【司法試験・予備試験】共犯関係の解消とは何か?最高裁の思考方法を徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 共犯関係の解消とは何か
- 共犯関係の解消の判断基準
- 最高裁判例で考えるあてはめの方法
共犯は、刑法総論の中でも大きな山場の一つです。
ただでさえ共犯が難しいのに、共犯関係の解消はその例外を扱うものなので、受験生が苦戦しがちな論点といえます。
そこで、今回は共犯関係の解消について、有名な最高裁判例を紹介しながらわかりやすく解説していきます。
【初級】第1章 共犯関係の解消とは何か
【初級】1 共同正犯の成立要件
共犯関係の解消の教唆犯や幇助犯でも問題になり得ますが、実務でも司法試験でも問題になりやすいのは共同正犯です。
そこで、まずは共同正犯の要件から理解していきましょう。
共同正犯の要件が何かについては様々な説が存在しますが、ここでは実務上一般的な見解として、
①共謀
②その共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
の2要件で考えていただければ十分です。
(司法研修所検察教官室『検察終局処分起案の考え方(令和元年版)』p25参照)
これをさらに細かく分類すると、
①共謀
▶ 意思連絡・正犯意思
②その共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
▶ 実行行為・共謀と実行行為との因果関係
となります。
そして、共犯関係の解消は、共同正犯の成立要件のうち「共謀に基づき」実行行為を行ったこと、すなわち「共謀と実行行為との因果関係」に関する論点です。
【初中級】2 共犯関係の解消とは何か
上記のとおり、共犯関係の解消は、「共謀と実行行為との因果関係」の問題です。
具体的には、共謀が成立した後、共犯者の一部が犯行から離脱し、その後に実行行為が行われた場合、当該実行行為は共謀に基づくものといえるかどうかが問題となります。
ここで、最高裁判例を見てみましょう。
・最決平成21年6月30日
「被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。」
この判例は、住居侵入と強盗の共謀が成立し、共犯者が住居に侵入した後、被告人が見張り役の共犯者と共にその場から離脱し、その後に残された共犯者らが強盗に及んだというものです。
最高裁は、
「被告人の離脱」という事情があっても「当初の共謀関係が解消したということはできず」、残された共犯者らの強盗は「当初の共謀に基づいて行われたもの」であると判示しました。
ここでわかるのが、最高裁は「離脱」と「解消」という言葉を注意深く使い分けているということです。
・「離脱」は現場から離れるなどの「事実」を意味するのに対し、
・「解消」はその後に実行行為が行われても共謀に基づくものではないため因果関係が認められないという「法的評価」を意味しています。
漫然と区別せずに使っていると、理解不足が露呈してしまうため注意しましょう。
ここまでを理解していただいた上で、次の章からは、共犯関係の解消についての具体的な検討方法を解説していきます。
【初中級】第2章 共犯関係の解消の判断基準
共犯関係の解消は、
①共謀
▶ 意思連絡・正犯意思
②その共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
▶ 実行行為・共謀と実行行為との因果関係
のうち、「共謀に基づき」実行行為が行われたこと、すなわち「共謀と実行行為との因果関係」です。
では、共謀と実行行為との間に因果関係があるか否かを、どのように判断すればよいのでしょうか。
1 キーワードは「因果性の遮断」
共犯関係の解消が因果関係の論点であることは前述のとおりですが、厳密に言うと、「実行行為への因果性が遮断されたか」という問題になります。
どういうことかというと、共犯者との間で共謀が行われて、その共謀どおりの実行行為が行われたのであれば、普通は因果関係が認められますよね。
イメージとしては、共謀が行われた段階で、実行行為に向かって因果の流れが進み始めていることを想像してみてください。
そのまま放っておいたらいずれ実行行為にたどり着いてしまうので、これを遮断する必要があります。
無事に因果性を遮断できた状態を、「共犯関係が解消された」と評価することになるのです。
【共謀の射程との関係】
ちなみに、共犯関係の解消と似て非なる論点として、「共謀の射程」があります。
「共謀の射程」も「共謀に基づき」実行行為が行われたこと、すなわち「共謀と実行行為との因果関係」の論点ですが、これは当初の共謀と実行行為との間に何らかの齟齬があった場合の問題です。
当初の共謀どおりの実行行為が行われた場合、共謀の射程は無関係なので、混同しないように注意しましょう。
2 どのような因果的寄与があったか検討せよ!
前述のとおり、共犯関係が解消されたといえるためには、共謀による因果性が遮断される必要があります。
そのため、まず検討すべきことは、共謀によってどのような因果的寄与がなされたかです。
簡単に言うと、被告人のどのような行為が、どのような形で実行行為に影響したかということです。
一般的に、共謀による因果的寄与は、「物理的因果性」と「心理的因果性」の二つに分けられます。
物理的因果性とは、犯行実現を容易にしたことであり、典型例は道具の提供です。
これを遮断する方法は、当たり前ですが道具を回収することです。
被告人が共犯者に道具を提供していた場合、それが回収されたか、回収されなかった場合は実際に使われたかを必ず検討しましょう。
次に心理的因果性とは、犯意を心理的に維持・強化したことです。
これはなにも、「がんばれ!」「おまえならできる!」と応援することが必要なわけではありません。
そもそも共謀は意思連絡、すなわち犯罪の共同遂行の合意があることが前提なので、共謀がなされた時点で基本的には心理的因果性は存在するということになります。
つまり、共犯関係の解消が論点となる場合、少なくとも心理的因果性は100%検討する必要があるということです。
・物理的因果性
犯行実現を容易にしたこと
▶ 道具の提供等があった場合は検討が必要
・心理的因果性
犯意を心理的に維持・強化したこと
▶ 100%検討が必要
なお、共犯者に情報を提供したり、一緒に犯行計画を考えたりすることは、犯行実現を容易にする意味で物理的因果性がありますが、犯意を強化するという意味で心理的因果性もあります。
この場合、共犯者の記憶を消すわけにはいかないので、物理的因果性を完全に遮断することは困難です。
そのため、心理的因果性の観点から、共犯者の犯行を阻止するために何をすべきかを考えましょう。
つまり、物理的因果性と心理的因果性は必ずしも明確に切り分けるのではなく、全体として因果性が遮断されたかを検討すればよいということです。
【初中級】第3章 最高裁判例で考えるあてはめの方法
結論からいうと、
最高裁は、実行の着手前か着手後かという形式的な区別にこだわらず、
・「格別それ以後の犯行を防止する措置」を講じたか否か
を判断基準としています。
以下、判例に沿って、理由を説明します。
有名な最高裁判例を二つ紹介します。
・「おれ帰る」事件 最決平成元年6月26日
(事案の概要)
1 被告人とAは、被害者Bの態度に憤慨し、車でA方に連行した。
2 被告人は、Bに暴行を加える意思をAと相通じた上、約一時間ないし一時間半にわたり、竹刀や木刀で同人の顔面、背部等を多数回殴打するなどの暴行を加えた。
3 被告人は、A方を立ち去ったが、その際「おれ帰る」といっただけで、自分としてはBに対しこれ以上制裁を加えることを止めるという趣旨のことを告げず、Aに対しても、以後はBに暴行を加えることを止めるよう求めたり、あるいは同人を寝かせてやってほしいとか、病院に連れていってほしいなどと頼んだりせずに、現場をそのままにして立ち去った。
4 その後ほどなくして、Aは、Bの言動に再び激昂して、その顔を木刀で突くなどの暴行を加えた。
5 Bは、甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死したが、かかる死の結果が被告人が帰る前の暴行によって生じたものか、その後のAによる暴行により生じたものかは断定できない。
(判旨)
「右事実関係に照らすと、被告人が帰った時点では、Aにおいてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかったのに、被告人において格別これを防止する措置を講ずることなく、成り行きに任せて現場を去ったに過ぎないのであるから、Aとの間の当初の共犯関係が右の時点で解消したということはできず、その後のAの暴行も右の共謀に基づくものと認めるのが相当である。そうすると、原判決がこれと同旨の判断に立ち、かりにBの死の結果が被告人が帰った後にAが加えた暴行によって生じていたとしても、被告人は傷害致死の責を負うとしたのは、正当である。」
本件では、被告人は共犯者と犯行に着手した後、離脱する旨を伝えただけでそれ以上のことはせずに現場を立ち去りました。
このような場合、共犯者が引き続き犯行に及ぶ危険性が大きいといえるため、「格別これを防止する措置」を講じなかった以上は共犯関係が解消されていないと判断されました。
さらに、最高裁は具体的な措置を例示しています。
・これ以上の制裁を止める趣旨のことを告げる
・共犯者に暴行を止めるよう求める
・被害者を寝かせてやってほしいと頼む
・被害者を病院に連れていってほしいと頼む
事例問題のあてはめでも、具体的な措置を説得的に論じることが得点につながります。
続いて、もう一つの最高裁判例を見てみましょう。
第1章でも少しだけ紹介した判例です。
・最決平成元年6月26日
(事案の概要)
1 被告人は、以前にも数回にわたり、共犯者らと民家に侵入して家人に暴行を加え、金品を強奪したことがあった。
2 共犯者らに誘われた被告人は、犯行の前夜に共犯者らと合流し、被害者方及びその付近の下見をするなどした後、共犯者7名との間で、被害者方の明かりが消えたら、共犯者2名が屋内に侵入し、内部から入口のかぎを開けて侵入口を確保した上で、被告人を含む他の共犯者らも侵入して強盗に及ぶという住居侵入・強盗の共謀を遂げた。
3 当日、共犯者2名は、被害者方の窓から侵入し、内側からドアの施錠を外して他の共犯者らの侵入口を確保した。
4 見張り役の共犯者は、屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前に電話をかけ、「人が集まっている。早くやめて出てきた方がいい。」と言ったところ、「もう少し待って。」などと言われ、「危ないから待てない。先に帰る。」と一方的に伝えて電話を切り、自動車に乗り込んだ。車内では被告人と他の共犯者1名が待機していたが、被告人ら3名は話し合って一緒に逃げることとし、現場付近から立ち去った。
5 屋内にいた共犯者2名は、被告人ら3名が立ち去ったことを知ったが、残っていた共犯者3名と共にそのまま強盗を実行し、被害者2名を負傷させた。
(判旨)
「被告人は,共犯者数名と住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀したところ,共犯者の一部が家人の在宅する住居に侵入した後,見張り役の共犯者が既に住居内に侵入していた共犯者に電話で「犯行をやめた方がよい,先に帰る」などと一方的に伝えただけで,被告人において格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく待機していた場所から見張り役らと共に離脱したにすぎず,残された共犯者らがそのまま強盗に及んだものと認められる。そうすると,被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり,たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し,残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても,当初の共謀関係が解消したということはできず,その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。」
この事案では、被告人らは住居に侵入して強盗に及ぶことを共謀し、共犯者の一部が住居に侵入した後、強盗行為に着手する前に被告人は犯行から離脱しました。
つまり、住居侵入罪との関係では「実行の着手後」であり、強盗罪との関係では「実行の着手前」ということです。
従来の見解としては、
・実行の着手前
▶ 離脱の意思表示と了承があればよい。
・実行の着手後
▶ 犯行を防止するための措置が必要。
という考え方が一般的でした。
しかし、最高裁は、実行の着手前か着手後かという形式的な区別にこだわらず、本件の事案においては「格別それ以後の犯行を防止する措置」を講じることなかったことから共犯関係の解消を認めませんでした。
第2章で解説したとおり、共犯関係の解消とは因果性を遮断できたかどうかの問題であり、実行の着手前か着手後かというのはその考慮要素の一つに過ぎないのです。
本件で、最高裁が共犯関係の解消を認めなかった理由としては、以下の事情が考えられます。
・以前にも、共犯者らと民家に侵入して家人に暴行を加え、金品を強奪したことがあった
▶ 犯行に慣れており、一旦計画が進行したら止まらない可能性が高い。
・前夜に下見をして計画を練っている
▶ 犯行の実現可能性が高まり、犯意が強化されている。
・共犯者2名が被害者方に侵入した
▶ 強盗が実行される危険が切迫している。
・「早くやめて出てきた方がいい。」と言われた共犯者2名は「もう少し待って。」と発言した。
▶ 共犯者が犯行を思いとどまっていない。
このように、共犯関係の解消を検討する際には、実行の着手前、着手後といった形式論ではなく、被告人がどのような形で犯行に関与し、どれだけ実行行為の危険が切迫しているかを論じる必要があるということです。
【中止犯との関係】
実行に着手した後で共犯関係が解消された場合、その後に行われた実行行為によって既遂犯が成立しても、被告人は未遂の限度でしか責任を負いません。
この場合、中止犯(刑法43条ただし書)についても論じる必要があります。
逆に、被告人が既遂犯の責任を負う場合、中止犯を論じる必要はありません。
第4章 まとめ
以上のとおり、共犯関係の解消は因果関係の問題であり、緻密なあてはめが必要になります。
出題された場合は大きな点数が振られている可能性が高いので、ぜひ高得点を目指しましょう。
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