【司法試験受験生必読】文書の真正と二段の推定について徹底解説

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
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この記事を読んで理解できること
  • 二段の推定とは何か
  • 二段の推定に対する反証
  • 処分証書と報告文書

あなたは、

  • 文書の真正と二段の推定について理解したい
  • 文書の真正と二段の推定はどのようなことが論点になるのかを知りたい
  • 事例問題で文書の真正と二段の推定について説得的な答案を書けるようになりたい

などとお考えではありませんか?

文書の真正と二段の推定は、実務上も非常に重要な概念の一つです。

とはいえ、まだ実務の経験がない受験生のみなさんは、なかなかイメージがつかみづらいのではないでしょうか。

そこで今回は、予備試験論文式に一桁合格し、訴訟実務にも精通している弁護士が、

〈初級〉

第1章で二段の推定とは何かについて基本的な説明をした上で、

〈初中級〉

第2章で二段の推定に対する反証を具体的に解説し、

〈中級〉

第3章で処分証書と報告文書の違いについて解説します。

第1章は基礎的な内容ですので、実務的な論点を知りたい方は第2章から読んでいただいても問題ありません。

この記事を読めば、実際の訴訟をイメージしながら理解を深めることができます。

【初級】第1章 二段の推定とは何か

この章では、大前提として二段の推定とは何かを解説します。

2つの概念を対比しながら説明していきますので、それぞれの違いを意識してみましょう。

基本中の基本になるので、実務的な論点を深めたい方は第2章から読んでいただいても問題ありません。

1-1 文書の真正vs文書の信用性

二段の推定における「文書の真正」とは、「その文書が、挙証者が主張する特定人の意思に基づいて作成された」ということです。

つまり、内容が正しいかどうかは関係なく、ある人物が自らの意思でその文書を作成したかどうかの問題です。

「形式的証拠力」と言われることもあります。

これに対し、「文書の信用性」とは、「その文書に書かれた内容が真実である」ということです。

「文書の真正」とは異なり、内容が正しいかどうかの問題です。

「実質的証拠力」と言われることもあります。

知識としては知っていても、事例問題でつい混同してしまうと大きな減点となってしまうので、

二段の推定→「文書の真正」の問題

ということはしっかりと押さえておきましょう。

1-2 私文書vs公文書

次に、私文書と公文書の違いを説明します。

条文を読んでみましょう。

(文書の成立)

第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

2 文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。

3 公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

このように、民訴法は「私文書」と「公文書」を明確に区別しています。

二段の推定(228条4項)が適用されるのは私文書の場合であり、公文書には適用されません。

答案では長々と論じる必要はありませんが、問題となる文書が私文書であることは必ず指摘しましょう。

1-3 一段目の推定vs二段目の推定

それでは、二段の推定とは何かを説明していきます。

■一段目の推定

一段目の推定は条文にはなく、判例で認められています。

・最判昭和39年5月12日

「文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定する」

簡単に言えば、

私文書に本人または代理人のはんこが押されている場合、本人または代理人が自分の意思でそのはんこを押したと推定する

ということです。

通常、はんこは厳重に保管・管理し、理由もなく他人に使用させることはないので、文書にはんこが押されているということは本人が押印したと考えるのが自然であるという理由から、一段目の推定が成り立ちます。

■二段目の推定

二段目の推定は、228条4項に規定されています。

(文書の成立)

第二百二十八条

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

簡単に言えば、

私文書に本人または代理人が自分の意思で署名か押印をしたときは、その文書全体が本人または代理人の意思で作成されたと推定する

ということです。

通常、署名や押印は文書の内容が確定した後、それを認識した上で行うものなので、署名や押印をしたということはその文書を自らの意思で作成したと考えるのが自然であるという理由から、二段目の推定が成り立ちます。

まとめると、以下の順序で推定がなされることになります。

文書中の印影が本人の印章によって顕出

本人の意思に基づいて押印されたと推定(一段目)

本人の意思で文書が作成されたと推定(二段目)

1-4 押印vs署名

ここで、押印と署名の違いについて説明します。

もう一度、一段目の推定の判旨を読んでみましょう。

・最判昭和39年5月12日

「文書中の印影が本人または代理人の印章によつて顕出された事実が確定された場合には、反証がない限り、該印影は本人または代理人の意思に基づいて成立したものと推定する」

このように、一段目の推定は押印の場合のみであり、署名の場合には適用されません。

なぜかというと、はんこの場合は誰が押印しても形が変わるわけではないので、文書にはんこが押されていた場合、誰が押したのかが問題になりますよね。

これに対し、署名の場合、筆跡は人それぞれ異なるので、筆跡が一致すれば本人が自分の意思で署名したことは明らかといえます。

そのため、署名の場合は二段目の推定(228条4項)のみを検討すればよいということです。

(つまり一段しかないので、署名の場合は「二段の推定」という表現は避けましょう)

1-5 反証vs本証

最後に、反証と本証の違いについて説明します。

一段目の推定について、最判昭和39年5月12日は、「反証がない限り」本人の意思に基づく押印が推定されると判示しています。

「反証」とは、相手方が立証責任を負う事実についての証明ですので、裁判官に確信させる必要はなく、真偽不明に持ち込めば足ります

これに対し、自分が立証責任を負う事実についての証明は「本証」といいます。

つまり、一段目の推定がなされても、相手方は「本人の意思に基づく押印ではない」という本証をする必要まではなく、「本人の意思に基づく押印であるかどうかわからない」という真偽不明に持ち込む反証をすれば足りるのです。

同様に二段目の推定についても、これを崩すには反証で足りると解釈されています。

ここまでの話をまとめると、以下のとおりです。

■二段の推定

  • 文書の真正の問題
  • 私文書にのみ適用
  • 一段目は判例、二段目は228条4項
  • 署名の場合、一段目は問題とならない
  • 推定を崩す場合は反証で足りる

次章からは、具体的な紛争における実務上の論点を解説します。

【初中級】第2章 二段の推定に対する反証

この章では、どのような場合に二段の推定が崩されるのかを、一段目と二段目それぞれについて解説します。

2-1 一段目の推定に対する反証

一段目の推定は、「印章(はんこ)は厳重に保管・管理し、理由もなく他人に使用させることはない」という経験則が前提となっています。

ということは、この経験則が当てはまらないケースでは、一段目の推定が崩されるということです。

①盗用型(盗まれた)
②冒用型(預けてたら勝手に使われた)
③その他


の3つに分けて説明します。

①盗用型(盗まれた)

印章が盗まれたのであれば、押印は自己の意思に基づかないことになり一段目の推定を崩せます。

印章が自己の意思に基づかないで使用された疑いを生じさせれば良いので、「間違いなく盗まれた」ということまで立証したり、「盗んだ犯人は誰か」を具体的に特定したりする必要はありません。

具体的には、

  • 印章の保管状況
  • 他人が印章を盗むことが可能な状況であったか(印章への接近可能性)

などを主張していくことになります。

②冒用型(預けてたら勝手に使われた)

これは、印鑑を妻に預けていたら、妻が勝手に保証契約書に押印してしまったような場合です。

印章を他人に預ける場合に、目的を限定せずに預けることは普通ありえないので、

  • 預託の事実
  • 預託の趣旨・目的

などを主張していくことになります。

③その他

以上のほかに、文書が作成された当時の状況に照らし、本人が押印することが困難又は不自然といえる事情がある場合も一段目の推定が崩されます。

例えば、本人が遠方出張により、印章を保管している自宅を離れているのが常態であった場合などが考えられます。

2-2 二段目の推定に対する反証

二段目の推定は、「署名や押印は文書の内容が確定した後、それを認識した上で行う」という経験則が前提となっています。

そのため、

文書の内容画定→署名・押印

という先後関係が崩れた場合、二段の推定が崩れることになります。

具体的には、

  • 白紙に署名・押印したら、他人が悪用して文書を完成させた
  • 文書作成後に内容が改ざんされた

といった事実を主張していくことになります。

【中級】第3章 処分証書と報告文書

この章では、処分証書と報告文書の違いについて説明します。

多くの予備校ではあまり重要視されていないようですが、実務上は極めて重要な概念です。

3-1 処分証書・報告文書とは

まずは、それぞれの定義を説明します。

■定義

処分証書:証明しようとする法律上の行為がその文書によってされている文書

     例:契約書、遺言書

報告文書:処分証書以外の作成者の見聞・意見等を記載した文書

     例:手紙、日記

このように、処分証書と報告文書は、法律上の行為、すなわち意思表示がその文書によってされているかどうかで判別されます。

この違いが、文書の真正にも大きく影響します。

3-2 処分証書・報告文書と文書の真正

処分証書と報告文書とでは、文書の真正が認められた場合の効果が以下のとおり異なります。

■処分証書の場合

処分証書の真正が認められたということは、特定人が自らの意思で、その文書によって意思表示をしたということになります。

そのため、文書の信用性を検討するまでもなく、意思表示の存在が認められます

■報告文書の場合

これに対し、報告文書の場合、それ自体によって意思表示をしたわけではありませんから、真正が認められたとしても、信用性が認められなければ意思表示の存在は認められません

例えば、「先日の売買契約について」という手紙が存在し、それが特定人の意思に基づいて作成されたとして真正が認められたとしても、実際に売買契約の意思表示があったかどうかは、手紙の信用性を別途検討する必要があるということです。

3-3 処分証書・報告文書と虚偽記載

では、文書の真正は認められた上で、「文書の内容は虚偽である」という主張がなされた場合はどうなるでしょうか。

■処分証書の場合

処分証書の場合、文書の真正が認められた時点で、その文書によって意思表示がなされたことは認められます。

そのため、「文書の内容は虚偽である」という主張は虚偽表示の抗弁(民法94条1項)ということになります。

ということは、内容が虚偽であると主張する側が、かかる抗弁について証明責任を負うことになるのです。

■報告文書の場合

報告文書の場合、真正が認められたとしても、その文書で言及されている意思表示が実際になされたとは限りません。

そのため、「文書の内容は虚偽である」という主張は、意思表示の存在を否認した上で、意思表示がなされたことの証拠である文書の信用性を争うという位置づけになります。

つまり単なる反証であるため、内容が虚偽であると主張する側は、真偽不明に持ち込めば足りるということです。

(もっとも、紛争が顕在化する前に本人が書いた手紙などは信用性が認められやすいので、それを覆す程度の反証は必要となります)

第4章 まとめ

以上のとおり、二段の推定は、

■二段の推定

  • 文書の真正の問題
  • 私文書にのみ適用
  • 一段目は判例、二段目は228条4項
  • 署名の場合、一段目は問題とならない
  • 推定を崩す場合は反証で足りる

というものです。

また、一段目の推定と二段目の推定は、その理由となる経験則の違いから、反証の方法も大きく異なります。

そして、処分証書と報告文書は、意思表示がその文書によってされているかどうかという違いがあり、処分証書は文書の真正が認められれば意思表示の存在も認められます。

この記事を読んで、実際の訴訟で何が問題となるかを具体的にイメージできるようにしましょう。

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