- 公開日:2024.10.04
- 更新日:2024.11.21
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【女性優遇はいいの?】予備試験頻出のアファーマティブアクションの解法を紹介。アファーマティブアクションは典型的なLRAと色々な出題パターンを覚えて他の受験生と差をつけよう。【憲法14条1項後段】
目次
この記事を読んで理解できること
- 平等権の問題で審査基準が上がる理由
- アファーマティブアクション
- 女性に対する優遇はそもそもいいのか
予備試験受験生なら最初の予備試験である平成23年でアファーマティブアクションが出題されたことをご存じかと思います。
既存予備校ではアファーマティブアクションについて「逆差別」が問題であるなどという、分かったような分かってないような論証で、受験生を「出来るようになった気」にさせるのですが、本質的に何が問題点なのか論理的に理解されている受験生は少ないようです。
アファーマティブアクション的な考え方を応用する問題は、司法試験でも出題されており頻出中の頻出です。
ここで、アファーマティブアクションについて、大手予備校の中途半端な理解から脱出し、正確に理解してみませんか。
受験生がみな知っている論点だからこそ「正確な理解」をしていなければ差をつけることができません。
この記事で、できるだけ問題点をわかりやすく解説していきますね。
第1章 【基本】平等権の問題で審査基準が上がる理由
まず、どの予備校でも教えている(はず)の、芦部先生の考え方をおさらいしてみましょう。
憲法14条1項を見てください。
まず、憲法14条1項後段列挙事由の区別については、歴史的に差別を受けてきた属性についての区別であるため、その合理性が疑わしい。つまり、違憲の疑いが強いため、公権力の側で合憲である理由を論証しなければならない。
したがって、
「人種」や「信条」の区別については厳格審査基準
「性別」、「社会的身分」、「門地」の区別については中間審査基準
を採用することになります(『憲法(第八版)』(芦部著)141頁)。
※なお、芦部先生も「性別」、「社会的身分」、「門地」について厳格審査基準を採用する余地があることを認めており、これらの区別について厳格審査基準を採用することも受験生として許されると思われます。
第2章 アファーマティブアクション(女性優遇の場合)
1 平成23年予備試験憲法の事案の確認と原告の想定主張
平成23年予備試験憲法の事案を軽くまとめておきましょう。
女性法曹の数が男性に比べて著しく低いため、あるロースクールが合格者200人のうち20人を女性枠として確保したという事例です。
すなわち181位の男性受験生は、従来なら合格であったのにもかかわらず、助成枠の設置のせいで不合格となってしまうという問題点があります。
平成23年予備試験憲法の問題で着目されている属性は、14条1項後段列挙事由の一つである「性別」ということになります。
ですので、少なくとも差別された男性側の主張としては、14条1項後段列挙事由である「性別」についての区別である以上、その正当化については厳格審査基準(ないし厳格な合理性の基準)を採用すべきと主張することになります。
女性を男性より優遇することは14条1項後段列挙事由で禁止される「性別」による区別であるところ、同項後段列挙事由は歴史的に特に疑わしい別異取扱いを例示したものであるから、その正当化には厳格な合理性の基準を採用すべきである。
2 ロースクール側の反論
これに対して、ロースクール側は反論していくことになるのですが、原告のロジックを利用して反論していくことになります。
原告のロジックを見直してみてください、「性別」についての区別が「歴史的に特に疑わしい別異取扱い」であることから審査基準が上がる旨主張しています。これは、芦部『憲法』記載の見解を前提にした主張です。
ところが、おかしいと気づくはずです。
平成23年予備試験憲法で差別され劣位に立たされている者は女性ではなく「男性」です。そして、男性は歴史的に差別的扱いを受けた性別ではありません。
したがって、審査基準を上げる原告主張ロジックはその前提を欠くわけです。
またもう一つ
知っておくと差がつくロジックなのですが、「男性」のような社会的強者が差別的扱いを受けた場合に、それが不合理な差別であるならば、司法審査によらずとも、自ら民主的政治過程で自分に有利な法律を作ることで救済できる途が残されています。
この観点からロースクールは審査基準を下げる主張をします。
(ロースクール側の反論)
女性優遇措置は、男性を不利に扱うものであるところ、男性は歴史的には差別されたものでなく、同条項の趣旨は及ばない。また、実質的に多数派である男性を差別しても民主主義により是正ができるため、司法による救済の必要性は低い。
したがって、合理的関連性の基準を採用すべきである。
3 私見による再反論
(1)「男性に対する逆差別」という再反論というロジックの粗さ
さて、これに対しては「男性に対する逆差別」であるとして審査基準を上げるという予備校の解答が散見され、受験生もそのように論述する方が多いように思えますが、果たして反論になっていますでしょうか
といのも、「男性に対する差別」という観点は既に原告の主張で述べていますのでここでもう一度記載したところで「男性に対する差別なんだから審査基準あげるんだ」と駄々をこねているだけです。
また、原告の主張もロースクール側の主張も「歴史的差別の有無」が争点なので、それから争点が大きくそれてしまっています。
したがって、「男性に対する逆差別」という論理を答案で書くことは極めて不細工な主張反論になっていると言わざるを得ません。
特に、アファーマティブアクションは有名かつ頻出の論点なので、不細工な論理を書いてしまうと、できる人と圧倒的に差をつけられてしまいます。
(全く未知の論点が出された場合に「不細工なロジック」を書くのは緊急避難的にあり得るとは思いますが)
(2)本質は女性差別であることを指摘する:「劣等の烙印」「ステレオタイプ」
ここで、もしかすると、女性の方がこの問題の本質に気づきやすいのかもしれません。
というのも、確かに男性に着目すると男性は弱い属性ではありませんから、審査基準を上げる理由になりません。
しかし、女性を救済・援助するということが、国から「女性は政府が助けてやらないといけないかわいそうな性別」というメッセージを送ることにつながりえます。
このメッセージを「劣等の烙印」といいます。また、女性に対するステレオタイプを誘発・固定化することにもつながります。
政府が、「助けてやらなければ何もできない性別」と烙印を押しているのですね。
これは、女性からすると腹が立つ人も多いと思われます。
すなわち、アファーマティブアクションの本質は、「実質的に女性に対する差別」であるということなのです。
このように反論すれば、ロースクール側の反論に対して有効な反論となります。
女性の優遇は女性側に国家が劣等の烙印を押すものであり実施的に女性差別につながる。
したがって、被告の主張は失当であり、原告主張のとおり、厳格な合理性の基準を採用すべきである。
なお、女性に対する「劣等の烙印」「ステレオタイプ」となるかは問題ごとに検討する必要があります。
例えば、令和5年司法試験は、女性の方が遺族年金支給要件が緩和されていることが女性に対するステレオタイプとなるのではないか検討させる誘導があった出題でした。
これに対して、以下のような記述が問題文にあります。
・令和5年司法試験
「資料によると、昨年の給与所得者の年収では、男性の平均が約600万円、女性の平均が約300万円と2倍の格差があり、40歳代、50歳代でも1.5倍強の格差があります。これは、女性の場合、非正規雇用の職員・従業員が多いからです。例えば、正規雇用の職員・従業員数は、45歳から54歳で男性約680万人に対して、女性約340万人です。女性がとりわけ40歳以上で新たに正規雇用の職を得ることが困難であることも、統計上示されています。」
統計上、女性を救済する必要性が高いのであれば、妄想ではなく一時的な女性の救済は「ステレオタイプ」とはいえないとの反論も可能です。
ただし、男女共同参画が進んでいることを前提にすれば、女性を男性より救済するにしても一時的なものにとどめるべきであるとは思います。
(3)【補足】男性への逆差別に着目した上手な再反論
さて、解答に書くかどうかはおまかせしますが、「男性は歴史的に優遇されていたのだから違憲の疑いは低い」という反論そのものに対して、真っ向から反論する方法があるのですが、お分かりになるでしょうか。
記事として説明するよりも、論証としてお見せしたほうが早いので以下記述します。
女性優遇措置は逆差別になるところ、確かに男性は歴史的に差別を受けてきたものではないが、今まで優遇されてきた集団に属するというだけで歴史の責任を個人に負わせるのは不合理である。
戦争責任のように、「日本に戦争責任があったとしても、何の関係もない今の世代が責任を負うのはおかしいのではないか」という至極真っ当なロジックを、男性優遇について応用したものになります。
「過去優遇されていたからといって、なぜ今を生きる男性が差別を受けていいことになるのか」
という反論です。
「逆差別」で論証をしたい場合は、他の人と差をつけるためにここまで踏み込んで論証すると、A評価までひとっとびでしょう。
第3章 【発展】女性に対する優遇はそもそもいいのか?
さて、そもそもの問題として、なぜ女性を助ける必要があるのでしょうか。
というのも、「アファーマティブアクション」という言葉を聞いて「女性救済」がまず頭に浮かぶのは日本だけなのではないかという問題です。
そもそも、アファーマティブアクションとは、「社会における最も弱い属性」に対する救済であれば許されるというアメリカで主張された理論です。
つまり、本来社会におけるマイノリティ、いわば「黒人」の救済です。
しかし、女性は社会におけるマイノリティでしょうか?社会において女性はほぼ半数いる以上、マイノリティではありませんし、近年は女性を虐げることは日本においては批判に晒されるものであり、基本的には行われません。
弱者を救済するというのであれば、「LGBT、アイヌ、在日外国人、部落出身」の方にロースクールや司法試験の枠を設けることが先なのではないでしょうか。
平成23年予備試験も、女性枠を設ける目的を「法曹の多様性」としています。
女性ではなく、上記マイノリティを法曹に誘導する方が「法曹の多様性」に資するはずです。
したがって、女性優遇は「法曹の多様性」との関係で「実質的関連性に欠ける」といえると思われます。
第4章 まとめ
このように、女性を救済するアファーマティブアクションについては、「劣等の烙印」や「ステレオタイプ」という女性に対する新たな差別が存在することを理解していただければと思います。
主張反論をまとめてパターン化しておきましょう。
女性を男性より優遇することは14条1項後段列挙事由で禁止される「性別」に関する区別であるところ、同項後段列挙事由は歴史的に特に疑わしい別異取扱いを例示したものであるから、その正当化には厳格な合理性の基準を採用すべきである。
女性優遇措置は、男性を不利に扱うものであるところ、男性は歴史的には差別されたものでなく、同条項の趣旨は及ばない。
また、実質的に多数派である男性を差別しても民主主義により是正ができるため、司法による救済の必要性は低い。
したがって、正当化には合理的関連性の基準を採用すべきである。
女性優遇措置は逆差別になるところ、確かに男性は歴史的に差別を受けてきたものではないが、今まで優遇されてきた集団に属するというだけで歴史の責任を個人に負わせるのは不合理である。
他方、女性の優遇は女性側に国家が劣等の烙印を押すものであり究極的に女性差別につながる。
したがって、被告の主張は失当であり、原告主張のとおり、厳格な合理性の基準を採用すべきである。
社会的強者に対する差別は例えば平成25年予備試験においても「世襲議員」を冷遇する法案の検討という形で出題されています。
このような場合、「性別」に着目したわけでもなく「世襲議員」が社会の多数派でもないことから今回とは少しロジックが変わることにはなりますが、少なくとも社会的強者への差別について審査基準が下がる可能性を国側から指摘されるというのは変わりません。
女性優遇を一つしっかり固めておけば他の問題に応用が利きますので、この記事をしっかりと復習しておいてくださいね。
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