予備試験一桁合格者が実質的関連性(手段適合性)の実践的解法を伝授!具体例を豊富に示しながら、実質的関連性のあてはめ力を養成します。
目次
この記事を読んで理解できること
- そもそも手段適合性とは
- 実質的関連性・合理的関連性を深める
- 実質的関連性検討の具体的手法:過去問を利用した研究
目的手段審査を習っても、実際に実質的関連性や合理的関連性等の手段適合性審査を行う場合に、自分でうまくあてはめできているのかなといつも悩んでいませんか?
手段適合性は出題パターンが決まっており、問題文読解の時点で勝負が決まるものですので、手段適合性のあてはめが不安定という人は、おそらく憲法が苦手なのではなく読解が苦手なのです。
そこで、本記事では有名判例のあてはめや、具体的な予備試験や司法試験の過去問の検討を通じて、
予備試験1桁合格者のあてはめの基本的考え方をあなたに伝授し、あなたの脳を予備試験1桁合格者と同じに変えてみたいと思います。
第1章 【基本】そもそも手段適合性とは
「実質的関連性」や「手段適合性」という言葉を使うから急に受験生は身構えて難しいことを考えてしまうのですが、
手段適合性審査とは、要は「目的と関係があるのかないのか」といことを検討するというだけなのです。
目的を達成するために、人権の制約を行っているのに、目的と関係ない方法をとったのでは、人権の制約を正当化できないというただそれだけのことです。
そして、その「関係ある度合い」がかなりあるものを「実質的関連性がある」と呼び、無関係ではないが「関係ある度合い」が小さいものを「合理的関連性がある」と呼んでいるわけです。
なお、「合理的関連性」の下に「目的と無関係」や「目的にとって逆効果」が存在します。
これは次の章で、詳しく見ていきましょう。
今は、以下の図を頭に入れておいてください。
第2章 実質的関連性・合理的関連性を深める
さて、実質的関連性と合理的関連性の差は「関連ある度合い」で決まるもので絶対の基準はないのですが、
あえていうならば、「実質的関連性がある」とは
目的に有効であるとの確実な根拠や事実がある
ことをいいます。
※ただし、確実な根拠がなくても、有効であることを論理的に説明できれば実質的関連性があると認めてもよい事例も存在すると思っています。
1 実質的関連性があるとはどういうことか~薬事法判決を参考に
これについて、厳格な合理性を採用し、「実質的関連性がない」ことを法令違憲の理由とした薬事法判決を見てみましょう。
薬事法判決は、「不良医薬品の供給を防止し、国民の生命・健康を守る」ことが究極目的でした。
その目的達成ために、距離制限をもって競争を防止するという手段が有効であるという国側の主張は、確実な根拠がないと述べています(つまり、実質的関連性がない。)。
・薬事法違憲判決 最判昭和50年4月30日
「薬品の乱売については、むしろその製造段階における一部の過剰生産とこれに伴う激烈な販売合戦、流通過程における営業政策上の行態等が有力な要因として競合していることが十分に想定されることを考えると、不良医薬品の販売の現象を直ちに一部薬局等の経営不安定、特にその結果としての医薬品の貯蔵その他の管理上の不備等に直結させることは、決して合理的な判断とはいえない。殊に、常時行政上の監督と法規違反に対する制裁を背後に控えている一般の薬局等の経営者、特に薬剤師が経済上の理由のみからあえて法規違反の挙に出るようなことは、きわめて異例に属すると考えられる。このようにみてくると、競争の激化―経営の不安定―法規違反という因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。」
ここで、キーワードとして覚えてほしいのは「観念上の想定」、「確実な根拠に基づく」という言葉です。
「競争の激化―経営の不安定―法規違反」という「因果関係」がありそれを防ぐために、「距離制限で競争を防ぎ法規違反を防ぐのが効果的だ」という考えは、「観念上の想定」なのである。つまり、「確実な根拠」がない。
つまり、「観念上の想定」というのは「頭の中で思っているだけ」すなわち「あなたの感想」ということです。
逆に、「観念上の想定」(あなたの感想)ではないというのが、「確実な根拠に基づく」
すなわち「エビデンスがある」ということです。
つまり、「実質的関連性がない」ということは、「それってあなたの感想ですよね?」(ひ〇ゆき)ということです。
逆に、「実質的関連性がある」ということは、「確実な根拠に基づく」といこととなります。
※【発展的コラム】
ただし、先端科学技術研究などにおいて予防原則が認められる場合は、エビデンスがなくても規制する必要があり実質的関連性を認めざるを得ないでしょう。
2 森林法判決で手段適合性を深める:合理的関連性、逆効果
さて、実は手段適合性のあてはめについて、最も秀逸なあてはめをしている判例があり、それは森林法判決だと私は思っています。
森林法判決は、「森林経営の安定」、「森林の荒廃の防止」という目的のために、「共有物分割請求の制限」という手段を設けた森林法の規定が問題となりました。
これに対して、森林法判決は手段適合性について二つのことを述べています。そのいずれも興味深い秀逸なあてはめをしていますので、一つ一つ見ていきましょう。
(1)合理的関連性はあるが実質的関連性はない
まず読み方ですが、最後の文の「合理的関連性」は実質的関連性と読みかえるのが素直です。森林法は厳格な合理性の基準を採用したというのが芦部先生等の解釈であり、かつ、実質的関連性という言葉は最高裁が使うことはありません。言葉としては「合理的関連性」だが「実質的関連性」と読み替えるのが素直です。
すると、最後の一文を以下のように読み替えることができます。
「立法目的と関連性が全くないとはいえないまでも、実質的関連性があるとはいえない」
すなわち、
「意味がないわけではないが、効果があるわけではない」ということです。
それはなぜかというと、森林が共有になってもその共有者間に「目的的団体」が形成されるわけではないからです。
森林共有は、相続などでたまたまなるものであり、共有者間で「森林を荒廃から守ろう」という目的をもった団体を形成するわけではありません。各共有者が自分の利益のために好き勝手行動します。
とすれば、共有で結びつける意味はない。つまり、実質的関連性はありません。
ただ、共有関係が継続すれば顔を突き合わす機会も増えることから「関連性が全くないとはいえない」=「意味なくはない」ということから、合理的関連性は肯定するのでしょう。
(あくまでそう読むのが自然という私の解釈ですが。)
合理的関連性とは「全く意味がないわけでない」という程度の意味にとらえておくといいでしょう。
このような場合、以下のような主張反論パターンを展開できるとかなり点数のある答案となります。
(厳格な合理性の基準を採用することを前提にして)
~~点で目的に対して有効であり、実質的関連性は認められる。
確かに、国の主張のとおり~~という点では一定の意味が存在し、合理的関連性が存在することは認める。
しかし、――――という点において、目的を達成するために十分な効果を有するとはいえず、実質的関連性まで認めることはできない。
(2)合理的関連性すらない:逆効果
さて、二つ目のあてはめに行きましょう。
森林法判決のこのあてはめが極めて秀逸で、自分でこのようなきれいなあてはめができたらもう憲法は卒業と言っていいくらい美しいあてはめです。
以下の判示をご覧ください。
民法の知識ですが、上記判旨が指摘するとおり、共有者は保存行為以外は単独ではできません。
管理行為や変更行為は、他の共有者と共同で行う必要があります。ですので、他の共有者と意見の対立があった場合は、「管理」も「変更」もできない。
すなわち、目の前で森林が荒廃していってもどうしようもできないということです。判例も「森林の荒廃という事態を招来することにとなる」と述べています。
とすると、「森林経営の安定」を目指して共有状態を維持する条文を設けたのに、当該条文により共有状態が存続することからかえって森林が荒廃し、「森林経営が不安定化」することになります。
つまり、目的との関係で「逆効果」なわけです。
逆効果である以上、微塵の関連性もありませんので「合理的関連性」すらありません。全くの無関係です。
実は、予備試験や司法試験では、この「むしろ逆効果で合理的関連性すらない」と指摘させる問題は結構頻出で、これを指摘できるとかなり高得点になりがちです。
「全く関係のない法規制を出題者が出すわけがない」と思ってはいけません。むしろ、「実は逆効果だと気づけるか」が出題趣旨であることはたくさんあるのです。
関連性の検討の際は、
①合理的関連性は認められるが実質的関連性はない
②逆効果であり合理的関連性すらない
がないか検討せよ!
3 【具体例】コロナ対策で学ぶ手段適合性
具体的にイメージを持ってほしいので、コロナ対策を通じて手段適合性を深めていきましょう。
まず、コロナ対策において、
「合理的関連性はあるが実質的関連性はない」対策は、「飲食店や病院の入り口における体温検査」
です。
コロナウイルスは、発症まで5日程度かかるため、熱は出ていなくても感染力あることの方が多いため、体温検査してもコロナ対策になりません。(現に、今大学病院などにおいても体温検査をどんどんやめています。意味がないことを医療従事者は最初から知っていました。)
意味があるとすれば、本当に熱が出ているのに無理やり入ってくる人を防ぐくらいの意味はあるので、そういった意味で「意味はなくはないけど、、、」程度の手段です。
このような場合は、「合理的関連性は認められたとしても、実質的関連性はない」と判断していいでしょう(B領域)。
他方、コロナ対策において「合理的関連性すらない」すなわち「逆効果」とは、イソジンのうがいです。
実は、日常的にイソジンでうがいをすると、のどの常在菌が殺されてしまうためかえってコロナにかかりやすくなるのです。
ですから、イソジンのうがいはコロナ対策としては、「逆効果」であり何の意味もなく、「合理的関連性すらない」ということになります(C領域)。
コロナ対策にとって実質的関連性があるものは、「手洗い、マスク、ワクチン」ということになります(A領域)
第3章 【頻出】実質的関連性検討の具体的手法:過去問を利用した研究
1 規制をしても抜け道が存在する場合、規制が目的達成に有効ではない(実質的関連性がない)
さて、ここまでは、既存の予備校に通われている方であれば知っておいてほしいのですが(教えてない予備校があればそれはモグリです。)、ここからがよく出題される「実質的関連性がない」パターンです。
それは、目的との関連で「規制が狭すぎる」ということです。
規制が狭いというのは、簡単に言うと「抜け道がある」ということです。特定の重要な目的のために、人権を制約したのに、抜け道がある法制度では目的達成できません。
したがって、当該人権を制約する規制は手段として目的達成に対して「関連性がない」と主張できます。
(なお、「規制が広すぎる」も「実質的関連性がない」という文脈でも書けなくはないですが、実際は規制過剰の場合は手段必要性(LRA)で検討すると思われます。)
以下、司法試験と予備試験の過去問二問を使い解説したいと思います。
以下の解説を見ることで、過去問でめちゃくちゃ聞かれているということを理解できると思います。
過去問ベースで理解することで他の受験生と圧倒的に差をつけてしまいましょう。
2 平成26年司法試験憲法
まず、平成26年司法試験憲法の問題を使って解説したいと思います。
まず事例を要約して説明します。
道が険しい観光地(自然保護地域)において交通事故が多発したため、自然保護地域をタクシーが運行するために当該地域で5年以上営業する要件を課す等地元の道路状況が分かっている業者に自然保護地域を運行させることで、交通事故を防止しようとした条例が問題となりました。
道路に不慣れな県外からのタクシー事業者の職業の自由を制約する条例です。
確かに、自然保護地域では交通事故は起きていました。しかし、問題文をきちんと読んでほしいのです。以下示します。
(他の予備校では以下のように教えておらず、受験生のレベルが低いままとなっています。)
・平成26年司法試験第二段落
「それに加えて、自然保護地域内の道路のほとんどは道幅が狭く、片方が崖で曲がりくねっており、人身事故や車同士の接触事故など交通事故が多く発生した。そのほとんどは、この道路に不慣れな自家用車と観光バスによるものであった。」
上の文章をよく読んでください。交通事故は確かに発生しています。
しかし、交通事故を起こしたのはタクシーと書いていますか?
そうです、交通事故を起こしていたのは、「観光バス」です。
タクシーではありません。
とすると、タクシーを規制しても、バスが引き起こす交通事故を防げず、交通事故防止の目的を達成できません。
つまり、規制として足りていないので、タクシー規制は交通事故防止の目的との関連で関連性を有しません。
また、もう一つ論じることはできないでいでしょうか。
というのも、この規制は「地元の人間じゃないと交通事故を起こすので、県外からの事業者は継続営業要件等を課す」というものですが、交通事故を起こしていたのは「観光バス」であり、地元の道路状況をよく知っている事業者です。
とすると、地元の人間が交通事故を起こしていた以上、県外の人間を規制しても交通事故防止の目的を達成できません。
したがって、規制として意味がないので、関連性は否定されます。
慣れてくると、実はこのようなことは過去問でたびたび出題されており、一桁で合格できるようなトップ層だけ常識になっているのです。
3 令和3年予備試験憲法
では、予備試験の問題を見ていきましょう。上記の問題をやった後だと簡単に思えますよ。
ビラ規制の問題なのですが、観光地であり、歴史的環境を保護するためにビラ規制をしたという問題です。
問題文を見てみてください。
・令和3年予備試験憲法
「特別規制区域内の路上での印刷物(ビラ、チラシ等)の配布は禁止される(違反者は罰金刑に処せられる)。しかし、特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物を路上で配布することは禁止されない。これは、担当者Eの説明によれば、そのような印刷物はC地区の歴史・伝統に何らかの関わりのあるものであって、C地区の歴史的な環境を損なうとは言えないからである。」
上の太字部分のとおり、観光地の店舗関係者の営業のビラは禁止されていません。
しかし、ビラで歴史的な環境を害されるというのならば、「ビラを配る人がいることそのもの」によるはずです。
観光地の店舗だろうが、営業活動でビラを配布していたのでは、それは歴史的な環境に適合しているというとそうではありません。
つまり、「抜け道」が存在するわけです。
したがって、「営業以外のビラ配布規制」では目的は達成できませんので、実質的関連性はありません。
以下イメージがつきやすいように、具体的な「ヨビロン憲法」での私の解答を示しておきます。
仮に歴史的環境を害されるのであれば印刷物配布行為自体が原因であるはずであり、印刷物配布の主体が誰かは本来関係ないはずである。
とすれば、同区域内の店舗関係者には印刷物配布が認められていることは目的に適合していない。
第4章 まとめ
以上もう一度まとめてみます。
手段適合性には具体的には3つの領域があるといことを理解してください。
A領域:実質的関連性が認められる(確実な根拠がある、効果的)
B領域:合理的関連性はあるが実質的関連性はない(意味はなくない程度、観念上の想定)
C領域:合理的関連性すらない(全く無関係、逆効果)
その上で、「手段として抜け道がある場合」は実質的関連性が認められないということ具体的手法も、頻出のものとして知っておきましょう。
以上で、手段適合性の判断枠組みがかなりわかったと思います。LRAについても、他の予備校では解説できないようなより深い解説をした記事を作りましたので是非こちらも読んでいただけると幸いです。
LINE特典動画では、私が提唱する「解法パターン」とその活用方法の一端をお見せします。
動画①では、「判例の射程とは何か」を予備試験の過去問を題材にしながら分かりやすく解説します。この解説を聞いた受講生からは「判例の射程の考え方・書き方がようやくわかった!」との言葉をいただいております。
動画②では、試験開始前に見ることで事案分析の精度が格段にあがるルーズリーフ一枚に収まる目的手段審査パターンまとめです。
動画③では、どの予備校講師も解説をぼやかしている生存権の解法を明確にお渡しします。
そして、動画④では③の生存権の解法パターンを使って、難問と言われた司法試験の憲法の過去問の解説をします。
是非、解説動画を受け取って、世界を変えてください。