【完全保存版】みんな苦手な生存権の解法をフルセット紹介!裁量統制の手法と合わせて拡張解釈による救済法を知ろう!!【立法裁量・行政裁量】
目次
この記事を読んで理解できること
- 生存権は原則、裁量問題
- 生活保護法に慣れておこう
- 生存権が出題されたらまず立法裁量と行政裁量に分けよ
- 裁量統制の3つの手法
- 憲法適合解釈による救済(拡張解釈)
生存権が出たら目的手段審査や三段階審査をすることができず、かなり困ってしまう受験生も多いかと思います。
今年「生存権出たらどうしよう、、、」と悩んでいる受験生も多いのではないでしょうか。
しかし、実は生存権はむしろ判例が少ないため、精神的自由や経済的自由のような判例の射程を駆使して問題を解くということがあまりありません。
逆に少ない解法だけ覚えていれば解けてしまうため、「生存権が出題された方がラッキー」と本来は思ってほしいのです。
本記事を見れば、生存権の一般的な解法を網羅的に説明し、この記事を見るだけで生存権についてどのように出題されても合格点レベルで打ち返すことができるようになります。
この記事で生存権に対する恐怖心がなくなれば幸いです。
第1章 生存権は原則、裁量問題
・憲法25条
1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2項:国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
まず、生存権は抽象的権利である以上、憲法から直接、国に対して請求することはできません。
生存権は、それを具体化する法律が必要なのです。
具体的には、生活保護法が典型例です。
ちなみに、「具体的立法により生存権が具体化する」以上、「生活保護法等の具体化立法は憲法の生存権に関する条文として扱ってよい」ということと同義と考えてよいことになります。
なので、基本的に個別法が問題文に与えられており、かつ、それが生存権の具体化立法の場合は、「憲法の条文」と思って解きましょう。
そしてこのように、立法を経て初めて権利が具体化する以上、立法府の制度構築における立法裁量が尊重されるため、基本的に「生存権の制約」というものは観念できません。
また、財源の配分の問題もあることも、裁量が尊重される理由です。
生存権は基本的にはお金の給付の問題ですから、財源が国民の税金等から賄われるその分配についても専門的・技術的判断が必要なのです。
第2章では、生存権が具体化した法律の典型例である生活保護法について詳しく見ていきましょう。
第2章 生活保護法に慣れておこう
生存権が苦手な人は個別法に慣れていないだけの可能性があるため、生活保護法だけでも慣れ親しんでいると恐怖心が減ります。
そこで、生活保護法の基本的な条文を以下に記載します。
・生活保護法
(この法律の目的)
第一条
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第二条
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第三条
この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
1 生活保護法が憲法25条1項の具体化立法である根拠
まず、生存権の問題で個別法が与えられている場合は、「なぜこの条文が生存権の具体化立法であるのか」を指摘する必要があります。
生活保護法は、明らかに生存権保護立法なのですが、いったん精密に考えてみましょう。
例えば、1条に「最低限度の生活」、3条に「最低限度の生活」、「健康で文化的な」という文言があるのがお判りでしょうか。
この文言は、憲法25条1項の文言と全く同じ文言を使っていることが分かります。このことから、生活保護法は憲法25条1項を意識して作られたものだとわかり、具体化立法であるといえることになります。
なお、平成22年司法試験憲法で出題されたホームレスの自立の支援等に関する特別措置法も憲法25条1項を意識した文言があるので、以下に記載しておきます。
・ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法
第一条
この法律は、自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し、健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに、地域社会とのあつれきが生じつつある現状にかんがみ、ホームレスの自立の支援、ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し、国等の果たすべき責務を明らかにするとともに、ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、必要な施策を講ずることにより、ホームレスに関する問題の解決に資することを目的とする。
2 無差別平等
生存権の問題でよく使うことになるのが、生活保護法2条です。
「すべて国民は」「無差別平等に」保護を受けることを規定しています。
これが、生存権の裁量統制や生活保護法の解釈でよく使う条文となります。
第3章で述べる裁量統制においては、自分が支給されず他人が支給されるような場合に、平等原則違反であることを指摘する裁量統制が存在します。
その際に、この生活保護法2条の「すべて国民は」「無差別平等に」保護されることを指摘して、不平等が違憲・違法であることを補強していく答案を作っていくことになります。
第3章 生存権が出題されたらまず立法裁量と行政裁量に分けよ!
まず、生存権の問題が出たらなによりもまず先に必ずやるべきことがあります。
それは、
問題となっている裁量が立法裁量か行政裁量か分けよ!
ということです。
立法裁量と行政裁量とでは考えている場面が異なり、実際上の処理も異なります(そもそも使う判例が異なります。)
1 立法裁量
まず、立法裁量の場合は、堀木訴訟や学生無年金訴訟を利用していくことになります。
立法裁量は、「制度を無から構築する場面」である以上、基本的には国に広範な裁量が認められます。
下図の赤い部分が立法裁量です。
ですので、堀木訴訟や学生無年金訴訟も、「著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない」と述べています。
「著しく」「明らかに」という文言からわかる通り、違憲になるケースはほぼないと言って過言ではありません。
・堀木訴訟
「憲法二五条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。」
実際に出題された場合も、制度構築の場面である立法裁量については合憲とする結論にもっていくことが多いように思えます。
2 行政裁量
先ほどお見せした図をもう一度示しましょう。
今度は青い方に着目してください。青い方が行政裁量となっています。
行政裁量は「既に存在する法律に基づく処分」であり、親分である「法律」の趣旨の範囲内でのみでしか処分を下せないので法の趣旨による拘束を受けやすく、裁量が立法裁量に比べると小さいのです。
第4章では、具体的な裁量統制の手法を見ていくことにしましょう。
3 【発展】裁量の広狭について、「財源の出どころ」がどこなのかを必ず問題文で確認せよ!
さて、生存権の問題を読むときに、漫然と読むのではなく注意して読むべき部分があります。
それは財源の問題、すなわち
「お金の出どころがどこか」というところです。
お金を出すところが決定権(裁量)を有するということです。
実は、これは裁量の広い狭いを主張反論する際に、司法試験において頻出で問題文に必ずと言っていいほど記載があるのです。(生存権が財源との関係が密接である以上当然なのですが。)
例えば、生活保護申請の不許可が問題となった平成22年司法においては、
「生活保護のための財源は,国が4分の3,都道府県や市,特別区が4分の1を負担する。」
との記載があります。
生活保護を支給するかどうかの決定権は市にあるところ、
市側は財源の「4分の1」負担していることから、生活保護支給について裁量の広さを主張することになります。
「お金を出すものに支給対象の決定権がある」という理屈です。
それに対して、私見で反論するならおそらく、そうはいうものの生活保護法を制定した国が「4分の3」も負担しており、生活保護法は「すべて国民」に「無差別平等」(生活保護法2条)に保護しようとしている以上、市の完全な裁量で不支給を決定することはできないと解されます。
(いわば、市も株主であるものの、国がさらに大株主という関係)
また、令和5年司法試験憲法においても、財源について記載があります。(令和5年司法試験憲法は、新遺族年金制度を構築する問題です。)
「新遺族年金の財源は、国民年金の保険料、厚生年金の保険料及び国庫負担金によって賄われ、新遺族年金の保険料は独自には徴収しない。」
独自の保険料を徴収しないということが何を意味するかというと、新遺族年金の財源が他の財源を食うわけなので、その配分について広範な立法裁量が認められてしまうことになります。
第4章 裁量統制の3つの手法
この章では裁量を統制する3つの手法を解説します。
1 判断過程統制
裁量行使において判断の過程について審査するのが判断過程統制です。
これは、行政法においてもよく出てくる裁量統制なので、行政法が分かる人は同じことをしていると思ってください。
具体的には、
考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮する場合に、裁量の逸脱濫用があると考える。
生存権の場合の考慮すべき事項はいろいろありますが、代表的なものは「現在の生活条件」です。
受験生はあまり教えてもらってない人が多いのですが、「現在の生活条件」を考慮すべきというのは、朝日訴訟の以下の判示からわかります。
・朝日訴訟 最判昭和42年5月24日
「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されており、その判断は、当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合には、違法な行為として司法審査の対象となることをまぬかれない。」
この判示から、「現実の生活条件」を無視することは「考慮すべき事項を考慮していない」と判示されることになります。
「現在の生活条件」の具体例は病気です。
病気の程度によりますが、病気であるにもかかわらず、そのことに着目せず生活保護の不支給をするような場合は、生存権の趣旨からして「考慮すべき事項を考慮していない」ので違憲・違法とされるわけです。
平成22年司法試験憲法も、生活保護不支給処分がされた原告は、「胃弱」という病気を患っていました。
2 平等原則違反(憲法14条1項)
行政法でもよくやる手法ですが、裁量統制において、平等原則違反(憲法14条1項)の審査は重要な統制手法です。
自分は給付を受けることができなかったのに、同様の状況にある他の人は給付を受けている場合は、平等原則違反を主張していくことになります。
特に、生活保護の場合、生活保護法2条に「無差別平等」がありますから、平等原則の要請がさらに強くなると思われます。
なお、立法裁量の問題においては、堀木訴訟や学生無年金訴訟において、憲法25条の審査基準にひっぱられて、かなり広範に立法裁量を認めるものとなっていることは知っておきましょう。
特に、「生活保護法などの他の諸制度があること」が「合理的理由のない」差別ではないことの根拠とされています。
このことは令和5年司法試験憲法でも聞かれています。
・堀木訴訟 最判昭和57年7月7日
「とりわけ身体障害者、母子に対する諸施策及び生活保護制度の存在などに照らして総合的に判断すると、右差別がなんら合理的理由のない不当なものであるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができる。」
・学生無年金訴訟 最判平成19年9月28日
「障害者基本法、生活保護法等による諸施策が講じられていること等をも勘案すると、平成元年改正前の法の下において、傷病により障害の状態にあることとなったが初診日において20歳以上の学生であり国民年金に任意加入していなかったために障害基礎年金等を受給することができない者に対し、無拠出制の年金を支給する旨の規定を設けるなどの所論の措置を講じるかどうかは、立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであって、そのような立法措置を講じなかったことが、著しく合理性を欠くということはできない。」
3 給付の撤回・縮減
これも令和5年司法試験で出題されていますが、既に存在した支給額を下げたり、支給基準を厳しくなる場合は、裁量統制の中で詳細に審査されます。
かつては、「制度後退禁止」が学説で主張され、給付の撤回・縮減のケースにおいて、受験生はよく「実質的制約」があると述べたうえで目的手段審査することが当たり前に行われていました。
しかし現在は、支給基準の改定の事案である老齢加算廃止事件において、制度後退禁止は採用されず、裁量統制のなかで、従来支給されてきた人の「期待的利益」に対して「可及的に配慮する」という手法が採られます。
具体的には、激変緩和措置が採られているかどうかを審査します。
・老齢加算廃止事件 最判平成24年2月28日
「厚生労働大臣は,老齢加算の支給を受けていない者との公平や国の財政事情といった見地に基づく加算の廃止の必要性を踏まえつつ,被保護者のこのような期待的利益についても可及的に配慮するため,その廃止の具体的な方法等について,激変緩和措置の要否などを含め,上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。」
激変緩和措置とは、例えば、今まで月6万円の支給を受けていた人が、ある日いきなり5万円支給に減額されると生活に対する影響が大きいといえます。
したがって、減額するにしてもある程度の年月を経て徐々に減らしていく「配慮」が必要となります。
老齢加算廃止事件においても、専門委員の意見に従い3年間にわたり段階的に減額・廃止したことをもって、激変緩和措置が採られていたため、期待的利益に反したものではなく、裁量の逸脱・濫用はないと判断しています。
※なお、老齢加算廃止事件は、厚生労働大臣が定める保護基準の改定であり、行政裁量が問題となった判例です。
ですので、立法裁量が出題された場合に、ただちに老齢加算廃止事件が使えるかどうかは、必ず検討して指摘してください。
第5章 憲法適合解釈による救済(拡張解釈)
裁量統制が生存権の基本的な解法なのですが、もう一つ、憲法適合的に「拡張解釈」するという解法が存在します。
こちらは、よくよく考えてみると当たり前なので、書籍にあまり載っていないのですが、最高裁でも使われている手法であり、試験でも問われる可能性があるため解説します。
これは、問題文に個別法が与えられていた場合、生活保護等の給付要件を生存権の保障を確保するために拡張的に解釈することで、国民を救済するという解法となります。
拡張解釈による救済は予備校ではあまり聞いたことがないかもしれませんが、実は生存権の性質を考えれば当然といえます。
自由権と(生存権を含む)社会権は真逆の権利であることはお分かりになると思います。
自由権は、「国家からの自由」とも呼ばれ国家による干渉を回避する権利です。
他方、
社会権は、「国家への自由」とも呼ばれ国家に給付や補償を求める権利です。
つまり、国家に対するアプローチが真逆です。
とすれば、法解釈においても生存権は自由権と真逆のアプローチをとることが論理的な帰結になります。
すなわち
・自由権が法を限定解釈して救済する
に対して
・生存権は法を拡張解釈して救済する
ことになります。
具体的には以下の図を見てください。
判例でも生存権分野において拡張解釈をすることで救済した有名な判例が存在します。
それが中嶋訴訟です。
中嶋訴訟は別記事で解説しますが、簡単に言うと生活保護法上は「義務教育」としか記載がないにもかかわらず、高校進学者にも適用されるように拡張的に解釈した判例です。
・中嶋訴訟 最判平成16年3月16日
「生活保護法上、被保護世帯の子弟の義務教育に伴う費用は、教育扶助として保護の対象とされているが(同法11条1項2号、13条)、高等学校修学に要する費用は保護の対象とはされていない。しかし、近時においては、ほとんどの者が高等学校に進学する状況であり、高等学校に進学することが自立のために有用であるとも考えられるところであって、生活保護の実務においても、前記のとおり、世帯内修学を認める運用がされるようになってきているというのであるから、被保護世帯において、最低限度の生活を維持しつつ、子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは、同法の趣旨目的に反するものではないというべきである。」
・生活保護法13条
「教育扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 義務教育に伴つて必要な教科書その他の学用品
二 義務教育に伴つて必要な通学用品
三 学校給食その他義務教育に伴つて必要なもの」
第6章 まとめ
以上のように、生存権は基本的に裁量統制が解法となります。三段階審査や目的手段審査をするケースは今の司法試験や予備試験ではまずないと考えてよいでしょう。
裁量統制でまず大事なのは、立法裁量と行政裁量のいずれかを確認することでした。
それを確認した後は、①判断過程統制、②平等原則、③給付の撤回・縮減の統制などの裁量統制の手法を行うことが解法となります。
また、個別法が与えられている場合は、支給要件などを拡張解釈して、広く支給を認める方向に解釈する手法も知っておくと穴がなくなるでしょう。
この記事を復習するだけで、ほとんどの生存権の問題は解けるようになっていますので、ぜひ何度も読み返してみてくださいね。
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