他予備校講師が知らない事前規制が事後規制よりも審査基準が上がる理由と判例の射程
目次
この記事を読んで理解できること
- 北方ジャーナルと札幌税関の違いが分からないと予備試験には合格できない理由
- 事前規制の審査基準が厳しくなる理由
- 表現の自由の事前規制の審査基準が厳しくなる理由~北方ジャーナル事件
- 「事前規制そのもの」と「事前規制たる側面を有する」札幌税関事件
- 北方ジャーナルと札幌税関を使った解法
- 平成20年司法試験憲法~フィルタリングソフト
表現の自由の事前規制は、単に「事前規制だから審査基準が上がる」と答案に書いてしまう人が多いのではないでしょうか。
事前規制だから審査基準が上がるという理由付けを理解せずに上記のように書いてしまう答案については、たびたび司法試験の採点実感で批判されています。
そもそも、なぜ表現の自由の事前規制だと審査基準は上がるのでしょうか。
その理由を聞かれた場合に間髪入れずに説明できますか?
そして、表現の自由の事前規制の重要判例は北方ジャーナル事件と札幌税関事件の二つあるのですが、両者の区別と使い分けを理解していますか?
これらは、司法試験や予備試験で出される頻出中の頻出なのですが、他の予備校講師が理解不足のために、皆さんに適切な解法が伝わっていません。
なので、過去問や問題集を十周しようが解けるようにならないという悲劇が発生しているのです。
基本的知識なのに、ちゃんと教えている人がいない。
なのに、予備と司法で頻出の問題なのです。
そこで、今回は表現の自由の事前規制について、予備試験でも司法試験でもロー入試でも圧勝できる基本的知識と解法を解説しようと思います。
1章:表現の自由の事前規制の審査基準が厳しくなる理由~北方ジャーナル事件
出版差止めに関する北方ジャーナル事件は以下のように述べます。
・北方ジャーナル事件 最判昭和61年6月11日
「表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであつて、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。」
と判示しています。
少しまとめますと、出版差止めは事前規制であるところ、
「表現の自由に対する事前規制」は
ⓐ公の批判を減少させる
ⓑ予測に基づくものであるため、事後規制よりも広汎にわたり易く濫用の虞がある
ⓒ抑止的効果(委縮効果)
があるため
「厳格かつ明確な要件」
においてのみ許されることになります。
ⓐ~ⓒは予備校の論証集でもよく登場するので暗記している人も多いとは思います(覚えていない人はかなりまずいです。)
しかし、「厳格かつ明確な要件」という言葉を暗記している人はかなり少ないと思います。
この言葉は、過去の司法試験でも表現の自由の事前規制が出た場合は、必ずといっていいほど書きます。
これを教えていない予備校講師はモグリなので信用する必要はありません。
その上で、北方ジャーナル事件判決は、出版差止めが「厳格かつ明確な要件」を満たすために、出版差止めの下位規範として
「表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから、かかる実体的要件を具備するときに限つて、例外的に事前差止めが許されるものというべき」
この規範は、普通の予備校でも覚えるように言われているため覚えている人は多いと思いますが、この規範自体は「出版差止め」の場合の規範であり、その他の場合では使うことは少なく、意外と試験で使うことが少ない規範です。
ここで押さえてほしいのは、「厳格かつ明確な要件」を満たすためには条文中に、「明白」「著しく」などの言葉が必要となる可能性が高いということです。
さて、これを理解していただいたうえで、札幌税関事件との比較をしていきましょう。
次がとても大事です。
2章:「事前規制そのもの」と「事前規制たる側面を有する」札幌税関事件
北方ジャーナル事件が「出版の差止め」なのに対し、札幌税関事件は「税関検査」です。
具体的には、性的な表現を有する出版物を日本に入れる前に税関が止めた事案ですが、これに関して札幌税関事件は以下のように判示しています。
これらの二つが以下のように判例上分けられていることを知っていますでしょうか?
このことは、司法試験の答案で書きまくることになります。
出版差し止め = 事前規制
厳格かつ明快な要件
税関検査 = 事前規制たる側面
通常の判断能力を有する一般人の理解において読み取れるか
このことを確認するために札幌税関事件判決を見てみましょう
・札幌税関事件 最判昭和59年12月12日
「税関長の右処分により、わが国内においては、当該表現物に表された思想内容等に接する機会を奪われ、右の知る自由が制限されることとなる。これらの点において、税関検査が表現の事前規制たる側面を有することを否定することはできない。
しかし、これにより輸入が禁止される表現物は、一般に、国外においては既に発表済みのものであつて、その輸入を禁止したからといつて、それは、当該表現物につき、事前に発表そのものを一切禁止するというものではない。また、当該表現物は、輸入が禁止されるだけであつて、税関により没収、廃棄されるわけではないから、発表の機会が全面的に奪われてしまうというわけのものでもない。その意味において、税関検査は、事前規制そのものということはできない。」
つまり、判例は上述のとおり①「事前規制そのもの」と②「事前規制たる側面を有する」ものと二つに分けて考えているわけです。
そして、札幌税関型は日本に輸入できないだけであり、海外における表現自体を規制したり、出版物を廃棄したりするものではないため①「事前規制そのもの」ではないが、②「事前規制たる側面を有する」としているのです。
このことが司法試験や予備試験を解くために極めて重要になります。
(なのに、既存予備校では一切教えていない。当たり前なのに。)
3章:北方ジャーナルと札幌税関を使った解法
まず、おさらいをします。判例は下のように事前規制を二つに分けています。
出版差し止め = 事前規制
厳格かつ明快な要件
税関検査 = 事前規制たる側面
通常の判断能力を有する一般人の理解において読み取れるか
上の①北方ジャーナル型(「事前規制そのもの」)と②札幌税関型(「事前規制たる側面を有する」)で上下に分かれています。
では、出題はどのようにされるかというとその中間が出てくるわけです。
上図のように、①北方ジャーナル型と②札幌税関型のいずれに近いのかを、事前規制が厳格に審査される3つの趣旨に照らして検討していくことになります。
3つの趣旨
ⓐ公の批判を減少させる
ⓑ予測に基づくものであるため、事後規制よりも広汎にわたり易く濫用の虞がある
ⓒ抑止的効果(委縮効果)
では、最後にこの解法を使って、実際に司法試験の良問を一緒に解いていきましょう。
4章:平成20年司法試験憲法~フィルタリングソフト
平成20年新司法試験試験問題 論文式試験(公法系科目)
(事案の概要)
平成20年司法 スマホやパソコンなどにフィルタリングソフト搭載が義務付けられ、未成年に有害と判断された有害サイトは閲覧できなくなった。
大人は、お金を払えばフィルタリングソフトを解除して、有害サイトを閲覧することは可能である。
この事例も解法どおりに
①北方ジャーナル型と②札幌税関型のいずれに近いかを検討することになります。
この場合、「HP作成自体は禁じられないが、フィルタリングソフトで閲覧が邪魔されている」ことと「海外では出版自由だが日本には入ってこない」こととにおいて、②札幌税関型に近いように思えます。
したがって、国の反論としては、「事前規制そのもの」ではないと言っていくことになります。
他方、私見ではどのように展開するでしょうか。
解法では、①北方ジャーナル型と②札幌税関型を分けるのは3つの趣旨を使うといいましたね。
ⓐ公の批判を減少させる
ⓑ予測に基づくものであるため、事後規制よりも広汎にわたり易く濫用の虞がある
ⓒ抑止的効果(委縮効果)
実は、平成20年の事例と札幌税関はⓒの委縮効果が全く違います。
札幌税関事件は、日本に輸入ができなくても海外で出版することについて委縮効果は発生しません(「日本に輸出できないなら表現をやめておこう」とはならない)
他方、平成20年司法の問題で「有害指定」されると、フィルタリングがかけられⓐ思想の自由市場がから排除されますので、「有害指定されたくない」というⓒ委縮効果が発生するのです。
表現の萎縮効果小さい
表現の萎縮効果大きい
なぜなら「有害指定」されたくない
そして、有害かどうかは予測に基づくものでありⓑにも該当します。
したがって、ⓐⓑⓒすべてに該当するため北方ジャーナル型の①「事前規制そのもの」に該当することになります。
したがって、「有害指定」されるものかどうかの要件は
「厳格かつ明確な要件」が必要となります。
5章:まとめ
このように、過去問においてこのような解法が当たり前となっています。
例えば、令和元年司法もそれをしなければ解けません。
憲法学者の司法試験解答などでも、表現の自由の事前規制については必ず①「事前規制そのもの」か②「事前規制たる側面を有する」のいずれかを検討しています。
わかっていないのは、あなたの通っている予備校の講師とあなただけなのです。
司法・予備で頻出なので、ここでしっかりと理解を深めていただけると幸いです。
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