【完全保存版】利益相反取引違反の効果は2種類ある!条文総整理!
目次
この記事を読んで理解できること
- 利益相反取引の効果は2種類に区別せよ!
- あと1点をつかみ取れ!任務懈怠責任の適用条文
- 利益相反取引と経営判断原則
「利益相反取引の効果」は2種類あるということを、皆さんは理解できていますか?
これを理解できていないと、司法試験や予備試験の会社法で利益相反取引が出題されたとき、見当違いの解答を書いてしまうことになりかねません。
また、
株主総会の承認を得ても任務懈怠責任の推定を免れるわけではない
ことも明確に理解していますでしょうか。
そこで、今回は利益相反取引の効果について、大前提となる2種類の区別を説明した上で、それぞれの適用条文やあてはめ方を解説していきます。
【初中級】第1章 利益相反取引の効果は2種類に区別せよ!
【初級】1 利益相反取引の効果とは何か
はじめに、利益相反取引の効果は2種類あるということを理解しましょう。
①任務懈怠の推定(承認があったとしても)
②無権代理として無効(承認がない場合)
※最高裁は無権代理の効果を「無効」と表現することが多いですが、「効果不帰属」という表現が適切であるという指摘もあります。
上記のとおり、利益相反取引は、全く異なる二つの効果があります。
①任務懈怠の推定
▶ 取締役の会社に対する責任の話
であるのに対し、
②無権代理が問題
▶ 会社の取引相手との法律関係
であり、検討する場面が全然違うのです。
以下、それぞれの効果について詳しく見ていきましょう。
【初級】2 ①任務懈怠の推定
2-1 株主総会の承認があっても任務懈怠は推定される
利益相反取引による①任務懈怠の推定は、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の承認があったとしても発生します。
「え!なんで承認してもらってるのに任務懈怠になるの?」
という疑問を抱いた方は、全く条文を読んでいないことを自白しているようなものです。
まずはこちらを読んでください。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
423条3項柱書
第三百五十六条第一項第二号又は第三号…の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
上記のとおり、
【要件】
①利益相反取引(「第三百五十六条第一項第二号又は第三号…の取引」)
②損害の発生(「株式会社に損害が生じたとき」)
③因果関係(「によって」)
【効果】
「任務を怠ったものと推定する」
と、要件効果がはっきり明記されているのです。
ポイントは
この要件の中に、「承認を得なかったこと」は一切含まれていないということです。
ここで、対比のために、以下の、競業取引による損害額の推定を定めた条文を読んでください。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
423条2頁
取締役又は執行役が第三百五十六条第一項…の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。
会社法356条1項一号に「違反して」、すなわち「重要な事実を開示」又は「承認」のどちらかを欠いていたことが要件となっています。
つまり、
競業取引は、株主総会の承認を得れば、(重要な事実を開示していれば)、推定規定は働かない
といことであり、利益相反取引と全く扱いが違います。
このように、423条2項と3項を読み比べるだけで、利益相反取引の場合は承認があっても任務懈怠が推定されることは一目瞭然なのです。
【中級】3 ②無権代理として無効
3-1 民法108条1項・2項の適用できる場合
承認を得ない利益相反取引は、無権代理として無効です。
その理由付けは、通常は、民法108条1項ないし2項の適用です。
【事例1】
X社とY社それぞれの代表取締役を務めるAは、X社とY社の双方を代表して、X社・Y社間の取引を行った。
(自己契約及び双方代理等)
108条
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
また、以下の図のように
「取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなす」
場合も、
現在は会社法でも民法でも間接取引が明文で規定されているのですから、「代理人と本人との利益が相反する行為」として民法108条2項を適用すれば良いのです。
【中級】3-2 民法108条1項・2項が適用できない場合
次に、以下の事例ではどうでしょうか。
【事例2】
X社の取締役Aは、自己の名義でX社との間で取引をした。
なお、かかる取引でX社を代表したのは、代表取締役Bである。
この場合、民法108条1項の自己契約や双方代理には該当しません。
また、AがX社を代表しているわけでもないので、「代理人と本人との利益が相反する行為」(108条2項)でもありません。
この場合は、108条1項・2項は適用できません。(会社法356条2項を反対解釈も無意味です。)
このような場合、会社法356条1項の承認がない利益相反取引は
会社の意思決定に基づく行為とはいえないという実質論で無効とするか、
自己契約について規定した民法108条1項の趣旨に照らして無効とする
のが妥当でしょう。
【初中級】4 事後承認の取扱い
①任務懈怠の推定(承認があったとしても)
②無権代理として無効(承認がない場合)
という2種類の効果は、事後承認があった場合の取扱いも異なります。
まず、①任務懈怠の推定については、事後承認があっても変わりません。
事前承認があっても推定されるのですから当然ですよね。
次に、②無権代理については、事後承認により追認がなされたことになりますので、契約の時にさかのぼって有効となります(民法116条)。
以上のとおり、利益相反取引には全く異なる2種類の効果があります。
次の章では、任務懈怠責任について1点でも多く獲得するためのテクニックを、適用条文と共に解説します。
【初中級】第2章 あと1点をつかみ取れ!任務懈怠責任の適用条文
ここからは、任務懈怠責任の論証で1点でも多く点数を得るためのテクニックを解説します。
会社法は条文の数が多く、適用条文を落としてしまうことも少なくありません。
逆に言えば、適切な条文を完璧に適用することができれば、それだけで他の受験生と差をつけることができるのです。
1 利益相反を承認した取締役の責任
利益相反取引は、実際に取引をした取締役だけの責任ではありません。
改めて、任務懈怠推定の条文を読んでみましょう。
(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
423条
第三百五十六条第一項第二号又は第三号…の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。
一 第三百五十六条第一項…の取締役又は執行役
二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役
三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(…)
ご覧のとおり、利益相反取引による任務懈怠の推定は、「取引をすることを決定した取締役」、「承認の決議に賛成した取締役」も対象となります。
では、複数の取締役が任務懈怠責任を負うとどうなるのでしょうか。
これも条文を読めばわかります。
(役員等の連帯責任)
430条
役員等が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の役員等も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。
複数の取締役が責任を負う場合、「連帯債務」という扱いになるのです。
2 無過失責任の対象
これも見落としてしまいがちですが、利益相反取引には一つだけ無過失責任となる類型があります。
それは「自己のためにした取引」です。
(取締役が自己のためにした取引に関する特則)
428条1頁
第三百五十六条第一項第二号…の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第四百二十三条第一項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。
下の図のとおり、利益相反取引には複数の類型がありますが、その中でも無過失責任が定められているのは「自己のためにした取引」だけです。
ちなみに、「自己のためにした取引」というのは、自己の名義で会社と取引をすることです(名義説)。
詳しくは、直接取引に関する記事をご参照ください。
以上のポイントは、全て条文をそのまま読めばわかることですが、意外に見落としがちなところですので、1点でも多く得点を稼ぐチャンスです。
第3章 利益相反取引と経営判断原則
最後に、利益相反取引と経営判断原則との関係について解説します。
結論から述べると、利益相反取引による任務懈怠責任について、経営判断原則を適用するのは明確な誤りです。
経営判断原則を採用したと言われる最高裁判決を読んでみましょう。
アパマンショップ株主代表訴訟 最判平成22年7月15日
「このような事業再編計画の策定は,完全子会社とすることのメリットの評価を含め,将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。そして,この場合における株式取得の方法や価格についても,取締役において,株式の評価額のほか,取得の必要性,参加人の財務上の負担,株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ,その決定の過程,内容に著しく不合理な点がない限り,取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。」
このように、経営判断原則とは、取締役の経営上の専門的判断を尊重し、著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反としない考え方です。
では、そもそも経営判断原則は何のために存在するのでしょうか?
それは、取締役の裁量が尊重されず、結果的に会社に損失をもたらしたら責任を負うことになると、取締役が萎縮して、結局株主の損失となるからです。
例えば、Apple社のiPhoneでさえ、今だからこそ誰もが成功だと認める商品ですが、当時はハイリスクな投資であったといえます。
これまでにない商品を世に出すという挑戦をするわけですから、リスクが伴うのは当然です。
このように、大きな利益をもたらす投資には、失敗したときのリスクは常に内在しているのです。
にもかかわらず、取締役が「失敗して責任を取りたくないからリスクをとるのはやめよう」と考えたらどうなるでしょうか。
挑戦を一切しなくなれば、会社が成長することはできなくなってしまいます。
そうなると、結局出資をした株主にとっても損になるということです。
また、株主は出資した分を超えて責任を負うことはないのですから(有限責任)、成功すれば大きな利益となりますし、失敗しても出資分を失うだけにとどまります。
だからこそ、取締役には裁量を与え、経営判断を尊重してあげる必要があるということです。
これに対して、
利益相反取引は、取締役が会社を犠牲にするおそれが大きい取引を類型化したものであり、取締役に裁量を認めてはいけない場面なのです。
取締役に裁量を認めてしまったら会社が擬制になるおそれが大きいからこそ、任務懈怠を推定することで、コントロールを及ぼす必要があります。
経営判断原則とは正反対の趣旨ということです。
したがって、利益相反取引の任務懈怠責任を検討する際に経営判断原則をあてはめることは、任務懈怠の推定を全く理解していないということになってしまいます。
第4章 まとめ
以上のとおり、利益相反取引には
①任務懈怠の推定(承認があったとしても)
②無権代理として無効(承認がない場合)
という2種類の効果があり、これらは性質も検討する場面も大きく異なります。
これらを正しく使い分け、適切な条文を完璧に指摘することができれば、論証パターンなどに頼ることなく高得点をたたき出すことが可能です。
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