【内容中立規制?】ビラ配り・ビラはり・立看板の問題は実質的に内容規制になっている構造に着目せよ【屋外広告物条例事件】
目次
この記事を読んで理解できること
- 一般的には内容中立規制と考えられていることをおさえる
- 実質的に内容規制であることの指摘
- ビラ・立看板はマスメディアに対抗する社会的弱者の切り札
- 他の人権への応用
令和6年7月現在、司法試験に二回出てるくらい頻出なのに、予備試験でまだ出ていないのは未成年に対する有害図書規制(岐阜県青少年保護育成条例)です。
このような問題の注意点は、
①未成年規制が同時に成人の知る権利の規制になっていること
②「未成年」と「成人」では審査基準が下がる理由がそれぞれ異なる
③成人への制約が間接的・付随的制約にとどまるか
を検討することになります。
この解法を普通の予備校ではなぜか教えていないことが多いため、岐阜県青少年保護育成条例事件を参照にしながら、解説していきます。
なお、未成年の知る権利については司法試験で頻出中の頻出なのでしっかりマスターしましょう。
第1章 一般的には内容中立規制と考えられていることをおさえる
一般的に、ビラ貼り行為や立看板規制は、時・所・態様の規制の典型例と理解されています。
ビラなどに記載されている内容について害悪であるとして排除しているわけではないからです。
判例においても、大分県屋外広告物条例事件や大阪市屋外広告物条例事件などにおいては立看板やビラ張りについては、以下のように「美観風致を維持」や「公衆に対する危害防止」するためにビラ張りなどの規制をすることは「公共の福祉のため」に必要且つ合理的な制限と考え合憲としています。
・大阪市屋外広告物条例事件 最判昭和43年12月18日
「国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であるから、この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要且つ合理的な制限と解することができる。」
・大分県屋外広告物条例事件 最判昭和62年3月3日
「大分県における美観風致の維持及び公衆に対する危害防止の目的のために、屋外広告物の表示の場所・方法及び屋外広告物を掲出する物件の設置・維持について必要な規制をしているところ、国民の文化的生活の向上を目途とする憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉を保持する所以であり、右の程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限と解することができる」
まず、このことをおさえましょう。
具体的な問題検討では、公権力側の反論において、上記判例などを指摘して内容中立規制であることを主張していくことになります。
問題はここからなのです。
既存の予備校はここで終わっていないでしょうか。
以下、この問題の本質を説明していきます。
第2章 実質的に内容規制であることの指摘
確かに、ビラ配りなどの規制は、すべての主体に対して規制が平等に及ぶため、「特定の思想」を攻撃するものではありません。なので、内容中立規制とされています。
タテマエ上は、、、、
果たして、「本当に平等に表現の自由に対する規制がなされているのでしょうか、、、?」
ここが最大の山場です。
ここで皆さんにお聞きしたいことがあります。
例えば、有名な大手企業が新商品を出すときに、ビラ配りやビラ張りや立看板を行うでしょうか。
ポケモンの新作を出すときにどのように国民に届けますか?
テレビなどのマスメディアを使えますよね?
また、自民党など大きな政党の政治家が自分の見解を述べるときもテレビなどマスメディアを使えます。
つまり、
社会的強者はビラ配りや立看板などする必要がないので、ビラ・立看板規制をされたところで、痛くもかゆくもないということ
ここが問題なのです。
ビラ配り・ビラはり・立看板系の問題は、形式的にはすべての人に規制が及びます。しかし、
実質的にダメージが大きいのは、マスメディアを使えない少数弱者なのです。
つまり、ビラ・立看板規制は社会的多数派が少数弱者を構造的に排除するための嫌がらせ規制であることを理解してください。
憲法判例百選55判決(大阪市屋外広告物条例事件)の解説4を引用します。
・大阪市屋外広告物条例事件 百選解説 憲法判例百選Ⅰ(第7版) 123頁〔西土彰一郎〕
「ビラ貼り行為に頼らざるをえない者の表現活動に内容差別的効果を及ぼすこと、他の表現行為類型では表現内容が届く受け手の層が異なり得ることなどに照らせば、この種の表現内容中立的な全面的規制は、表現の自由の個人的・社会的価値に対し「内容規制」に匹敵する脅威を与える」(注:下線は筆者が追記)
このように少数者を巧妙に排除することを見抜くための学問が憲法学であり、その力をつけた人は憲法をもう勉強する必要がないといえます。
次の章ではここを深彫りしていきます。
第3章 ビラ・立看板はマスメディアに対抗する社会的弱者の切り札
ここで、ビラ配りや立看板について、伊藤正己裁判官の重要な補足意見を見ていきましょう。
・ビラ配り 吉祥寺駅構内ビラ配布事件 最判昭和59年12月18日 伊藤補足意見
「一般公衆が自由に出入りすることのできる場所においてビラ配布することによつて自己の主張や意見を他人に伝達することは、表現の自由の行使のための手段の一つとして決して軽視することのできない意味をもつている。特に、社会における少数者のもつ意見は、マス・メディアなどを通じてそれが受け手に広く知られるのを期待することは必ずしも容易ではなく、それを他人に伝える最も簡便で有効な手段の一つが、ビラ配布であるといつてよい。いかに情報伝達の方法が発達しても、ビラ配布という手段のもつ意義は否定しえないのである。この手段を規制することが、ある意見にとつて社会に伝達される機会を実質上奪う結果になることも少なくない。」(注:下線部は筆者が追記)
このように、実質的にはマス・メディアに頼ることができない少数者は、ビラ配りや立看板に頼らざるを得ません。
つまり、少数弱者にとって、ビラ配りや立看板は自己の表現を全国民に伝えるための「切り札」であり、その「切り札」を奪われるビラ・立看板規制は強力な規制です。
つまり、以下の図のように、一見平等な規制に思えて、実質的には政府にとって都合の悪い少数者の思想を構造的に排除しようとする規制であり、実質的に内容規制と考えることができるのです。
「でも、具体的にどのように論証したらいいかわかりません。」
という方も多いため、以下に主張反論の具体例を書いておきますね。
(主張反論パターン)実際の効果において内容着目 ビラ貼りの場合 ヨビロン158頁
(主張反論パターン)実際の効果において内容着目 ビラ貼りの場合 ヨビロン158頁
(反論)
ビラ貼り規制は時・所・方法に着目した内容中立規制であり、公権力の恣意的濫用のおそれがなく審査基準を緩めるべきである。
(私見)
内容規制原則禁止の趣旨は、思想の自由市場の歪曲防止と規制者の不当な動機の排除にある。ビラ張りの全面禁止は、マスメディアを利用できず最も簡便で有効な表現媒体を奪われる少数者に対して不同等な衝撃を与えることで、少数者を思想の自由市場から構造的に排除する規制である。
よって、形式的には時・所・方法に着目した規制であっても、その効果に着目すれば実質的に内容規制であると解することができ、審査基準を緩めることは許されない。
第4章 他の人権への応用
最初に申し上げたとおり、ビラ・立看板が分かると憲法のすべてが分かっていることになります。
それはなぜかというと、他の人権でも同様の問題が起きているからです。
政府だって、内容着目規制が許されないことはわかっています。なので、それをかいくぐるために、「形式的には内容中立規制」の体をとって法律を作るのです。
1 戸別訪問規制
具体的に問題になるのは、まず、戸別訪問規制です。
戸別訪問規制は、日本では禁止されており、判例もそのことを合憲としています。
しかし、自民党など有名政党にとって、戸別訪問を禁止されて大きなダメージはありますでしょうか。
自民党などの政治家は、マスメディアを使った政見放送やメディア戦略で自己の基盤を確保することができます。
他方、新しい少数政党や無所属の政治家などは、どうしてもマスメディアを使った戦略が難しい。
とすれば、地道な戸別訪問戦略をとるしかありませんね。
したがって、戸別訪問規制は実質的には弱者政党や無所属の政治家を構造的に排除することを目的とする規制なのです。
2 営利的表現の規制
意外に思われるかもしれませんが、営利的表現の制約は弱者にとって強烈な規制です。
例えば、予備試験・司法試験予備校業界において、「ツイッター(X)においては予備校講師は広告のためのポストをすることを禁ずる」という法律ができたとしましょう。
この場合、「予備校講師」全員に適用されるため平等な規制です。
〇〇塾さんなどのような大手さんにも平等に適用されます。
しかし、実質的にツイッター規制で一番ダメージを受けるのは、私のようなまだ小さい予備校です。
大手さんに比べ資金も知名度も十分ではありませんから大々的に広告を打てません。なので、ツイッターなどで地道に実力を示していくしか方法がない。
なのに、ツイッターでの発言を規制されると、新規予備校は自己の実力を示すことが不可能になります。
つまり、「内容中立規制だから審査基準を弱める」と簡単に言うことはできません。
皆さんも、弁護士になって独立するときに広告・営業規制が、新米独立弁護士にとって非常に大きな独立の壁となって現れます。
このことをイメージすると少しわかるのではないでしょうか。
第5章 まとめ
以上のように、ビラ・立看板規制は「形式的には内容中立規制」であるが、実質的にはマスメディアを使えない少数者を構造的に排除する「内容規制」であるということを理解して、問題を分析してみてください。
何度もいいますが、公権力側や出題者は形式的には「内容中立規制」に見える法律を作ってきます。
その本質を見抜いてくださいというのが予備試験・司法試験レベルですので、「内容中立規制なので審査基準を若干下げる」とただ述べるだけでは、正直「この問題は憲法の問題です」と答案で書いているに等しい間抜けな答案になるといことを理解していただけたらと思います。
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