【司法試験頻出】予備校では教えてもらえない!大学が教授の学問の自由を制約する場合の問題の処理法【大学の自治】
目次
この記事を読んで理解できること
- 公権力による学問研究の自由の制約
- 大学による学問研究の制約
- 司法試験での出題のされ方
一般的に予備校で学問の自由を習うとき、国によって教授の学問研究の自由が制約される場面を習うことがほとんどだと思います。
しかし、過去問を見る限り、実際の司法試験ではそのような典型的な学問研究の自由の制約のケースで出題されることはないのです。
頻出なのは、大学が所属する教授の学問の自由を制約するケースのですが、これについては適切に処理パターンを教えている講師は皆無と言っていいでしょう。
予備校講師にとってもこの問題は難問ですので、なかなか教えることができる人がいません。(そもそも、予備校講師で憲法ができる人はほとんどいないのですが。)
そこで、まず第1章で古典的な学問研究の自由の制約の場面である「公権力による制約」について基本的理解を確認し、第2章以降で「大学による制約」の問題が出題されたときの解法を、過去問を指摘しながら解説したいと思います。
※なお、注意していただきたいのは、今回は学問の憲法23条で保障される3つの権利(学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由)のうち「学問研究の自由」に限定した問題であることをご理解ください。
研究発表の自由や教授の自由は別途の解法となりますので、別記事で解説します。
第1章 公権力による学問研究の自由の制約
1 政府による学問研究の干渉は絶対禁止である
まず、これは絶対におさえておいてほしいのですが、公権力により学問研究の自由が制約される問題が出た場合は、厳格審査基準すら立てず違憲です。
厳格審査基準すら立てません。つまり、「絶対禁止」です。
これは、歴史的経緯から明らかで、天皇機関説を唱えた美濃部達吉が糾弾された事件です。公権力にとって都合の悪い学問については、公権力の恣意的な干渉による弾圧を受けやすく、実際に過去にこのような事件があったことから、憲法学では、公権力による学問の自由の制約は「絶対禁止」とされています。
この点、芦部先生の『憲法(第八版)』(岩波書店、2023年)を確認しておきましょう。
・『憲法(第八版)』(芦部信喜著・高橋和之補訂)p183
「とくに学問研究は、ことの性質上外部からの権力・権威によって干渉されるべき問題ではなく、自由な立場での研究が要請される。時の政府の政策に適合しないからといって、戦前の天皇機関説事件の場合のように、学問研究への政府の干渉は絶対に許されてはならない。」(傍線部は筆者追記)
「学問研究への政府の干渉は絶対に許されてはならない。」と記載があります。
2 先端技術の場合に例外的に厳格審査基準による正当化検証
前述のとおり、原則として政府による学問研究の制約は絶対禁止ですので、目的手段審査に入るまでもなく違憲です。
しかし、例外的に制約は可能であるとして、その正当化において厳格審査基準を採用すべきという学問が存在します。
それが、先端技術の研究です。司法試験では平成21年司法試験憲法の問題のように、先端研究について出題される可能性が高いので、こちらも知っておいてください。
先端技術とは、例えば遺伝子研究やクローン技術のようなものです。原子力の研究やAI研究もここに入ると思います。
このような場合、その研究をすることによる人類に対する影響がいまだ未知であることから、政府による干渉を認めないと取り返しのつかない事態が発生する可能性がありえます。
したがって、このような強度の必要性から、学問研究の自由を絶対禁止とするのではなく、制約そのものを可能としたうえで目的手段審査で本当にその制約が必要なのかをチェックすることになります。
こちらも芦部『憲法』で確認しておきましょう。
・『憲法(第八版)』p183~184
「近年における先端科学技術の研究がもたらす重大な脅威・危険(たとえば、遺伝子の組み換え実験などの遺伝子技術や体外受精・臓器移植などの医療技術の研究の進展による生命・健康に対する危害など、人間の尊厳を根底からゆるがす問題)に対処するためには、今までのように、研究の自由を思想の自由と同質のものという側面だけで捉えることがきわめて難しくなってきた。そこで、研究者や研究機関の自制に委ねるだけでは足りず、研究の自由と対立する人権もしくは重要な法的利益(プライバシーの権利や生命・健康に対する権利など)を保護するのに不可欠な、必要最小限度の規律を法律によって課すことも、許されるのではないか、という意見が有力になっている。」
第2章 大学による学問研究の制約
1 大学側にも大学の自治の保障(憲法23条)があるから難しい
さて、本記事のメインディッシュである「大学による学問研究の自由の制約」の解法にいきましょう。
この場合、なぜ処理が難しくなるかというと、制約主体である大学の根拠が「大学の自治」であり憲法上の要請が存在するからです。
大学には大学の自治の一内容として、学長・教授その他の研究者の人事の自治が存在します。
すなわち、大学側も憲法23条の主体であり、教授の側も憲法23条の主体。憲法上の要請どうしの調整の問題となるため、処理が難しくなるのです。
2 研究者の自治組織による自律的決定があればその判断を尊重する
ここで、大学の自治とはそもそも何かの理解を深めておきましょう。
実は、大学の自治というときその自治の主体は学長(や理事会)と教授会のいずれであるか、二つの説があるのです。
そして、通説的には教授会が大学の自治の主体と言われています。
学長は経営的な判断を行いますが、教授会は学問的見地から判断します。
研究内容の危険性などを判断する場合は、専門的見地をもった教授会に判断させた方がよいからです。
また、特定の教授に対して処分を下す場合、その同僚である研究者に判断させた方が妥当な結論になるという価値判断もあります。
とすれば、教授会などの専門的見地を持った研究者集団がその専門性に基づいて適切な手続に基づいて特定の教授に対して処分を下した場合、裁判所はその判断を審査することは消極的であるべきです。
もう少しかみ砕いていえば、例えば、医学部の教授会が特定の教授の遺伝子研究について「危険性が高い」と判断した場合、裁判所はその判断を審査できるほど生命科学の知識を持ち合わせているでしょうか。
このような場合は、裁判所は専門家の裁量を尊重し、適正手続違反や平等原則違反に限り判断できると解すことになります。(つまり、三段階審査や目的手段審査は行わない。)
また、このように解しても教授会は、政府と異なり、特定教授の研究を恣意的に排除する可能性は低いため問題ないといえます。
大学による学問研究の自由の制約
大学により教授の学問研究の自由が制約されている場合は、
①専門的見地を有する研究者集団(教授会等)による自律的決定がされているか
②適正手続を経て処分がなされているか
を問題文から検討せよ。
第3章 司法試験での出題のされ方(過去問研究)
さて、第2章で学んだ解法を頭に入れつつ、実際に過去問を見ていきましょう。
(解法は過去問を解きながら身に着けていくものなので、すべての科目において何より優先すべきは過去問です。)
二つの司法試験の過去問をご紹介しますが、実は両方「手続の適正さ」について問題文中で触れているのです。
二つの過去問を合わせてみることで、「大学による学問研究の制約」の出題がされたときに問題文の何に着目すればよいか明確になると思います。
1 平成21年司法試験憲法
この問題は、医学部の教授による遺伝子研究の被験者が一度重体となった(ただし、後に回復)ことから、医学部の学部長が、「重大な事態が生じた」と認定して、学問研究の中止命令を出したという問題です。
【参考資料2】
Y県立大学医学部「審査委員会規則」
第1条~第7条 (略)
第8条 医学部長は、被験者の死亡その他遺伝子治療臨床研究により重大な事態が生じたときは、総括責任者に対し、遺伝子治療臨床研究の中止又は変更その他必要な措置を命ずるものとする。
一般的な公権力による中止命令の場合は、被験者が回復していることから「重大な事態」とはいえないのではないかと審査することになります。また、研究の中止命令という重い処分が下されていることの当否も審査対象になりましょう。
しかし、ここでの問題は、専門的な知識を持つ医学部の学部長が判断しているという点です。
また、問題文では、
との記載があり、手続の適正さに関する文言が存在します。
これにより、
大学による学問研究の自由の制約
大学により教授の学問研究の自由が制約されている場合は、
①専門的見地を有する研究者集団(教授会等)による自律的決定がされているか
②適正手続を経て処分がなされているか
を問題文から検討せよ。
の①と②両方を満たすことになり、専門家である医学部長により「重大な事態が生じた」と判断された以上、裁判所はその判断の当否を判断することができないということになります。
2 【難問】令和4年司法試験憲法
※少し難しいかもしれませんので、初学者は読み飛ばしていただいても構いません。ただし、最終的にこのレベルまで理解できるようにしてください。
令和4年司法試験憲法は、Y教授に学問研究への支援としてされた給付金が政治活動に流用されていたのではないかが問題となり、Y教授が所属していたA研究所の審議により、Y教授への給付を1年停止するという処分が下ったという問題です。
この問題は、この記事で記載している解法は当然の前提として作られたうえでさらにその応用が問われるという、従来の予備校に通っているだけの受験生ではまるで歯が立たない問題でした。
この問題では、A研究所の十分な審議・調査が存在し、Y教授への説明も十分に果たしていました。
「経営審議会の後、(A研究所長)Eを委員長とするA研究所の運営委員会が開催され、次年度の研究助成金の交付について審議された。Yに対しては、過去数年にわたり研究助成金が助成の趣旨に適合しない形で使用されており、次年度についてもYが提出した申請書では同様の支出が想定されるとの理由で、運営委員会は助成金を交付しないことを決定した。」
Y教授に説明を求められたA研究所所長のEは、
「Eは、経営審議会での指摘を受けて運営委員会がYについて過去数年の支出を精査したところ、その結果、ウェブサイト「Y研究室」の運営の委託及び実地調査のための国内各地への出張に研究助成金の3分の2以上が支出されているが、ウェブサイトは研究成果の発信のほかにYの政治的な意見表明や団体Cの活動のためにも利用されていること、また出張に際しては、Yが、団体Cと連携して活動している各地の団体に聞き取り調査を行うだけでなく、それらの団体が主催する学習会でX県の産業政策を批判する講演を無報酬で行っていることが明らかになった、と述べた。そしてEは、いずれもが助成対象となる研究活動とは認め難いものであったので、研究助成の趣旨に適合しない同様の支出が想定される次年度については、助成金を交付しないこととした、と説明した。」
と、十分に説明も果たしています。
つまり、
大学による学問研究の自由の制約
大学により教授の学問研究の自由が制約されている場合は、
①専門的見地を有する研究者集団(教授会等)による自律的決定がされているか
②適正手続を経て処分がなされているか
を問題文から検討せよ。
の①と②がやはり問題文で記載されているわけです。
しかし、この問題のポイントはこのことが分かった前提で、Y教授の立場からさらに①に疑義を投げかけなければならない問題でした。
というのも、問題文に以下のような記述があるからです。
つまり、専門家集団であるA研究所による審議は存在したが、Y教授の政治的活動を気に入らないとして、「大学の内外から政治的圧力があったのではないか」という問題なのです。
Y教授側の反論として必ず書かなければなりません。
研究者集会の決定であったとしても、政治的な圧力が存在したのであれば、それは実質的には政府による学問研究への干渉となり許されませんし、解法①の「研究者集団の自律的決定」に瑕疵があったことになり、裁量を認める前提を欠くことになるからです。
これに対しては、A研究所長である教授Eが、「特定の政策への批判は研究者としてあり得ることだ」と発言していることから、内外からの批判を鵜呑みにしているわけではないことが分かります。
そして、前述の手続・調査を丁寧に経ていることから、単にA研究所での審議の端緒に過ぎず政治的圧力を受けたものではないと再反論していくことになりましょう。
第4章 まとめ
以上から、大学による学問研究の自由の制約の問題が集題されたら、基本的には目的手段審査や三段階審査をせずに、研究者集団の審議・決定がなされているかチェックし、裁量統制します。
そして、適正手続に則っている限り、研究者集団の下した決定については裁判所は尊重することになります。
大学による学問研究の自由の制約
大学により教授の学問研究の自由が制約されている場合は、
①専門的見地を有する研究者集団(教授会等)による自律的決定がされているか
②適正手続を経て処分がなされているか
を問題文から検討せよ。
ただし、難しい問題となってくると、研究者集団の審議・決定に大学内外の政治的圧力が加わることも十分にありうるので、研究者集団の意思決定が十分に自律的か否かを検討することが解法となります。
今回はかなり難しかったと思いますが、司法試験で頻出の話であり予備試験でも十分出題可能性があるため、何度もこの記事を読み返してくださいね。
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