裁判官・自衛官の政治的活動の徹底解説!一般公務員と理由付けが異なる理由を理解せよ。【寺西判事補事件、岡口裁判官事件】

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
裁判官・自衛官の政治的活動の徹底解説!一般公務員と理由付けが異なる理由を理解せよ。【寺西判事補事件、岡口裁判官事件】
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この記事を読んで理解できること
  • 寺西判事補事件:裁判官の特殊性
  • 反戦自衛官懲戒事件:自衛官の特殊性
  • 岡口裁判官分限事件と寺西判事補事件の比較

公務員の政治的活動については、堀越事件・猿払事件という重要な判例が存在します。
他方、「公務員の政治的活動」について、すべての公務員について堀越事件・猿払事件を適用することはできません。

裁判官については寺西判事補事件、自衛官に関しては反戦自衛官懲戒事件が存在するからです。

それぞれに、政治的活動の制約根拠が異なることを理解していますでしょうか。公務員ごとに制約根拠が異なることを理解していないと、公務員の政治的活動の問題で対処することができません。

今回は、そのような公務員の政治的活動についての判例について、制約根拠が明確に違うことを明らかにしながら解説していこうと思います。

第1章 寺西判事補事件:裁判官の特殊性

1 寺西判事補事件の事案

寺西判事補事件の事案を軽く解説します。

寺西判事補は、令状審査の実態に批判的であったところ、組織的犯罪対策関連法案に反対する団体を母体とするシンポジウムのパネリストとして参加する予定であったところ、上司による警告を受けてパネリストとしての発言を取りやめました。

そこで、寺西判事補は、パネリスト席ではなく一般参加者席に座り出席しました。そして、「事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する」旨の発言をしました。

この言動に対して、分限裁判の申立てがなされ、戒告処分が下された事例だということは頭に入れておいて下さい。

後で言及しますが、寺西判事補事件は、一般的な討論集会(賛成派も反対派も出席)ではなく、初めから特定法案を悪法と決めつける集会に出席したことが結論の分かれ目になりました。

2 裁判官の特殊性:三権分立

堀越事件において、公務員の政治的活動を制約する根拠は以下のようなものでした。

・堀越事件

「本法102条1項は,公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することを目的とするものと解される。」

一般公務員の事例である堀越事件は「公務員の職務の中立性」「行政の中立的運営とそれに対する国民の信頼」という中立性が反対利益となっていることを覚えておいてください。

これに対し、寺西判事補事件は、裁判官の中立性以外の憲法上の要請について言及しています。

・寺西判事補事件 最判平成10年12月1日

「裁判所法五二条一号が裁判官に対し「積極的に政治運動をすること」を禁止しているのは、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにその目的があるものと解される。」

まず、一つ目は一般公務員にない裁判官の特殊性である「裁判官の独立」という憲法上の要請です。
これにより、裁判官は一般公務員以上に中立性がなければならないことになります。

さらにもう一つの憲法上の要請は、三権分立主義です。
すなわち、裁判官が政治的発言をすることが、司法権による立法府や行政府に対する過度の干渉ととらえられるおそれがあるということが、裁判官の一般公務員とは異なる特殊性です。

また、裁判官に対する懲戒は一般公務員と異なり、懲戒処分が裁判に基づくため恣意的処罰のおそれが低いことも理由として挙げています。

「裁判官の場合には、強い身分保障の下、懲戒は裁判によってのみ行われることとされているから、懲戒権者のし意的な解釈により表現の自由が事実上制約されるという事態は予想し難いし、違反行為に対し刑罰を科する規定も設けられていない」

3 規範:堀越事件との違いも意識

そして、裁判官が禁止される政治活動をしたか否かは以下のように判断されます。

・寺西判事補事件

「「積極的に政治運動をすること」とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものが、これに該当すると解され、具体的行為の該当性を判断するに当たっては、その行為の内容、その行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。」

【ポイント①:限定解釈をしない】
まず、「積極的に政治運動をすること」について、「裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるもの」と解釈しており、堀越事件が「公務員の職務の遂行の中立性を損なうおそれが実質的に認められる」と解釈したことと異なり、限定解釈をほどこしていません。

・堀越事件 最判平成24年12月7日

「本件罰則規定に係る本規則6項7号,13号(5項3号)については,それぞれが定める行為類型に文言上該当する行為であって,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを当該各号の禁止の対象となる政治的行為と規定したものと解するのが相当である。」

【ポイント②:公務員の主観も考慮する】
裁判官の中立性に反するか否かの判断について、寺西判事補事件は、客観的事情のみならず裁判官の主観も考慮要素としています。

・寺西判事補事件

「客観的な事情のほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当である。」

これは、堀越事件が、公務員の行為について、外形的事情のみから外部の者がどのように認識したかを考慮要素としていることと大きく異なります。

・堀越事件

「本件配布行為は,管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって,職務と全く無関係に,公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり,公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもないから,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえない。そうすると,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しないというべきである。」

4 解法の整理

以上の検討を今一度まとめてみます。

【裁判官の公務員としての特殊性】

①裁判官の独立
②三権分立主義
③懲戒処分が裁判を経る必要がある
④刑罰ではなく懲戒処分

①と②の要請が、「裁判官の中立・公正」という要請に加重されることが、一般公務員との違いです。
~④によって、裁判官の政治的活動の規制は、一般公務員の政治的活動より緩やかな要件のもと規制されてしまいます。

注意点

裁判官の政治活動に対する懲戒についての特殊性 VS 堀越事件

①限定解釈がされない
②主観的事情も考慮されてしまう

5 あてはめ

かかる規範のもと、以下のとおり、寺西判事補は、特定法案を一方的に悪法と決めつけ廃案に追い込む目的の集会で、集会の趣旨に賛同した以上、国会の立法行為に圧力をかけるものであり、「積極的に政治運動をすること」に該当するものと判断されました。

・寺西判事補事件

「本件集会は、単なる討論集会ではなく、初めから本件法案を悪法と決め付け、これを廃案に追い込むことを目的とするという党派的な運動の一環として開催されたものであるから、そのような場で集会の趣旨に賛同するような言動をすることは、国会に対し立法行為を断念するよう圧力を掛ける行為であって、単なる個人の意見の表明の域を超えることは明らかである。このように、本件言動は、本件法案を廃案に追い込むことを目的として共同して行動している諸団体の組織的、計画的、継続的な反対運動を拡大、発展させ、右目的を達成させることを積極的に支援しこれを推進するものであり、裁判官の職にある者として厳に避けなければならない行為というべきであって、裁判所法五二条一号が禁止している「積極的に政治運動をすること」に該当するものといわざるを得ない。」

第2章 反戦自衛官懲戒事件:自衛官の特殊性

事件としてはマイナーであり、覚える必要はないと思われますが、特殊な公務員の場合に制約根拠が加重されることの一つの例として知っておくとお得な判例として、反戦自衛官懲戒事件をご紹介します。

自衛官が、沖縄返還協定紛砕等を掲げて開催された政治的集会において、その制服や官職を利用してそれによる宣伝効果をねらい、不特定多数の者に対して要求書及び声明文を読み上げて、一方的かつ過激な表現をもって国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにするとともに、自衛隊を誹謗中傷しました。

・反戦自衛官懲戒事件 最判平成7年7月6日

行政の中立かつ適正な運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、国民全体の共同の利益にほかならないものというべきところ、自衛隊の任務(法三条)及び組織の特性にかんがみると、隊員相互の信頼関係を保持し、厳正な規律の維持を図ることは、自衛隊の任務を適正に遂行するために必要不可欠であり、それによって、国民全体の共同の利益が確保されることになるというべきである。したがって、このような国民全体の利益を守るために、隊員の表現の自由に対して必要かつ合理的な制限を加えることは、憲法二一条の許容するところであるということができる。」

つまり、

【自衛官の政治的活動の反対利益】

①行政の中立且つ適正な運営
②隊員相互の信頼関係を保持し、厳正な規律の維持

の二つが、自衛官の政治的活動の制約根拠となるわけです。

第3章 【発展】岡口裁判官分限事件と寺西判事補事件の比較

岡口裁判官分限裁判(最決平成30年10月17日)は、岡口裁判官がツイートで遺族を侮辱したことについて、「品位を辱める行状」(裁判所法49条)として懲戒を受けた事例です。寺西判事補事件の事案の差に着目してみましょう。

寺西判事補事件は、政治的発言を行い、それが立法府への圧力にもなり得ることから、三権分立主義という憲法上の要請が反対利益となりました。
堀越事件と異なり、限定解釈を施さず緩い要件のもとで「政治的活動」をしたとして懲戒処分を適法としたのです。

他方、岡口裁判官が行ったのは、遺族への侮辱ツイートであり政治的発言ではありません。
とすると、立法府や行政府への圧力などということは問題とならないはずであり、三権分立主義という憲法上の要請が反対利益として出てこないはずです。

そうであるにもかかわらず、「品位を辱める行状」を「およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動」と広く定義しました。

ここが岡口裁判官分限裁判の最大の問題点となっています。
つまり、裁判官に関しては、三権分立主義が関係あろうとなかろうと、品位ある「外見」を裁判官に求めているということになります。

第4章 まとめ

以上まとめると、一般公務員、裁判官、自衛官の政治的活動に対する反対利益は以下のようになります。

まとめ
1 一般公務員 ⓐのみ

ⓐ公務員の職務の遂行の政治的中立性とこれに対する国民の信頼
 限定解釈を施して救済をする。

2 裁判官(寺西) ⓐ+ⓑ

ⓐ裁判官の中立性とこれに対する国民の信頼
   
「三権分立主義」 →三権分立が反対利益に加わるので、限定解釈せずに厳しい。

3 自衛官 ⓐ+ⓒ

ⓐ行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼
   
「隊員相互の信頼関係の保護と規律の維持」

出題された場合は、公務員ごとに適切に反対利益を指摘することで、他と圧倒的に差がつく答案になると思います。

この表を覚えてしまいましょう。

なお、一般公務員についての判例である堀越事件・猿払事件の詳しい解説は、以下の記事で述べていますので、こちらもぜひ確認して公務員の人権を網羅的に理解してくださいね。

記事リンク:~公務員の政治的表現~

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