- 公開日:2024.11.11
- 更新日:2024.11.14
- #令状に基づく捜索
- #現場に居合わせた第三者の所持品の捜索
【予備1桁の論証付き】捜索現場に居合わせた第三者の所持品の捜索の可否について1桁合格者が徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 令状に基づく捜索の基本
- 捜索場所の第三者の所有・占有物の捜索
令状に基づく捜索において、現場に居合わせた第三者の物品に対する捜索が可能かどうかについて、かっちりと処理が固まっている方は受験生でもなかなかいないようです。
最決平成6年9月8日ではA方を捜索場所とする捜索差押令状に基づきその場に居合わせたBの携帯するボストンバッグを捜索できると判示されましたが、判例は理由を示していません。
したがって、理由付けは原理原則から考えていく必要があります。
司法試験での採点実感でも、かなりの人がこの点を分かっていないものとして度々指摘がされています。
実際、私が添削をしていてもかなり上位答案の人でもこの点について基礎が固まっていないように思えます。
逆にいうと、この論点をしっかりと理解できれば、他の受験生と大きく差別化できるので、この記事で勉強して、より高みに立っていただければ幸いです。
【初級】第1章 令状に基づく捜索の基本
1 なぜプライバシー権の制約が許されるのか
まず、そもそも捜索令状があるとなぜ捜索が可能なのでしょうか。
捜索というのは、国民の私的領域に公権力が強制的に侵入して調査することであるため、ここで侵害されている国民の人権はプライバシー権です。(注:この点、差押えで侵害される人権は財産権であることと混同しないよう注意して下さい。)
憲法でも学びますが、プライバシー権のうち住居等の私的事柄性の強いものについては、特に厳重に保護がされております。
・憲法35条
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
したがって、原則は捜索という強力な処分は“絶対禁止”であるはずです。
しかし、上記の憲法35条は令状がある場合にはこれを可能としています。
すなわち、令状は、国民のプライバシー権を解除するものということです。
そしてなぜ、令状によりプライバシーを解除するのは中立的な裁判官です。
裁判官が捜査機関からの疎明資料を見て「この状況なら捜索すべきだろう。被疑事実に関連する~~の範囲であれば捜索して構わない」と考えて、捜索差押令状を出すわけです。
つまり、捜査機関から提出された疎明資料を見た「裁判官の意思」を考えていくというのが基本的な解法のスタンスとなります。
2 令状裁判官の意思
裁判官は、令状を審査するときに憲法35条の「正当な理由」すなわち「証拠存在の蓋然性」を判断します。
したがって、令状により解除されるプライバシー権の範囲は「証拠存在の蓋然性」がある範囲に限定されるということになります。
そして、捜索差押令状記載の「捜索すべき場所」における管理権者の管理権が及ぶ範囲内に捜索場所が限定されます。
管理権の範囲内に通常存在するものに限ってプライバシー侵害が許されるというのが令状裁判官の意思であるからです。
とすると、
たまたま居合わせたにすぎない人の所有・占有物の捜索は原則としてできない。
ということになります。裁判官がプライバシーを解除する意思の範囲に含まれていないからです。
しかし、例外的に捜索場所に居合わせた第三者の所持品に対する捜索が可能であるケースが存在します。試験ではむしろこちらが多いでしょう。
第2章ではそれを取り扱っていきます。
【初中級】第2章 捜索場所の第三者の所有・占有物の捜索
1 捜索場所に居合わせた第三者の所持品の捜索の解法
まず、第1章で述べたとおり、たまたま居合わせた人の所持品には令状の効力が及ばず、その人の所持品を捜索することはできないというのが、令状裁判官の意思から考えると原則となります。
しかし、令状審査時の裁判官の意思を考えるというのが原理原則である以上、裁判官の令状審査時の認識から考えて、「そこに通常存在することが想定されている人間」であれば、裁判官は「証拠存在の蓋然性」があると考えるはずです。
「通常存在することが想定されている人間」の具体例は、従業員です。会社が捜索場所の場合、従業員というのは「通常存在することが想定」されています。
ですので、社員の所持品については管理権の及ぶものとして捜索が可能であるといえます。
裁判官が令状審査する際には、対象となる場所について管理権が及ぶ範囲ごとに審査していると考えるべきである。したがって、〇〇(第三者)の所持品に捜索場所と同一の管理権が及んでいるかを検討する。
他方、通常存在することが想定されていないような人間に関しては、そこにある証拠品を隠匿した疑いが十分に認められる場合に、「必要な処分」(222条1項で準用される111条)としての妨害排除的な処分としてのみ、捜索が可能になります。
通常存在することが
①想定される(従業員等の所持品)▶ 管理権及ぶ⇒捜索可能
②想定されない⇒管理権及ばず ▶ 証拠隠滅の場合に限り、捜索可能
また、その場にいる人の身体を捜索することは、「通常「場所」という概念にはそこにいる人は含まれないと解されるのみならず、身体の捜索により侵害される利益(人身の自由)は場所の捜索によるそれ(住居権)には包含されない」ということになるため、「その者がその場所にあつた捜索の目的物を身体に隠匿していると認めるに足りる客観的な状況が存在するなどの特段の事情のない限り」、原則として許されません(京都地決昭和48年12月11日)。
なお、明らかに第三者の所有・管理に係ることが明らかであるような特段の事情がない限り、捜索場所にある物は、管理権者の管理権に属すると推定されることになります(酒巻「刑事判例研究」ジュリ1147号(1998年)参照)。
※注意点
なお、当たり前のことなのですが、受験生の多くが勘違いしたまま司法試験に臨んでいることが多いことがあります。
それは、捜索差押令状が特定の被疑者の被疑事実により出されていることを理由として、当該被疑者以外の捜索はできないと考えてはいけません。
あくまで捜索差押令状は「証拠存在の蓋然性」がある場所のプライバシーの解除を許可するものです。
明確に理解しておいてください。
2 従業員のロッカーの捜索
では、会社が捜索場所になっている場合、従業員などの第三者のロッカーを捜索することはどうでしょう。
今までは、その場に居合わせた従業員の所持品を捜索するものでした。
しかし、ロッカーについては、第三者が個々に施錠し自分のプライベートな所持品を入れていることから、ロッカーの捜索は別個のプライバシー侵害となり得るとからです。
このような場合も原則に立ちもどり、「管理権の範囲か否か」を事案に則して考えていくことになります。
具体的には、
ロッカー内に会社の管理権が及ぶか、会社の管理権とは独立して保護に値するかを事案に則して認定せよ!
という解法を覚えてしまいましょう。
具体的には、当該第三者が従業員の場合は会社にマスターキーがあることが想定されます。そもそも、会社の従業員が使用するために会社が提供するロッカーであれば、会社の管理権が及んでいるでしょう。
令状裁判官は「捜索場所に従業員がいて、ロッカーなどで個々の従業員が備品を管理していることを考慮」して令状を出していると考えられるため、令状裁判官の意思とも合致します。
3 その場に居合わせた第三者のポケットの捜索
基本的な話ですが、捜索差押令状は、「証拠存在の蓋然性」が存在する場所のプライバシーを解除する者です。
したがって、身体についてのプライバシーを解除したわけではないので、その場に居合わせた第三者が従業員であっても、身体捜索はできません。
すなわち、その場に居合わせた従業員のポケットから物を取ろうとする場合は身体捜索になるため原則許されません。
そのような場合は、令状による差押の可否の問題ではなく、証拠隠匿を防ぐための「必要な処分」(222条1項の準用する111条)として許されるかという検討になります。
ここを間違えるとほとんど点数がないので注してください。
「場所のプライバシー」と「身体のプライバシー」は大きく違いますし、ここを混同してしまうと人権意識が低い受験生と判断されても仕方がなく、採点する側の逆鱗に触れてしまう可能性が極めて高いです。
(吉開多一ほか『基本刑事訴訟法Ⅱ-論点理解編』(日本評論社、2021年)p75参照)
第3章 まとめ
以上をまとめると、その場に居合わせた第三者への捜索は、次の二点が重要なポイントになります。
①「場所」の捜索→管理権が及ぶ範囲
▶ その場に通常存在することが想定される者の所持品であれば捜索できる。
②「身体」の捜索→「場所」とは別個のプライバシー
▶ 証拠隠滅を防ぐための「必要な処分」に限り許される。
これらは捜索の大前提となりますが、案外基本書ではさらっとしか触れられていなかったり、予備校本では全く触れられていないこともあります。
「原則」を理解しなければ「例外」を検討することはできないので、しっかり押さえておきましょう。
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