理由付けなのです。
そして、その文には「報道機関の報道は…国民の「知る権利」に奉仕するものである。」との記載があります。
すなわち、知る権利に奉仕するのは「報道機関」であり、「報道機関の報道の自由」についてしか、論じていないことがわかります。
すなわち、主体が「報道機関」に限定されていることに注意が必要です。
これは予備も司法も頻出中の頻出です。
また、取材の自由に関しても、「報道機関」に限定されています。
・博多駅事件 最決昭和44年11月26日
「また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。」
この判示部分も、「報道機関の」報道が正しい内容を持つために、取材の自由が憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値すると述べており、取材の自由に関しても「報道機関」という主体の限定が存在します。
※なお、日本語の問題ですから「機関」とは“人の集まり”という意味ですから、無所属の個人記者は判例の文言上含まれていないことになります(そのことが後述する令和5年予備試験の出題趣旨なのですが、既存予備校の読み方ではそのことに気が付かないのです。)。
2 主体が「報道機関」に限定されていることを、関連判例からも確かめる
さて、判例上報道の自由や取材の自由が報道機関に限定されて認められていると述べたところで、博多駅事件を見ただけだと信じられない受験生もいるのではないでしょうか。
それほど既存予備校の誤った論証に毒されているということなのですが、法律学習は大手予備校がどういったかではなく、条文と判例が全てです。
そこで、博多駅事件を引用する他の関連販連を確認してみましょう。
・TBS事件 最決平成2年7月9日
「報道機関の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障の下にあり、報道のための取材の自由も、憲法二一条の趣旨に照らし十分尊重されるべきものであること、取材の自由も、何らの制約を受けないものではなく、公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、ある程度の制約を受けることがあることは、いずれも博多駅事件決定(最高裁昭和四四年(し)第六八号同年一一月二六日大法廷決定・刑集二三巻一一号一四九〇頁)の判示するところである。」
このとおり、TBS事件も博多駅事件を引用して、博多駅事件の趣旨を「報道機関の意報道の自由は、憲法21条の保障の下にある」ことと論じていますね。
博多駅事件を「報道機関の」ものに限定していることを当然の前提として引用しています。
では、次に取材の方法について論じた外務省秘密電文漏洩事件についても見ていきましょう。
・外務省秘密電文漏洩事件 最決昭和53年5月31日 百選75
「報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。」
取材源の秘匿に関するNHK事件も同様に「報道機関」であることに注意を払い論じています。
・NHK事件 最決平成18年10月3日
「報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密に当たるというべきである。そして、当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。そして、この比較衡量にあたっては、次のような点が考慮されなければならない。
すなわち、報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものである。したがって、思想の表明の自由と並んで、事実報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容を持つためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない(最高裁昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁参照)。
以上のように、博多駅事件の関連判例はすべて、「報道機関」という主体の限定をしていることが、分かったのではないでしょうか。
憲法答案において、判例は条文であるので、判例で述べていることをまずベースに考えます。
そのうえで第1章で紹介した論証を見ると、⑴では博多駅事件が報道の自由一般を保障したものであるとして「報道機関」という限定をせず、⑵ではなぜか八幡製鉄事件を引用して法人に取材の自由が及ぶかを検討しており、博多駅事件がまさに射程としているはずの報道機関について別途の検討を必要としている点で二重の誤りがあるのです。
3 令和5年予備試験憲法の出題趣旨にも記載あり
さて、大手予備校の指導に毒されてしまうとそれでも、博多駅事件が主体の限定を行っているということを信じられ合い人もいると思われるので、最後に、かかる観点で出題された令和5年予備試験憲法の出題趣旨を確認してみましょう。
・令和5年予備試験憲法出題趣旨
「報道を行う上で不可欠の前提である取材の自由及び取材源秘匿について、それを享有する主体の範囲を含めて、判例及び学説の正確な理解とそれを事案に適用する能力とが必要である。」
取材の自由や取材源秘匿について主体の範囲について検討することが明確に求められていますね。
さらに確認しましょう。
(報道の自由に関する判例を挙げたうえで)「上記の各判例は、いずれも「報道機関」を対象としたものであり、フリージャーナリストの位置付けは、判例上明確に示されていない。そこで、その点をどう判断するかが第二の論点となる。報道は国民の知る権利に奉仕するもので、そのために、取材の自由は「報道機関」に対して特に認められたものである。しかし、「報道機関」の範囲をどう捉えるかは議論の余地がある。Xのようなフリージャーナリストに取材の自由の保障が及ばないとすれば、そうした区分の合理性が問題となり、実質的に報道機関としての性質を備えているかで判断するとすれば、「報道機関」としての性質をどう捉えるかが問題となる。」
明確に、報道の自由に関する判例が「報道機関」を対象としたものである旨述べられています。
そのうえで、フリージャーナリストについては、判例上何も述べられていないため、実質的にフリージャーナリストが「報道機関」に該当するかを検討することが求められています。
既存予備校で、博多駅事件やその関連判例の主体が「報道機関」に限定されていることを知らなければ、この令和5年の問題で高得点を取ることはおよそ不可能です。
第3章 外務省秘密電文漏洩事件の射程~報道対象の限定
1 外務省秘密電文漏洩事件におけるもう一つの限定
さて、報道の自由関連の判例が全て「報道機関」と主体が限定されていることは解説したとおりなのですが、報道機関の取材の相当性について述べている外務省電文漏洩事件は、もう一つの限定をしていることをご存じでしょうか。
博多駅事件を、主体を限定せず単に「報道の自由を認めた判例」と理解することは間違いであり減点されるのと同様に、
外務省秘密電文漏洩事件を「取材の自由の相当性に関する判例」と理解していたのでは間違いということになります。
実は、外務省秘密電文漏洩事件は①主体に関する限定と同時に、②取材対象の限定がされていることに注意してほしいのです。
2 取材対象が「国政」に限定されていることに注意せよ!
ここでもう一度、外務省秘密電文漏洩事件の判旨を読んでみましょう。
・外務省秘密電文漏洩事件 最決昭和53年5月31日
「報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。」」
上記で太字や下線部で強調したところを見てください。
「国政に対する」「公務員に対し」と述べていることがお判りになるのではないでしょうか。
つまり、外務省秘密電文漏洩事件は取材の自由一般について論じた判例ではなく、「国政」に関して「公務員に対して」行う取材に限定して論じているということになります。
つまり、国家秘密についての判例であるということを正確に理解して得おいてください。
その証拠に百選第7版の外務省秘密電文漏洩事件のタイトルを見てみてください(163頁)。
「国家秘密と取材の自由」
となっているはずです。
決して「取材の自由の相当性」とはなっていません。
3 取材対象が国政に限定されている
ではなぜ、公務員に限定しているのかというと、報道の自由や取材の自由は国民が自己統治をおこなうための資料を得るという知る自由に奉仕するために、認めらていたことに関係します。
公務員が有する国家機密は、国家機密ではありつつ、同時にそのことを国民に秘密にされていたのでは、国民が選挙において正しい判断をすることができません。
したがって、取材の自由の背後にあるのが国民の知る自由である以上、多少のやりすぎ程度は許容されるというのが同判例の意味です。
とすれば、国政に直接関係しないような一企業のスキャンダルや犯罪被害者に対する取材については、ただちに外務省秘密電文漏洩事件の趣旨が及ぶというわけではないのです。
令和5年予備試験も、公務員に対する取材ではなく、会社の元従業員に対する会社のスキャンダルに関する取材の相当性でした。
答案では、この判例との差異をきちんと指摘して、外務省秘密電文漏洩事件の規範を使えるかどうか(判例の射程が及ぶか)を丁寧に論じていかなければなりません。
第4章 まとめ~過去問を使った考察
報道の自由関連の判例をまとめると以下のようになります。
①報道の自由⇒主体の限定 「報道機関の」
②取材の自由の手段相当性⇒取材対象の限定 「国政に関して」「公務員に対して」
そして、答案上も
①主体と②取材対象を、判例の事案とずらしてくるわけです。
①については、
令和5年予備試験憲法では、「フリージャーナリスト」であり「報道機関」ではありません。
また、平成23年司法試験憲法では、「グーグルストリートビュー」類似のサービスを展開する企業に報道の自由が認められるかという問題が出題されています。
②については、
・令和3年予備試験においては、「国政」について「公務員に対して」行う取材ではなく、「犯罪被害者に対して」行う取材についての規制が問題となっています。
・令和5年予備試験においても、「私企業のスキャンダルに関して」「元従業員に対して」への取材の相当性が問われています。
このように判例の文言上直接射程を及ぼすことが困難な場合の処理は、憲法の学習について基本中の基本で最初に学ばなければなりません。
具体的には、
判例との事案の違いを指摘した上で、事案が違っても判例の趣旨が及ぶかを検討する。
という、判例の射程の一般解法が使うことになります。
判例の射程の一般解法については、ここで説明すると長くなるので別記事と動画にて解説していますので必ず見てくださいね。
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