【完全保存版】プライバシーは3つに分けよ!予備校の教えるプライバシー権の理解では予備試験・司法試験には対応できないことを解説します【京都府学連・住基ネット訴訟・前科照会事件・早稲田大学江沢民事件・指紋押捺事件】
目次
この記事を読んで理解できること
- プライバシー権の3つの文脈
- 固有情報と周縁情報
プライバシー権の問題が出たとき、すぐに京都府学連事件を使っているのであれば、断言しましょう。
あなたはプライバシー権の問題で高得点はとれません。
京都府学連事件はプライバシー権の有名な重要判例ですが、答案で使える文脈は限定されています。
実はプライバシー権は3つの文脈が存在するのですが、現状の予備校ではそのことをきちんと教えていないようです。
しかし、最近の有名な憲法の書籍には、必ずそのことは言及されており、判例の理解として最もそれが整合的である以上、予備試験受験生や上位ロー受験生は、完全に整理しそれを知っておかなければなりません。
そこで、この記事では、「プライバシー権の3つの文脈」を含む4つの解法を網羅的にお伝えし、どんなタイプのプライバシー権の出題があったとしても打ち返すことができるようにしたいと思います。
この記事を何度も読み込んでプライバシー権をマスターしてくださいね。
第1章 プライバシー権の3つの文脈
結論から言いましょう。
プライバシー権は①情報収集、②情報管理・保管、③情報開示・漏洩の3つの文脈が存在します。
そして、それぞれに対応する判例を整理すると以下の図のようになります。
何人も、その承諾なしに、みだりに〇〇されない自由
情報が容易に漏えいする具体的な危険
・漏えいの具体的危険
・漏えいについての懲戒・懲罰
・適切な取扱いを担保する制度
・前科紹介
人の名誉、信用に直接かかわる ▶ 格別の慎重さ
・早稲田大学江沢民 ex氏名、住所
取扱い方によっては人格権侵害 ▶ 慎重さ
1 情報の収集の文脈
まず、情報収集の文脈の典型例は、京都府学連事件です。
京都府学連事件は、学生デモが事前の許可条件に違反する行進があったとして、監視していた巡査が、デモ隊の先頭の行進状況を写真撮影した事案です。
これについて最高裁は
・京都府学連事件 最判昭和44年12月24日
「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。」
と述べています。
「容ぼう・姿態を撮影されない自由」というのは、自己の情報を「公権力に収集されない自由」ということです。
ですので、京都府学連事件は公権力に収集されない自由の文脈で使うのが一般的となります。
なお、撮影以外が出題されることも多いことに鑑みて、「何人も、その承諾なしに、みだりに〇〇されない自由を有する」と一般的な規範をストックしておいて、問題ごとに「〇〇」に当該問題となっている公権力の行為を入れることになります。
例えば、平成28年司法試験では、性犯罪者の行動把握のために、GPSを体に埋め込むことの合憲性が問題となりましたが、このような撮影以外の行為についても、「何人も、その承諾なしに、みだりにGPSにより自らの行動を監視されない自由を有する(京都府学連事件参照)。」
などと人権を設定していくことになります(GPS捜査についての平成29年3月15日判決を引用しても良いでしょう)。
しかし、この規範だけでは審査基準は決まりません。
例えば、京都府学連事件では公道での写真撮影であったことから、厳格審査基準ではなく、比例原則により判断しています。
収集事例において、どのような権利・利益が収集されているかを検討してようやく審査基準が決まるのです。
2 情報の保管・管理の文脈
情報の保管・管理の文脈で重要な判例は住基ネット訴訟です。
まず、住基ネット訴訟の事案の説明をします。
従来、住民基本台帳の情報は各市町村においてのみ利用されていたところ、法改正により基本4情報(氏名・生年月日・性別・住所)等の本人確認情報を、市町村・都道府県・国の機関で共有して確認できるネットワーク(住基ネット)を形成しました。
これに対して、住基ネットによりプライバシーが侵害されたとして、基本台帳を補完するY市に対してXが訴訟を提起しました。
さて、ここでは既に情報の収集は済んでいます。しかし、公共団体保有の情報が漏洩したという事実もありません。
つまり、いまだ情報が漏洩していない段階で、保管・管理している状態そのものがプライバシー権を侵害するのではないかという問題です。
まず、住基ネット訴訟判決は以下のようにプライバシー権を構成します。
・住基ネット訴訟 最判平成20年3月6日
「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。」
これは、京都府学連事件の「容ぼう・姿態を撮影されない自由」の部分を「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」に入れ替えたものです。
そのうえで、「みだりに第三者に開示又は公表されたか否か」について、具体的事情に照らして
「本人確認情報が…第三者に開示又は公表される具体的な危険が生じている」かどうか
を考えています。
そして、「開示又は公表される具体的な危険」の有無については、以下の3つの事実が存在することから否定しています。
①システム上の欠陥等により漏洩する具体的危険がない
②漏洩についての懲戒・刑罰規定が存在する
③本人確認情報保護委員会を設置し、本人確認情報の適切な取扱いを担保する制度的措置を講じている
以上より、住基ネット訴訟系の管理文脈の問題が出た場合は「具体的な危険」の有無という規範を立てたうえで、上記①~③の事実があるかどうかを問題文から探すことが解法となります。
収集文脈と解法が全く異なることがお判りになるのではないでしょうか。
3 情報の開示の文脈
最後に、情報の開示の文脈です。
情報の開示・漏洩は、プライバシー権侵害が具体的に発生しているため、3つの文脈のうちで最も13条違反になる可能性が高いです。
現に、開示の文脈で問題となる重要判例は、前科照会事件と早稲田大学江沢民事件なのですが、いずれも損害賠償を認めています。
ここで、ポイントなのは、前科照会事件と早稲田大学江沢民事件で規範が異なるということなのですが、そのことについて次の章で深彫りしていきましょう。
第2章 固有情報と周縁情報
1 前科紹介事件~固有情報(人格権に「直接にかかわる」)
まず、前科と氏名・住所・電話番号ならどちらが要保護性が高いかと聞かれた場合、即答で前科の方が要保護性が高いと述べることができなければなりません。
前科照会事件では前科について以下のように述べてます。
・前科照会事件 最判昭和56年4月14日
「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であ」る。
その上で、「その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。」
と述べています。「格別の慎重さ」という言葉を必ず覚えてください。答案に書きます。
このように、人格権に「直接にかかわる事項」の開示の場合は「格別の慎重さ」が求められることになります。
このような人格権に「直接かかわる事項」のことを固有情報や核心情報といいます。
答案では前科のような固有情報の制約については厳格審査基準を採用することになりましょう。
2 早稲田大学江沢民事件~周縁情報(「取扱い方によっては」)
早稲田大学事件で問題となった情報は、氏名・住所・電話番号・学籍番号(「本件個人情報」という。)です。
ここで注意すべきなのは、氏名・住所・電話番号などは一般的に知られたくない情報といえますが、憲法判例上は要保護性が低い情報として扱われています。
例えば、早稲田大学事件や同じく住所・氏名などが問題となった住基ネット訴訟では以下のように判示されています。
・早稲田大学江沢民事件 平成15年9月12日
「学籍番号、氏名、住所および電話番号は、早稲田大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。」
・住基ネット訴訟
「住基ネットによって管理、利用等される本人確認情報は、氏名、生年月日、性別及び住所から成る4情報に、住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、変更情報も、転入、転出等の異動事由、異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので、これらはいずれも、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。」
したがって、前科のような人格権に「直接にかかわる」固有情報とは異なり、その取扱いについては以下のように判示されています。
・早稲田大学江沢民事件
「このようなプライバシーに係る情報は、取扱い方によっては、個人の人格的な権利利益を損なうおそれのあるものであるから、慎重に取り扱われる必要がある。」
ここでポイントなのは、「取扱い方によっては」人格的利益を損なうため「慎重に」取り扱う必要があるという点です。
人格権に「直接かかわる」情報(固有情報)ではなく、「取扱い方によっては」人格的利益を損なう情報のことを周縁情報といいます。
周縁情報については、前科照会事件と異なり、「格別の」という文言がありません。
なので、
以上まとめると、
「格別の慎重さ」テスト(厳格審査)
例:前科
「慎重」テスト(中間審査)
例:氏名・住所・電話番号
という判例の基準が見出せます。
3 指紋
さて、ここまでの説明で指紋は固有情報と周縁情報のいずれに該当するかわかりますでしょうか。
指紋押捺事件を見てみましょう。
・指紋押捺事件 最判平成7年12月15日
「指紋は、指先の紋様であり、それ自体では個人の私生活や人格、思想、信条、良心等個人の内心に関する情報となるものではないが、性質上万人不同性、終生不変性をもつので、採取された指紋の利用方法次第では個人の私生活あるいはプライバシーが侵害される危険性がある。このような意味で、指紋の押なつ制度は、国民の私生活上の自由と密接な関連をもつものと考えられる。」
「個人の内心に関する情報となるものではない」、「利用方法次第では」という文言から、早稲田大学江沢民事件に文言が類似しており、指紋は判例上周縁情報として扱われていることが分かると思います。
指紋について、「万人不同性、終生不変性」という言葉だけ覚えさせられてなんとなく、要保護性の高いプライバシーと思っていた人も多いのではないでしょうか。
しかし、判例上、指紋は前科よりも要保護性が低いものとされていることがここまでの解説でわかっていただけたと思います。
第3章 まとめ
以上より、プライバシーについて
問題となっている状況について、収集 ▶ 管理 ▶ 開示の3つの文脈に分けよ。
固有情報と周縁情報のいずれであるか指摘し、審査基準を分けよ
という解法が導かれることになります。
プライバシー権は奥が深く他にも重要な解法が存在するのですが、それはまた別記事で解説することとします。
記事~プライバシーの解法~
しかし、今回で学んだ解法がプライバシー権の基本中の基本ですので、他の解法を勉強する前にしっかりと固めてくださいね。
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