【予備1桁が徹底解説】複雑な集合動産譲渡担保はイメージで整理して攻略。イメージ図をたくさん使って判例を理解すっきり頭に入れよう。
目次
この記事を読んで理解できること
- 【基本】集合動産譲渡担保とは:集合物論
- 集合動産譲渡担保(流動動産譲渡担保)のイメージ
- 集合動産担保権者の権利が上回る場合(固定化前)
集合動産譲渡担保(流動動産譲渡担保)という言葉を見るだけでめまいがする受験生も多いのではないでしょうか。
学説も統一されておらず、受験生にとって難所です。
しかし、集合動産譲渡担保(流動動産譲渡担保)はイメージさえ掴んで整理してしまえば、思っているより難しくないのです。
今回は理論的な説明をしつつも、イメージ図をたくさん使いながら、皆さんの苦手意識を払しょくする記事を作ってみました。
是非最後まで読んでいただけると幸いです。
第1章 【基本】集合動産譲渡担保とは:集合物論
まず、集合動産譲渡担保とは何かを説明します。
一般的な動産譲渡担保は、動産一つ一つ個別に担保が設定されており、譲渡担保が設定された動産には担保権が消滅するまで担保が存在し続けます。
他方、
集合動産譲渡担保は、例えば倉庫にある商品や生け簀の魚などのような日々内容が変動する動産の集合体をひとまとめにして担保にしようとするときに用いられる担保です。
倉庫には物が出たり入ったり日々変動していますが、通説・判例的には「日々変動する1つの集合物」という抽象的な観念を想定し、その「集合物」に対して譲渡担保が設定され、中身の具体的な物については日々変動していると考えることになります(集合物論)。
倉庫などの中にある一つ一つの動産に個別に担保が設定される(分析論)とは考えないことに注意です。
第2章 集合動産譲渡担保(流動動産譲渡担保)のイメージ
1 基本的なイメージ 平時は担保権者の存在感を薄める
さて、以上を頭に入れてもらった上で、重要なのは以下のイメージをもってもらうことです。
それは、
集合動産譲渡担保は、通常の営業時(平時)は担保が設定されていることを忘れてしまうほど存在感がない。
といことです。
例えば、
土地に抵当権を設定する場合、債務者は債務不履行など非常事態にのみその所有権を奪われることを受容しているだけであり、通常時において債務者はその土地を自由に使用・収益していいわけです。
同様に、
集合動産譲渡担保を設定する債務者は、債務不履行など非常事態以外は、自分のビジネスを気兼ねなく行えなければなりません。
したがって、様々な論点においても、「通常の営業」においては担保権者がしゃしゃりでてこないような解釈・結論が妥当な結論になるわけです。
2 「通常の営業」時の判例:処分と物上代位
(1)処分:最判平成18年7月20日
平時すなわち「通常の営業」にとどまっている限り、集合動産担保権者は自己の権利を主張できません。
例えば、倉庫の中の動産に対して集合動産譲渡担保が設定されていた場合でも、倉庫内の動産が処分・売却された場合、倉庫内の動産を購入した第三者は担保の設定されていない完全な所有権を取得できます。
このことは、上で集合物論を採用したことからの論理的帰結といえます。
他方、その処分が「通常の営業の範囲を超える」場合には、原則的には、所有権を取得できません。このことは後でもう少し深掘りしますが、判例も以下のように述べています。
・最判平成18年7月20日
「対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。」
(2)物上代位:最判平成22年12月2日
まず基本的知識の確認ですが、
物上代位とは担保の目的物が火事などで焼失した場合に、その代替である保険金請求権や損害賠償請求権に対しても担保が及ぶというものです。
とすると、集合動産譲渡担保においても、集合物を構成する動産が滅失した場合に、それに対する保険金に対して担保権が及びます。
しかし、集合動産譲渡担保(流動動産譲渡担保)のイメージは、
集合動産譲渡担保は、通常の営業時(平時)は担保が設定されていることを忘れてしまうほど存在感がない。
ということでした。
事業主は通常、保険金を使いビジネスを継続したいと思うはずです。ビジネスをしていて目的物が滅失するということは十分あり得ることでこのような場合に、毎回担保権者が出てきてはたまりません。
そこで、判例は以下のように述べて、「通常の営業を継続」している場合には、集合動産譲渡担保権者による物上代位の行使は許されないと解しています。
・最判平成22年12月2日
「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は、譲渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には、目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても、これに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り、譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないというべきである。」
第3章 集合動産担保権者の権利が上回る場合(固定化前)
1 概観
第2章では、集合動産譲渡担保(流動動産譲渡担保)が平時すなわち「通常の営業」の状態の場合には、担保権者がしゃしゃり出てこないことを学びました。
第3章では逆に、担保権者が存在感を増すケースを二つに分けてお伝えします。
こちらは、2つのケースは殊更に覚えていただく必要があります。
(なお、集合物固定化前の話であることはご理解ください。)
それは、
①「通常の営業」ではない状況の場合
②動産売買先取特権と戦う場合
です。
以下、一つ一つ見ていきましょう。
2 「通常の営業」ではない状況の場合
第2章で紹介した二つの判例の判旨をもう一度見てみましょう。
・処分
最判平成18年7月20日
「対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできないというべきである。」
・物上代位
最判平成22年12月2日
「構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は,譲渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には、目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても、これに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り、譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないというべきである。」
いずれも、「通常の営業」ではない場合においては、処分をしても第三者は承継取得はできませんし、集合動産譲渡担保権者に物上代位を行使されてしまうことになります。
つまり、「通常の営業」を超える場合、すなわち非常事態においては、譲渡担保権者の存在感が出てくるということです。
非常事態に自分の権利を実現するために担保を設定するのですから当たり前のことですね。
3 動産売買先取特権との対抗
こちらは覚えるしかないのですが、判例上、動産売買先取特権と競合する場合は、集合動産譲渡担保は動産売買先取特権に優先することになります。
動産売買先取特権の条文を示します。
民法333条
債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない
集合動産譲渡担保において、集合物を構成する動産に対しては占有改定が行われておりこれをもって「引き渡し」を受けたといえるため、動産売買先取特権の「第三取得者」に該当し、先取特権は行使できなくなると考えているわけです。
※所有権留保と集合動産譲渡担保
なお、これに対しては動産の売主の権利を不当に制約することに鑑みて批判が存在し、実務では所有権留保をすることで対応していました。
そして、判例でも所有権留保をした場合は、売主は譲渡担保権者に優先すると判示しています(最判平成30年12月7日)。
第4章 まとめ
以上まとめますと、
「通常の営業」にとどまる限り、債務者(設定者)は営業を自由にできなければならないため、処分や物上代位等において、集合動産譲渡担保権者が存在感を増すことがない。
他方で
「通常の営業」を超える場合は、集合動産譲渡担保権者の権利を保護する必要があるため、担保権者の権利が強く表れてくる。
以上のことを大まかなイメージとして判例法理を理解していただければ、集合動産譲渡担保について多少ひねられた問題が出てきた場合にも対応できると思います。
むろん、何度も言及したとおり、以上は担保の目的物を集合物と捉えている場合の話です。
実行時となり固定化場合は、固定化時の動産は全て個別に担保権が設定された場合と同じ法律関係になりますので注意してください。
▼次のおすすめ記事はこちら▼
【論証付き】転用物訴権を基礎から予備試験・司法試験合格レベルまで一気に解説。
LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。
動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。
動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。
動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。
そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
是非、解説動画を受け取って、世界を変えてください。