三者間の紛争を極めよう!二重譲渡と独立当事者参加を徹底解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 独立当事者参加とは何か
- 不動産の二重譲渡(基本事例)
- 不動産の二重譲渡(仮登記の場合)
あなたは、
- 独立当事者参加がどのような場合に認められるのかを知りたい
- 二重譲渡の事案で独立当事者参加が認められるのかを知りたい
- 判例の結論は知っているが、理由がよくわからない
などとお考えではありませんか?
独立当事者参加は、複雑訴訟の中でも三者間の紛争が問題となる類型ですので、混乱してしまい苦手意識を持つ人も多いようです。
そこで、この記事では
【初級】
第1章で独立当事者参加とは何かについて、
【初中級】
第2章で不動産の二重譲渡(基本事例)について、
【中級】
第3章で不動産の二重譲渡(仮登記の場合)について、
それぞれ解説します。
第1章では基礎的な説明をしますので、二重譲渡の論点について知りたい方は第2章から読んでいただいても問題ありません。
特に、二重譲渡事例が極めて特殊な限界事例であることを、第2章で詳しく解説しています。
この感覚が分からないと、独立当事者参加で混乱する人も多いので是非お読みください。
【初級】第1章 独立当事者参加とは何か
まずは、独立当事者参加とはどのようなものであるかを解説します。
論点に飛びつく前に、このような基礎を固めておくことがとても大事です。
1-1 独立当事者参加の意義
独立当事者参加とは、ある訴訟において、第三者が当事者の双方又は一方を相手方として訴訟に参加することをいいます。
そもそも、なぜ別訴を提起するのではなく、わざわざ他人間の訴訟に参加するのでしょうか。
ここで条文を読んでみましょう。
(独立当事者参加)
第四十七条訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は、その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として、当事者としてその訴訟に参加することができる。
2~3(略)
4 第四十条第一項から第三項までの規定は第一項の訴訟の当事者及び同項の規定によりその訴訟に参加した者について、第四十三条の規定は同項の規定による参加の申出について準用する。
(必要的共同訴訟)
第四十条 訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
2 前項に規定する場合には、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる。
3 第一項に規定する場合において、共同訴訟人の一人について訴訟手続の中断又は中止の原因があるときは、その中断又は中止は、全員についてその効力を生ずる。
上記のとおり、独立当事者参加をした場合、必要的共同訴訟の条文が準用されます。
その結果、原告は被告と参加人両方の同意なく取下げができなくなるなど、合一確定が保障されることになります。
つまり、三者間の紛争について、同じ裁判所で紛争の一挙解決・相互に整合性ある解決をするために独立当事者参加をするということです。
そして、既存の訴訟に関係の深い第三者に、既に進行している訴訟を牽制する必要がある場合に、牽制のための訴訟追行の地位と機会を与えるという機能を持ちます。
(独立当事者参加の趣旨)
密接に関連する紛争の統一的解決、相互に整合性のある解決
(独立当事者参加の機能)
既存の訴訟に関係の深い第三者に進行している訴訟を牽制する必要がある場合に、そのための訴訟追行の地位と機会を与える。
1-2 2種類の参加資格
改めて条文を読んでみましょう。
(独立当事者参加)
第四十七条
1 訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は、その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として、当事者としてその訴訟に参加することができる。
このように、独立当事者参加は
- 訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者
- 訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者
のいずれかに該当する者に限り認められます。
前者を「詐害防止参加」といい、後者を「権利主張参加」といいます。
実務でも司法試験でも、問題となりやすいのは権利主張参加の方ですので、今回はこちらを中心に解説します。
1-3 権利主張参加の要件
権利主張参加の要件である「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であること」とは、本訴(もともとあった訴訟)と参加人(後から参加した人)の請求が論理的に両立しないことをいいます。
ここで「訴訟の目的」とは訴訟物(及び当事者適格)と考えるのが条文上素直です。
典型例としては、XからYに所有権に基づく引渡請求がなされた際に、Zが参加して、Yには所有権に基づく引渡請求、Xには所有権確認請求をした場合が挙げられます。
この場合、同じ物に対して所有権は併存し得ないので(一物一権主義)、論理的に両立しないものと認められます。
ここまでの知識を踏まえた上で、次章からは不動産の二重譲渡事例について見ていきます。
【初中級】第2章 不動産の二重譲渡(基本事例)
まずは、以下の事例を読んでみましょう。
■事例
Xは、Yに対し、Yから甲土地を売買契約により譲渡されたとして、所有権移転登記手続請求訴訟を提起した。
その後、Zは、同じくYから甲土地を売買契約により譲渡されたとして、Xには甲土地の所有権確認請求訴訟を、Yには所有権移転登記手続請求訴訟を提起した。
典型的な、不動産の二重譲渡事例です。
この場合、XとZは対抗関係(民法177条)となり、先に登記を備えた方が優先されます。
つまり、「訴訟の目的」である訴訟物においては、実体法上は、XもZもYに対して移転登記の請求ができるということです。
そのため、論理的に非両立とはいえないようにも思えます。
二重譲渡のポイントはここなのです!
(二重譲渡の抑えるべきポイント)
二重譲渡事例では、原告と参加者の請求は、訴訟物・当事者適格において完全に両立する。
以下、二重譲渡事例では、権利主張参加を認めるのが通説なのですが、上で書いたポイントを考えると、かなり無理をしている解釈といることを理解してください(限界事例ということです)。
さて、ここで請求の趣旨を見てみましょう。
■請求の趣旨
- X→Y
「Yは、Xに対し、甲土地につき、○年○月○日売買契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」
- Z→Y
「Yは、Zに対し、甲土地につき、×年×月×日売買契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」
- Z→X
「Zが、甲土地について所有権を有することを確認する。」
※実際の請求の趣旨は「原告」「被告」「参加人」などと表記されますが、ここではわかりやすく当事者名で表記しています。
X→Yの請求とZ→Yの請求は同一の不動産について所有権移転登記を求めるものですので、最終的に請求を実現できるのは一方だけです。
また、Z→Xにおいて甲土地の所有権確認請求がなされているため、実質的に、一つの土地がXとZのどちらの所有に属するのかを争うことになります。
したがって、このような場合には非両立の関係が認められるとして、独立当事者参加を肯定するのが実務および多数説の立場です。
このように、非両立性は実体法を基準とするものの、請求の実現可能性などの実質面も考慮する必要があります。
条文の文言とはかけ離れた解釈になっていますが、独立当事者参加の目的である「牽制の必要性」を考えると、参加させるべきという価値観から例外的に参加を認めた限界事例であると思います。
※この点、あまりに47条1項の文言から離れているため、類推適用と考える裁判官もいます(『民事訴訟法(第2版)』(瀬木比呂志)p634)。
【思考過程】
①原則
訴訟物(「訴訟の目的」)や当事者適格において完全に両立する。
↓
②独立当事者参加の機能
二重譲渡事例は、買主がお互いに、売買契約締結の成立・有効性を買主間で争うべき。
⇒「牽制の必要性」という独立当事者参加の機能を重視すべき事例。
↓
③例外的に、「請求の趣旨」「権利の実現」まで考えて非両立を考えている。
二重譲渡事例は、独立当事者参加の中でも、「牽制の必要性」から極めて例外的な考え方をするといことを理解してください。
【コラム】二重譲渡に権利主張参加を認める実際上の意味
権利主張参加を認めても、実体法上は両立する権利である以上、両買主が請求認容判決を得ることは可能です。
とすると、訴訟に勝った債権者が早い者勝ちで強制執行するという使い方が想定されますが、実は実務上そのようなことはおきないのです。
実際に、二重譲渡を認める場合は、たいてい、いずれかの売買が「不存在・無効」であることが多く、これを買主間で争わせた方が正義に適うという実務上の要請があると思われます。
【中級】第3章 不動産の二重譲渡(仮登記の場合)
それでは、以下の事例ではどうなるでしょうか。
最判平成6年9月27日を簡略化した事案を紹介します。
Xは、Yに対し、Yから甲土地を売買契約により譲渡されたとして、所有権移転登記手続請求訴訟を提起した。
その後、Zは、もともと甲土地の所有権移転請求権仮登記を経ていたとして、Yには所有権移転請求権仮登記に基づく本登記手続請求訴訟を、Xには本登記手続承諾請求訴訟を提起した。
請求の趣旨は以下のとおりです。
■請求の趣旨
「Yは、Xに対し、甲土地につき、○年○月○日売買契約を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」
「Yは、Zに対し、甲土地につき、△△法務局××号×年×月×日所有権移転請求権仮登記に基づく本登記手続をせよ。」
「Xは、Zに対し、Zが前項の本登記手続をすることを承諾せよ。」 |
この場合、YからXへの移転登記がなされても、その後に仮登記に基づくZへの移転が可能ですので、実現可能性のレベルでも非両立の関係が認められません。
通常の所有権移転登記の場合、XかZのどちらかにしか移転しませんが、仮登記がある場合、Xに移った後でZに移ることもあり得るということです。
また、ZからXに対し、本登記手続の承諾請求がなされているだけで、所有権確認請求がなされていません。
そのため、甲土地がどちらの所有に属するのかという、合一確定が必要な権利関係が訴訟の目的となっていないといえます。
したがって、独立当事者参加は認められません。
第4章 まとめ
以上のとおり、独立当事者参加は第三者が合一確定のために訴訟に参加するというものです。そして、「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者」として認められるためには、本訴と参加人の請求が論理的に両立しないことが必要となります。
非両立性の検討にあたっては、実体法を基準としつつ、請求の趣旨を見た上で、請求の実現可能性などの実質面も考慮する必要があります。
この記事を読んで、理由づけからあてはめまでしっかりできるようになりましょう。
▼次のおすすめ記事はこちら▼
【予備試験頻出】参加承継と引受承継の違いを予備試験1桁合格者(民訴A評価)が解説。
https://www.yobi-one.com/subjects/difference-between-participating-succession-and-assumed-succession/
コメント