【意外と出題】事前規制に対して事後規制がLRAになるとは限らない理由を判例を使って解説
目次
この記事を読んで理解できること
- 事後規制がLRAになる基本的な例:薬事法判決など
- 事後規制では目的を達成できない場合:緊急性、実効性
今回は、LRAについて少し発展的な話をします。
基本的に、事前規制というのは強力な規制であり、事後規制で処理することがLRAとして挙げられるのが通常です。
6割以上の問題はこのようにして解けるのですが、それだと誰でも解けてしまいます。
ですので、予備試験や司法試験では「事後規制」が本当にLRAになるのかを分析させる問題がよく出されます。
発展的なのですが、判例でもそのような分析がされていることや過去問で出題されていることから勉強を避けて通れません。
今回の記事でそこを徹底的に解説し、LRAについて発展的な出題がされても余裕をもって答えられるようにしたいと思います。
LRAについて、まだ基本的な理解や知識がまだの方は以下の記事で勉強してからこの記事をご覧になるといいと思います。
第1章 【基本】事後規制がLRAになる基本的な例:薬事法判決など
許可制等の事前規制が強力な規制であることから、不許可にせずに事後的な対応で処理することで人権制約を抑制すべきとする判例はたくさんあります。
例えば有名なものは薬事法判決です。
薬事法判決は、距離制限という厳しい許可要件を課すもので実質的な開業制限でした。これに対して、事後的な免許取消や不良医薬品の廃棄命令、強制調査権などの行政上の措置で十分対応であり、事前に強力な規制を課す必要はないと述べた判例です。
・薬事法判決 最判昭和50年4月30日
「現行法上国民の保健上有害な医薬品の供給を防止するために、薬事法は、医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障及び保全上の種々の厳重な規制を設けているし、薬剤師法もまた、調剤について厳しい遵守規定を定めている。そしてこれらの規制違反に対しては、罰則及び許可又は免許の取消等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改繕命令、薬剤師の増員命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、更に行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構として薬事監視員が設けられている。これらはいずれも、薬事関係各種業者の業務活動に対する規制として定められているものであり、刑罰及び行政上の制裁と行政的監督のもとでそれが励行、遵守されるかぎり、不良医薬品の供給の危険の防止という警察上の目的を十分に達成することができるはずである。」
また、集会の自由の不許可処分に対しては、警察による予防的警備というものがLRAとなります。これも、多少過激な集会であったとしても、事前規制ではなく、警察による警備という事後規制でも十分に目的を達成できるからです。
この点については、以下の記事でより詳細に解説していますので気になる方は読んでみてください。
第2章 事後規制では目的を達成できない場合:緊急性、実効性
1 事後規制では目的を達成できない場合も存在する
第1章で述べたように、原則的には事後規制が事前規制に対するLRAとなるのですが、近年難問傾向の予備試験・司法試験ではそれだけでは対抗できません。
事前規制が出た⇒事後規制を指摘する
だけで答えになるなら、誰でも思いついてしまうからです。
少し立ち止まってLRAとは何かを考えてみますと、上記第1章で紹介した薬事法判決の判旨を再渇します。
・薬事法判決 最判昭和50年4月30日
「現行法上国民の保健上有害な医薬品の供給を防止するために、薬事法は、医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障及び保全上の種々の厳重な規制を設けているし、薬剤師法もまた、調剤について厳しい遵守規定を定めている。そしてこれらの規制違反に対しては、罰則及び許可又は免許の取消等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改繕命令、薬剤師の増員命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、更に行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構として薬事監視員が設けられている。これらはいずれも、薬事関係各種業者の業務活動に対する規制として定められているものであり、刑罰及び行政上の制裁と行政的監督のもとでそれが励行、遵守されるかぎり、不良医薬品の供給の危険の防止という警察上の目的を十分に達成することができるはずである。」
ラストの太字部分をお読みください。
事後規制でも「不良医薬品の供給の危険の防止という警察上の目的を十分に達成することができる」からLRAになるわけです。
とすれば、事後規制でも「目的を達成できない」のであれば、事後規制はLRAにはならないのです。
2 事後の回復が著しく困難な場合:判例を読んでみる
例えば、ネット上の投稿の場合、プライバシー権侵害等がある投稿があった場合に、ネットでは無限に拡散し収拾不能であり、事後的な損害賠償請求では回復できない損害を被るおそれがあります。
そのような場合は、事後規制に頼るのは相当ではなく、事前規制がなされるべきです。
この点において、名誉権についての北方ジャーナル事件とプライバシー侵害についての石に泳ぐ魚事件が出版差止めを認めるための要件として以下のように述べていることが参考になります。
・北方ジャーナル事件 最判昭和61年6月11日
「表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、当該表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかであるうえ、有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定される」
・「石に泳ぐ魚」事件 最判平成14年9月24日
「侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。」
名誉権侵害の場合は名誉棄損罪(刑法230条)や損害賠償請求、プライバシー権侵害の場合も損害賠償という事後の制裁が存在します。
しかし、上記の判例のように、事後的な回復が困難な場合は、事後の制裁で対応することはできないため、事前規制でシャットアウトする必要があります。
このように、判例も事後規制では対応できない場面の手掛かりを示してくれています。
3 フェイクニュース規制:令和元年司法試験を題材に
さて、令和元年に選挙期間中にフェイクニュースをSNSに投稿した場合、公権力が当該SNSに迅速に削除命令を出すことは憲法21条1項に反しないかという出題がされました。
この規制が事前規制なのか事後規制なのかは一つの検討事項なのですが、ここでは事前規制であることを前提に議論を進めます。
政治に関するフェイクニュースは容易に世論を扇動し、選挙の結果を変えてしまうことは諸外国の事例からしても記憶に新しいでしょう(実際に、令和元年の問題にはそのような事例が実際に存在することが問題文に記述されています。)
フェイクニュースは人に拡散される前に消す必要性・緊急性が極めて高いのです。
一度フェイクニュースが広まり、本来当選するはずであった人が落選してしまうような事態が発生しては、民主主義の根幹を害する緊急事態です。
すなわち、選挙の結果が変わってしまうようなことは、事後の刑罰や損害賠償請求では取り返しがつかない事態です。
よって、事後規制では「選挙の公正さの維持」という目的を到底達成できず、事前規制である迅速な投稿削除命令は手段必要性が認められ憲法21条1項に反しない
というのがこの問題の解答となります。
第3章 まとめ
今回は、LRAの発展編でした。
解法としては
①基本的には事後規制は事前規制に対するLRAとなるため必ず検討する。
②事後規制では、回復不能な事態が発生する場合は事後規制はLRAにならず、強力な事前規制であっても合憲となりうる。
を知っておきましょう。
今回は発展編でしたが、よりLRAの基礎を網羅的に知りたいという人は、以下の記事で網羅的に解説していますので是非読んでくださいね。
LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。
動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。
動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。
動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。
そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
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