【永久保存】大手予備校もわかっていない!間接取引の完全解法
この記事を読んで理解できること
- 直接取引と間接取引
- 間接取引の定義を条文からひも解く
- 最判昭和45年4月23日の精緻な理解
「間接取引とは何か?」と聞かれたとき、あなたはとっさに答えることができますか?
この問いに瞬時に答えることができなければ、予備試験も司法試験も突破することはまず不可能です。
また、定義は答えられるとしても、具体的な事案でどのようにあてはめれば良いのかわからない、という人もいるのではないでしょうか。
事案へのあてはめ方がわからずに定義を言えるようになっても、それは字面を暗記しているだけで何の役にも立ちません。
そこで、
第1章で利益相反取引の大前提となる基礎知識を説明し、
第2章で、受験生が知識がぐらぐらである間接取引の定義と考え方を示します。
第3章では、皆さんが中途半端に理解しているであろう判例の詳細な分析についても解説していきます。
第3章は、上級レベルですが、これはほとんどの受験生が適当に理解している者であるため、実際に出題されたときに大きく差が付く論ものとなっていますので、間接取引について完璧という人もぜひ見ていただければ幸いです。
【初級】第1章 直接取引と間接取引
はじめに大前提として、直接取引と間接取引の違いを説明していきます。
直接取引についての解説でも同様の説明をしていますので、すでに理解している方は読み飛ばしても構いませんが、念のためおさらいしておくことをおすすめします。
まずは条文から見ていきましょう。
会社法356条(競業及び利益相反取引の制限)
1 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 (略)
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
上記のとおり、二号が直接取引、三号が間接取引について定めています。
二号の直接取引には自己又は第三者「のために」という文言がありますが、これは一般的に名義説(形式説)という立場で解釈されています。
すなわち、「自己…のために」とは自己の名義で取引をすること、「第三者のために」とは第三者を代理(代表)して取引をすること、つまり顕名のことです。
このように、直接取引は「名義」に着目して判断するので、成立範囲はかなり狭いといえます。
これに対し、間接取引は、「利益」に着目して判断することになります。
すなわち、誰の名義で取引をするかという形式だけでなく、客観的に会社と取締役との利益が相反しているかを検討する必要があるということです。
三号の「株式会社が取締役の債務を保証すること」はその典型例であり、「その他取締役以外の者との間」の利益相反取引も間接取引に含まれます。
このように、間接取引は、直接取引に該当しない場合に取りこぼしを防ぐという、いわばバスケット条項のような機能を果たしているわけです。
したがって、まずは直接取引に該当するかを検討し、直接取引に該当しない場合は間接取引に該当しないか検討するという順序であれば、取りこぼしなく利益相反取引を検討することができます。
以上のように整理するだけで、ただ漫然と直接取引と間接取引を並列に暗記している受験生と差をつけることができるようになるでしょう。
さて、ここまでの前提知識を理解していただいた上で、いよいよ間接取引について詳細に解説していきます。
【初中級】第2章 間接取引の定義を条文からひも解く
結論から言います。
間接取引とは、「会社と第三者との取引であって、外形的・客観的に、会社の犠牲において取締役に利益が生ずるもの」です。
なぜそう言い切れるのかを説明しましょう。
もう一度条文をよく読んでください。
会社法356条(競業及び利益相反取引の制限)
1 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 (略)
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
三号の文言から明らかなとおり、間接取引とは「株式会社」と「当該取締役」との利益が相反する取引です。
つまり、「株式会社」と「第三者」との利益が相反しても、それは間接取引ではないということです。
ここで、ただの暗記で終わってしまわないように、理由を深めていきましょう。
そもそもビジネスにおける取引は、少しでも自分の方に利益が出るように、契約の相手方と様々な交渉や駆け引きを行いますよね。
つまり、取引というものは、相手方と利益が相反することがむしろ当然なのです。
にもかかわらず、会社と第三者との取引において、会社と第三者との利益が相反する場合が間接取引に該当すると、およそあらゆる取引が利益相反として規制されることになってしまいます。
そのため、間接取引が「株式会社」と「当該取締役」との利益が相反する取引に限定されていることは、極めて合理的といえるでしょう。
次に、「外形的・客観的」とはどういうことかを説明します。
これは条文に明記はされていませんが、条文の趣旨から解釈することが可能です。
第1章で説明したとおり、三号の「株式会社が取締役の債務を保証すること」は、間接取引の典型例として定められています。
では、なぜこれが典型例といえるのでしょうか?
図を見ながら考えていきましょう。
上の図は、取締役が銀行から1000万円を借りて、会社がその保証人になったという事例です。
株式会社が取締役の債務を保証した後、取締役が銀行から催告を受けても弁済できる財産がない場合、銀行から保証人である会社に請求が行きますよね。
そうすると、会社は保証債務を履行する義務があるので、銀行に1000万円を返済することになります。
するとどうなるでしょうか。
言うまでもないことですが、会社は銀行に支払う分の1000万円がマイナス(不利益)になります。
他方、取締役は、会社が1000万円を弁済してくれることによって銀行への貸金返還債務が消滅するので、1000万円のプラス(利益)となります。
このように、債務の保証は、会社(保証人)にとってのマイナスが、必然的に取締役(主債務者)にとってのプラスとなるわけです。
まるでシーソーのように、一方が下がればもう一方が上がるという関係になります。
ここで改めて条文に戻ると、三号が「株式会社が取締役の債務を保証すること」を典型例としていることからもわかるように、会社の不利益が必然的に取締役の利益となる取引を規制しているのです。
これが、「外形的・客観的に、会社の犠牲において取締役に利益が生ずる」ということです。
言い換えると、会社の不利益が「結果的に」取締役の利益になる可能性があるとしても、それは間接取引ではないということになります。
これも現実のビジネスを考えていただければわかると思いますが、取引には契約当事者だけでなく様々な利害関係人がいて、ある取引で誰が得をして誰が損をするかを全て見分けることなんてできないですよね。
会社と第三者が取引をすることで、巡り巡って取締役が得をするという、いわば「風が吹けば桶屋が儲かる」という場合にまで規制してしまうと、規制範囲があまりにも広く不明確になってしまうのです。
そのため、間接取引とは、「会社と第三者との取引であって、外形的・客観的に、会社の犠牲において取締役に利益が生ずるもの」と定義することができます。
ここまで読んでいただいた方は、間接取引の定義をただ暗記するだけでなく、なぜそのような定義になるのかを含めて理解していただいているはずですので、通常の事例問題には問題なく太刀打ちできるはずです。
その上で、次の章に進んでください。
ここからさらに精緻な理解が必要になります。
【上級】第3章 最判昭和45年4月23日の精緻な理解
最後に、間接取引の定義に該当するのか問題となる判例を解説します。
最判昭和45年4月23日
(事案)
甲乙両会社の代表取締役を兼ねている者が、乙会社を代表して甲会社の債務を保証した。
「このような事実関係のもとにおいては、右保証は、商法二六五条にいう取締役が第三者のためにする取引に当るものと解するのを相当とする。けだし、同条にいわゆる取引には、取締役と株式会社との間に直接成立すべき利益相反の行為のみならず、取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなすがごとき、取締役個人の利益にして、会社に不利益を及ぼす行為も、取締役の自己のためにする取引としてこれに包含されることは、既に当裁判所大法廷の判示するところであり(最高裁昭和四二年(オ)第一三二七号同四三年一二月二五日大法廷判決民集二二巻一三号三五一一頁)、この趣旨に鑑みれば、甲乙両会社の代表取締役が、甲会社の債務につき、乙会社を代表して保証をなすが如き場合も、甲会社の利益にして、乙会社に不利益を及ぼす行為であつて、同条にいう取締役が第三者のためにする取引に当るものというべきであるからである。」
ここで注意が必要なのは、この判決が出た当時は会社法が存在していなかったので、「甲会社の債務につき、乙会社を代表して保証をなす」取引が旧商法256条に該当するかが争点となりました。
旧商法256条
取締役ガ会社ノ製品其ノ他ノ財産ヲ譲受ケ会社ニ対シ自己ノ製品其ノ他ノ財産ヲ譲渡シ会社ヨリ金銭ノ貸付ヲ受ケ其ノ他自己又ハ第三者ノ為ニ会社ト取引ヲ為スニハ取締役会ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス此ノ場合ニ於テハ民法第百八条ノ規定ヲ適用セズ
ご覧のとおり、当時の商法は直接取引についてのみ定められていて、間接取引の規定がなかったのです。
だからこそ当時の判例は、「取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなす」という間接取引の典型例ですら、「自己…ノ為ニ会社ト取引ヲ為ス」場合を定めた旧商法256条に含まれるという苦しい解釈をするしかなかったということです。
現在は会社法に間接取引の規定があるので、「取締役個人の債務につき、その取締役が会社を代表して、債権者に対し債務引受をなす」場合は問題なく間接取引に該当します。
言うまでもありませんが、当時の判例の文言をそのまま鵜呑みにして、会社法356条1項二号の「自己…のために株式会社と取引」に含まれると書いたら点数が入る余地はないでしょう。
では、この判例で争点となった「甲会社の債務につき、乙会社を代表して保証をなす」取引は、間接取引に該当するといえるでしょうか。
仮に甲会社が債務を弁済できなくなった場合、乙会社が弁済をすることになります。
そうすると、必然的に利益を得るのは誰でしょうか。
答えは「取締役」ではなく「甲会社」ですよね。
会社の債務は、取締役個人の債務とは別なのですから。
判例の結論だけを覚えていたとしても、この問題提起ができなければ間接取引の本質を全く理解していないことになります。
それでは、現在の会社法下では、この事例は利益相反でないということになってしまうのでしょうか。
ここで、乙会社が弁済をした「その先のこと」を考えてみてください。
保証人である乙会社は、弁済をしたらそれで終わりではないですよね。
次に何をしますか?
そう、「甲会社への求償」です。
保証人である乙会社は、主債務者である甲会社に求償できることになります。
そうすると、上の図からも分かるように、甲会社と乙会社との間で直接に法律関係が生じますよね。
これって何かに似ていると思いませんか?
答えは「双方代理」です。
直接取引として規制されるど真ん中の類型ですね。
乙会社を代表して甲会社の債務を保証することにより、必然的に甲乙双方の代理に等しい状態が生じてしまうのです。
ここまで論じて初めて、間接取引の本質に即した解答といえます。
なお、ここまでの文章をよく読んでくださった方は、「双方代理に等しい状態だとしても、それで利益が相反するのは甲会社と乙会社との間じゃない?」と思われるかもしれません。
しかし、判例の結論が現在の会社法下においても妥当であるという前提で考える場合、「取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引」という文言にあてはめる必要があります。
第1章で説明したとおり、間接取引が直接取引のバスケット条項的な機能を果たしていることに鑑みれば、将来必然的に双方代理に等しい状態を生じさせてしまうような取引を「株式会社と当該取締役との利益が相反する取引」と解釈することは利益相反取引規制の趣旨にも合致しているといえます(少なくとも、旧商法下の判例の文言をそのままあてはまるのは避けるべきでしょう)。
第4章 まとめ
以上のように、間接取引は「会社と第三者との取引であって、外形的・客観的に、会社の犠牲において取締役に利益が生ずるもの」であり、取引の結果必然的にどのような事態が発生するのかを検討する必要があります。
大手の予備校でも、問題の本質をここまで精緻に解説していることはまずありません。
間接取引について徹底的に理解して、他の受験生と圧倒的な差をつけてください。
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