- 公開日:2024.11.11
- 更新日:2024.12.19
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- #積極的利用
【判例総整理】承継的共同正犯の2つの判例を総整理し共犯で無双する解説
この記事を読んで理解できること
- 承継的共同正犯は何が問題なのか?
- 傷害罪と承継的共同正犯
- 詐欺罪と承継的共同正犯
- 最高裁判例の整理
承継的共同正犯については、
・傷害罪の平成24年決定:承継的共犯否定
・詐欺罪の平成29年決定:承継的共犯肯定
の二つがありこの区別が問題となります。
結論から言うと、
傷害罪:法益侵害後の参加
詐欺罪:法益侵害前の参加
であるため、結論が変わるのです。
承継的共同正犯について、「先行行為を積極的に利用した場合は共同正犯が成立する」という予備校の見解が間違っており、最近の答案では書かない方がいいことも解説します。
予備校本では、現在もこの考え方が通説であるかのように書かれていることがあります。
しかし、「積極的利用」という基準は、最高裁判例の考え方とは明確に異なります。
これを理解しないまま事例問題を解こうとすると、大減点になりかねません。
そこで、今回は
<初級>
第1章でそもそも承継的共同正犯とは何なのかを説明した上で、
<初中級>
第2章で傷害罪についての平成24年決定を
第3章で詐欺罪についての平成29年決定を解説し、
<中級>
第4章でこの二つの判例を完全に整理し、高得点を取れる理解にいたるまで解説してみたいと思います。
【初級】第1章 承継的共同正犯は何が問題なのか?
承継的共同正犯とは、ある者(先行者)が実行行為の一部(先行行為)を行った後、他の者(後行者)が先行者と共同して残りの実行行為(後行行為)を行うことをいいます。
先行者による先行行為
▼
先行者と後行者が共謀
▼
共謀に基づく後行行為
では、そもそも承継的共同正犯は何が問題なのでしょうか?
このような大前提を理解しないまま論証だけを暗記すると、未知の問題に対応できなくなってしまいます。
そこで、まずは共同正犯の要件から理解していきましょう。
共同正犯の要件が何かについては様々な説が存在しますが、ここでは実務上一般的な見解として、
①共謀
②その共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
の2要件で考えていただければ十分です。
(司法研修所検察教官室『検察終局処分起案の考え方(令和元年版)』p25参照)
これをさらに細かく分類すると、
①共謀
▶ 意思連絡・正犯意思
②その共謀に基づき、共犯者の全部又は一部の者が実行行為を行ったこと
▶ 実行行為・共謀と実行行為との因果関係
となります。
そして、承継的共同正犯は、共同正犯の成立要件のうち「共謀に基づき」実行行為を行ったこと、すなわち「共謀と実行行為との因果関係」に関する論点です。
後行者は先行行為が行われた後に初めて実行行為に関与した以上、先行行為に対して因果性を及ぼすことは「絶対に」不可能です。
つまり、どうあがいても、共謀と全ての実行行為との間に因果関係が認められることはありません。
では、後行者については共同正犯が成立する余地はないのか?それとも一部の実行行為とだけ因果関係が認められる場合でも共同正犯が成立する可能性があるのか?
これが承継的共同正犯の論点です。
以上の基礎知識を前提とした上で、判例の考え方を見ていきましょう。
【答案でどのように問題提起するか?】
受験生のみなさんとしては、承継的共同正犯の論点はわかったとしても、それをどうやって答案で問題提起するかが気になるかと思います。
唯一の正解はありませんが、比較的わかりやすい方法としては、初めから共同正犯の要件を
①共謀
②実行行為
③共謀と実行行為との因果関係
の3要件とした上で、①と②は通常の共同正犯と同じようにあてはめをして、③で共謀と実行行為との間にどこまで因果関係が必要とされるかを検討すればよいと思います。
つまり、②の検討では、因果関係は一旦無視して先行行為を含めた実行行為全体を特定した上で、③の検討で被告人が責任を負う範囲を絞り込むということです。
このように、論点になりそうな部分を初めから独立の要件としておけば、効率的に答案を書くことができます。
【初中級】第2章 傷害罪と承継的共同正犯
一つ目は、傷害罪について共同正犯の成否が問題となった判例です。
・最決平成24年11月6日(平成24年決定)
「被告人は、Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に、Aらに共謀加担した上、金属製はしごや角材を用いて、Dの背中や足、Cの頭、肩、背中や足を殴打し、Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており、少なくとも、共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって、第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合、被告人は、共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。」
上記のとおり、平成24年決定は、共謀前の暴行によって生じた結果については、因果関係がないことを理由に共同正犯を否定しています。
そして、共謀後の暴行によって生じた結果についてのみ、傷害罪の共同正犯を認めました。
このように、平成24年決定は、第1章で解説した「共謀と実行行為との因果関係」という基本に即した検討を行っています。
予備校本でよく見かけるような、「先行行為を積極的に利用した場合は共同正犯が成立する」などという論証は一切用いていません。
【同時傷害の特例を忘れずに】
後行者が暴行に関与したというケースは、
①どの傷害が先行行為又は後行行為による結果であるか認定できる場合
②どの傷害が先行行為又は後行行為による結果であるか認定できない場合
の二つがあります。
①の場合、先行行為による傷害結果については後行者は責任を負いません。
②の場合、「疑わしきは被告人の利益に」の原則(利益原則)により、どちらによる結果か認定できない部分について後行者は責任を負わないはずです。
しかし、同時傷害の特例(207条)が適用されると、どちらによる結果か明らかでない場合も先行者と後行者の両方が責任を負うことになります。
そのため、②の場合は必ず同時傷害の特例を検討しましょう。
(逆に、①の場合で検討したら大間違いなので注意してください)
【初中級】第3章 詐欺罪と承継的共同正犯
二つ目は、詐欺未遂罪について共同正犯の成否が問題となった判例です。
・最決平成29年12月11日(平成29年決定)
「Cを名乗る氏名不詳者は、平成27年3月16日頃、Aに本件公訴事実記載の欺罔文言を告げた(以下「本件欺罔行為」という。)。その後、Aは、うそを見破り、警察官に相談してだまされたふり作戦を開始し、現金が入っていない箱を指定された場所に発送した。一方、被告人は、同月24日以降、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、氏名不詳者から報酬約束の下に荷物の受領を依頼され、それが詐欺の被害金を受け取る役割である可能性を認識しつつこれを引き受け、同月25日、本件公訴事実記載の空き部屋で、Aから発送された現金が入っていない荷物を受領した(以下「本件受領行為」という。)。」
「被告人は、本件詐欺につき、共犯者による本件欺罔行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件欺罔行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると、だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。」
上記のとおり、平成29年決定は、欺罔行為には関与していない被告人について、共謀に基づき受領行為に関与したことによって、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと判示しています。
本件の被告人は欺罔行為に関与していない以上、詐欺罪の実行行為全体について因果性を及ぼしていないことは明らかです。
そのため、平成29年決定は、詐欺罪については承継的共同正犯を認めたものと解釈されています。
【だまされたふり作戦は不能犯も検討しよう】
平成29年決定は、被害者がうそを見破って警察に相談したことにより、だまされたふり作戦として現金が入っていない箱を発送しました。
そのため、被告人が受領した箱はただのダミーですから、財物(現金)が移転する危険性はなかったようにも思えます。
この場合、そもそも被告人の受領行為は実行行為に該当するのか問題になるので、不能犯についても検討しましょう。
不能犯は、具体的危険説と修正された客観的危険説が対立していますが、どちらで書いても特に問題ありません。
具体的危険説の場合、一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を判断基礎とするため、被告人がだまされたふり作戦を認識していておらず、一般人も認識できなかった場合は危険性が認められることになります。
修正された客観的危険説の場合、いかなる条件であれば結果が発生し得たか、そのような条件があり得たかを検討します。
本件では、被害者が詐欺に気づかずだまされたふり作戦が実行されなければ結果が発生し得たといえます。
そして、被害者が嘘を見破れなかった可能性があるといえる場合には、危険性が認められることになります。
【中級】第4章 最高裁判例の整理
それでは、2つの最高裁判例を整合的に解釈するにはどう考えればよいでしょうか。
第1章で解説したとおり、承継的共同正犯は因果関係の問題ですので、ここでも因果関係の観点から検討してみましょう。
まず、傷害(致死)罪は、個々の暴行によって法益侵害が完結します。
そのため、後行者が先行行為の結果について因果性を及ぼす余地はありません。
これに対し、詐欺罪の場合、錯誤に陥った被害者を利用して財物を移転させることで、初めて法益侵害結果が生じます。
欺罔行為は財物移転という法益侵害の「手段」に過ぎず、被害者が錯誤に陥ったこと自体は法益侵害そのものではないのです。
このように整理すると、最高裁は、
・実行行為全体に因果性を及ぼしていなくても、
・「法益侵害結果」を惹起した行為と共謀との間に因果関係が認められれば、
共同正犯の成立を認めていると考えられます。
・傷害(致死)罪
▶ 傷害結果が法益侵害
▶ 個々の傷害を惹起した暴行と因果関係がなければ共同正犯は成立しない
・詐欺罪
▶ 財物の移転が法益侵害
▶ 財物の受領行為と因果関係があれば共同正犯は成立する
つまり、承継的共同正犯は、問題となる犯罪類型の「法益侵害結果」とは何なのかを検討した上で、当該結果を惹起した行為と共謀との間に因果関係が認められれば共同正犯が成立するということです。
【積極的利用説とは何だったのか?】
予備校で蔓延っている「積極的利用説」とは、結局何だったのかを説明します。
平成24年決定が出される前、下級審では積極的利用説が一般的な解釈でした。
・大阪高判昭和62年7月10日
「いわゆる承継的共同正犯が成立するのは、後行者において、先行者の行為及びこれによつて生じた結果を認識・認容するに止まらず、これを自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪(狭義の単純一罪に限らない。)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し、右行為等を現にそのような手段として利用した場合に限られると解するのが相当である。」
つまり、積極的利用説は、平成24年決定前の基準の名残ということです。
これを答案で書くことは、最新の判例を理解していないことになります。
第5章 まとめ
以上のとおり、承継的共同正犯は共謀と実行行為との因果関係の問題であり、最高裁は全ての実行行為との因果関係を求めるのではなく、法益侵害結果に着目した判断をしています。
司法試験や予備試験では、問題となる犯罪類型の法益侵害結果を検討することが不可欠です。
例えば、平成28年司法試験では、強盗致死罪の承継的共同正犯が問題となりました。
強盗致死罪は「財物の移転」と「被害者の死亡」という2つの法益侵害結果が存在するため、それぞれについて因果関係を検討する必要があります。
このように、司法試験は積極的利用説では太刀打ちできない問題を出してくるので、予備校本を鵜呑みにせず、最新の判例を押さえるようにしましょう。
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