堀越事件と猿払事件の事案の違いを徹底解剖!二つの判例の差を完全理解しなければ高得点は狙えないということについて解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 猿払事件は今も生きていること
- 堀越事件の論理と事案の特殊性
- 猿払事件や宇治橋事件の特殊性
公務員の政治的表現について、堀越事件は重要な判例ですが、猿払事件はまだ死んでおらず、実際の出題においては「猿払型」か「堀越型」かを的確に判断しあてはめしていかなければなりません。
今回は、このような二つの重要判例で結論が異なる理由を正確に理解して、公務員の政治的表現が出題された場合に、他の受験生と圧倒的に差をつけられるような記事となっております。
ぜひ最後まで見てくださいね。
第1章 【前提】猿払事件は今も生きていることを理解する
まず、勘違いされている人がいると危ういので、前提として述べておきますが、堀越事件は猿払事件と異なり、政治的表現を行った公務員を救済した判例です。
このことから安易に、評判の悪い猿払事件は判例変更され今は妥当しないと考える人も散見されます。
しかし、それは完全に間違いです。堀越事件を見てみましょう。
・堀越事件 最判生成24年12月7日
「所論引用の判例(前掲最高裁昭和49年11月6日大法廷判決)…は,このような文書の掲示又は配布の事案についてのものであり,判例違反の主張は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切ではなく,」
最判昭和49年11月6日とは猿払事件のことですが、「事案を異にする」ため、猿払事件を本件では適用させない旨述べています。判例を変更したのであれば、「事案を異にする」と言うことはありえません。そもそも、堀越事件判決は小法廷で行われているため、判例変更は不可能です。
つまり、猿払事件の射程は及ばず、この事実においては堀越事件の射程が及ぶということ述べているのです。
したがって、受験生としては、猿払事件が適用される事案と堀越事件が適用される事案の場合分けをしっかりできなければなりません。
これが、公務員の政治的表現に関する出題がされた場合の基本的な解法となります。
第2章 堀越事件の論理と事案の特殊性
1 「公務員の職務の遂行の中立性」 vs「公務員の中立性」(猿払事件)
まず、公務員の人権の制約の必要性の根拠として、以下のように述べます。
「行政の中立的運営が確保されるためには,公務員が,政治的に公正かつ中立的な立場に立って職務の遂行に当たることが必要となるものである。このように,本法102条1項は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものと解される。」
つまり、
①公務員の職務の遂行の政治的中立性の保持
②行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼
という論理の流れです。
ここでポイントなのは、「公務員の中立性」ではなく、「公務員の職務の遂行の政治的中立性」と言っていることです。
すなわち、職務遂行自体が中立的でさえあれば、公務員一人一人が持つ思想については中立的でなくてよい価値判断が現れています。
※この点猿払事件は、
と述べており、職務ではなく公務員自身の中立性を要求していることから、公務員も人権を享有する「国民」であることの理解が足りないものになっていたことを修正したといえます。
他方、そのうえで堀越事件は以下のように述べます。
「国民としての」の文言があることから、公務員を「国民」として扱っていることになります。
2 堀越事件の規範:公務員の人権への配慮と憲法適合解釈
そして、堀越事件は以下のように規範を打ち立てます。
・堀越事件
「本件罰則規定に係る本規則6項7号,13号(5項3号)については,それぞれが定める行為類型に文言上該当する行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを当該各号の禁止の対象となる政治的行為と規定したものと解するのが相当である。」
「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる」という言葉は丸暗記してください。必ず規範として使います。
そのうえで、「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる」か否かの判断について以下のように述べています。
すなわち、出題された場合は、上の太字で強調したような事実を本文から抜き出して判断するということになります。
3 堀越事件における公務員の属性と行為の特殊性:裁量なく職務と無関係
堀越事件は、同事件で問題となった公務員の属性やその活動について以下のように述べています。
以上のように、堀越事件で起訴された被告人は、管理職的地位にはなく、権限は事務的なものにとどまり裁量の余地はありません(企業なら平社員的な存在)。
また、勤務時間外で、国の施設を利用せず、公務員であることを明らかにせず、かつ組織的にやったわけでもない。
したがって、外部から見て「公務員としての行為と認識し得る」ものでもありません。
このような場合に、「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる」とはいえず、構成要件に該当せず無罪となるわけです。
①管理職でもなく
②裁量もなく
③勤務時間外、職場外、公務員の身分を明らかにせず行っていた
ことが無罪のポイント!!
第3章 猿払事件や宇治橋事件の特殊性
1 猿払事件の事案の特殊性
これに対し、堀越事件は、猿払事件で起訴された公務員は以下のような属性であるため、堀越事件と事案が異なると述べています。
・堀越事件
「所論引用の判例(前掲最高裁昭和49年11月6日大法廷判決)の事案は,特定の地区の労働組合協議会事務局長である郵便局職員が,同労働組合協議会の決定に従って選挙用ポスターの掲示や配布をしたというものであるところ,これは,上記労働組合協議会の構成員である職員団体の活動の一環として行われ,公務員により組織される団体の活動としての性格を有するものであり,勤務時間外の行為であっても,その行為の態様からみて当該地区において公務員が特定の政党の候補者を国政選挙において積極的に支援する行為であることが一般人に容易に認識され得るようなものであった。これらの事情によれば,当該公務員が管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地がなく,当該行為が勤務時間外に,国ないし職場の施設を利用せず,公務員の地位を利用することなく行われたことなどの事情を考慮しても,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものであったということができ,行政の中立的運営の確保とこれに対する国民の信頼に影響を及ぼすものであった。
したがって,上記判例は,このような文書の掲示又は配布の事案についてのものであり,判例違反の主張は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切ではなく,所論は刑訴法405条の上告理由に当たらない。」
猿払事件については、単なる職員ではなく「労働組合協議会事務局長」という役職についており、かつ、職員団体の活動の一環として行為を行っています。
このようなことから「公務員が特定の政党の候補者を国政選挙において積極的に支援する行為であることが一般人に容易に認識され得る」
ため、「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる」と判断しています。
行動の規模感や公務員の有していた地位などに照らして、「一般人」にどのように認識され得るかがポイントです。
ですので、「一般人がどのように認識するか」の見地から、問題の事実を指摘して、猿払事件に近いか、堀越事件に近いかを認定することが解法となります。
2 宇治橋事件の事案の特殊性
堀越事件と同じ日に判決が出された宇治橋事件においては、起訴された公務員は有罪とされています。
これは、宇治橋事件における公務員は、厚労省社会統計課の筆頭課長補佐であり、「指揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあった」ことから、
「公務員の職務の遂行の中立性を損なうおそれが実質的に生じていた」と判断されています。
つまり、当該公務員の地位が管理職的で影響力が大きい場合については、処罰されるということになりましょう。
第4章 まとめ 解法の整理
さて、以上のことから、堀越事件が出された現在において公務員の政治的活動に関する出題が出された場合の解法は以下のとおりとなります。
公務員の職務の遂行の政治的中立性とこれに対する国民の信頼
▶ 限定的解釈 「公務員の職務の中立性を損なうおそれが実質的に認められる」
▶ 堀越に近いか猿払に近いか確認
①非管理職など公務員の行為と認識しえない
▶ 堀越型で救済
②その他(管理職、団体の行動、他の公務員への影響力等)
▶ 猿払型(救済は事実上無理)
なお、以上の解法は限定的にとらえる必要があります。
まず、あくまで猿払事件も堀越事件も宇治橋事件も「刑罰」に関する判例です。
「懲戒処分」については、全逓プラカード事件の射程となりますから、堀越事件の射程は及ばないと思われます。
また、堀越事件も猿払事件も一般公務員に関する判例であり、裁判官や自衛官などの特殊な公務員の場合は、反対利益や規範などが変わってくることには注意が必要です。
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