【改正法対応の論証付き】基礎事情の錯誤を簡単にあてはめていないか!?民法95条のあてはめを極めて他の受験生と差をつけよう。

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【改正法対応の論証付き】基礎事情の錯誤を簡単にあてはめていないか!?民法95条のあてはめを極めて他の受験生と差をつけよう。
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チェック
この記事を読んで理解できること
  • 錯誤の基本的理解
  • 基礎事情錯誤を深める

錯誤について質問します。

彼女に気に入ってもらえると思ったのでこの指輪を買いたい」
値段が上がると思ったのでこの土地を買いたい」

と言って売買契約を締結した場合に、彼女に気に入ってもらえなかったり、値段が上がらなかったとき

法律行為の動機を相手に表示していることをもって、「基礎事情の錯誤」として民法95条1項2号で取り消せるでしょうか。

要件的には満たすように思えますが、結論としては妥当ではないように思えます(錯誤取消しを認めるとあまりにも売主に酷です。)。

今回は、このような通常の予備校ではあまり習わないが、予備試験レベルでは必須の「基礎事情の錯誤」の知識を深く授けたいと思います。

予備試験や上位ロー入試において、近年の民法は、「改正法を理解できているか」という出題がメインです。
ですので、債権法改正でポイントとなった条文については、誰よりも深く理解しておくことが重要です。

第1章は、基本的なことを述べますので、すぐに本題を読みたい人は第2章から読むことをお勧めします。

第1章 【基礎】錯誤の基本的理解

1 表示錯誤(1号)と基礎事情錯誤(2号):定義上の違い

まず、民法95条を見ていきましょう。今回のテーマである1項と2項のみ掲載します。

(錯誤)

第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

ここでまず、95条1項一号と二号の二つの錯誤があると条文上分かります。

一号:「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」
二号:「表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤」

一号を「表示錯誤」(意思の不存在の錯誤)といい、二号を「基礎事情錯誤」と呼びます。

表示錯誤は、表意者自らしたつもりであった意思表示(内心)と実際にした意思表示(表示)が不一致である場合です。

具体的には、1000万円で購入したい(内心)と思った際に「100,000,000」(1億円)と記載してしまった(表示)場合です。


他方、
基礎事情錯誤は、内心と表示は一致しますが、表示の基礎となった事情についての認識が事実に一致しない場合です。

具体的には、「有名人の絵」だと思った(基礎事情)ので1000万円で購入したいと思い購入の申込みをしたのに、実際は「別人の絵」だった場合です。
(ここでは、1000万円で「その絵」を購入したいという内心と表示は一致しています。)

表示錯誤 – 1

2 表示錯誤と基礎事情錯誤の要件の違い

結論から言いますと、基礎事情錯誤(2号)の方が要件が加重されています。それは2項により分かります。
もう一度、95条2項を掲載します。

2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

2号の基礎事情錯誤についてのみ、「基礎事情の表示」が要件となっています。
まとめますと、表示錯誤と基礎事情錯誤の要件は以下のようになります。

【表示錯誤】

ⓐ意思表示に対応する意思を欠く錯誤がある(表示錯誤)
ⓑその錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(錯誤の重要性)
ⓒその錯誤に基づく意思表示(主観的因果関係)

【基礎事情錯誤】

ⓐ表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に関する錯誤があること
ⓑその錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること(錯誤の重要性)
ⓒその錯誤に基づく意思表示(主観的因果関係)
ⓓⓐの事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたこと

つまり、基礎事情錯誤の方が、95条2項がある分、要件が一つ多いとうことに注意してください。(ⓓ)

【補足】
95条2項をもう一度見てみください。基礎事情を表示する主体についての記載がありません。
したがって、基礎事情の表示は表意者による動機の表示である必要はないので、相手方により誤った基礎事情が表示されていた場合も含むことに注意しましょう。

第2章 基礎事情錯誤を深める

1 基礎事情を表示しただけで錯誤取消しを認めることの不合理さを理解する

この記事の本題に入りましょう。あまり予備校本で解説されることが少ないのですが、債権法改正に関するどの書籍でも触れられていますので、わからない場合は何度も読んでみてください。

「はじめに」で記載したとおり、契約の動機を表示した場合に錯誤取消しを認めると結論に妥当性がないケースが存在します。
このような場合に、単に「「表示」していたことから95条2項の要件を満たし、錯誤取消しできる」と答案に書くと、出題趣旨を外す可能性があります。

それは以下のようなケースです。

(ケース1)
X(買主)はY(売主)に対して「彼女に喜んでもらえると思ったのでプレゼントとして買う」と表示して指輪を購入したが、実際には彼女が喜んでくれなかった。

(ケース2)
不動産取引においてX(買主)がY(売主)に対して、「値上がりすると思うので買います」と表示して土地を購入したが、実際には土地は値上がりしなかった。

上の二つのケースは両方とも動機を「表示して」いますので、条文の要件を形式的に満たすように見えます。
しかし、彼女が喜ぶかどうかという売主にとってはいかんともしがたい理由をもって契約が取り消されることは妥当でしょうか。

また、ケース2では不動産の購入は自己責任の投資ですが「値上がりすると思ったから」と表示さえすれば、不動産価格低下のリスクをヘッジできるのでは、投資家に著しく有利となり、投資になりません。

つまり、実質論として、一方の当事者が一方的に事情を伝えただけで(つまり、言いっぱなしにさえすれば)「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた」と解せるとすることは、結論の妥当性がありません。

どんな契約でも相手方に「~~と思ったから契約します」と言いさえすれば、錯誤取消しできるとすると、言いっぱなしにさえすれば相手にリスクを全て押し付けることができます。

そこで、95条1項2号の基礎とされた「事情」を解釈で絞りをかけて事情の誤りをリスク転嫁を正当化できる事情」であることを必要とすると解すべきと考えます。
(同趣旨の参考文献として『実務解説 民法改正─新たな債権法下での指針と対応』(大阪弁護士会民法改正問題特別委員会 編)p14、『事例でおさえる民法 改正債権法』(磯村保 著)p16を挙げておきます)。

さて、『ヨビロン民法』では受験生用の論証を作ってみましたので参考にしてみてください。

(論証)「基礎とした事情」(95条1項2号) リスク転嫁の正当化

確かに本件では、「~~」という旨相手方に表示されており、形式的には事情を「表示」しており錯誤の要件を満たしているように思える。しかし、一方的に事情を告げさえすれば錯誤取消しが可能とできる解釈はリスク分担の観点から妥当ではない。

そこで、95条1項2号の基礎とされた「事情」とは「事情の誤りのリスクを相手方に転嫁することを正当化する事情」と解すべきである。

(※この論証は「事情」(95条1項2号)の解釈とする論証ですが、錯誤の「重要」性(95条1項柱書)の問題とすることもできます。債権法改正の書籍を読んで自分にしっくりくる論証を作ってみてもいいと思います。)

さて、上記の論証を使って、ケース1、ケース2のあてはめを行いましょう。

上記論証を前提とすると、投資などの「自己のリスクでなされる取引」「事情の誤りのリスクを相手方に転嫁することを正当化する事情」とはいえませんから、民法95条2項を適用はありません。

・ケース1(彼女へのプレゼント)において、彼女に好かれるかどうかは売主に全く関係のないもので、買主が「自己の(プレゼントしても振られる)リスクでなされる取引」といえます。

また、

・ケース2(不動産購入)においても、不動産価格が上がるか下がるかは投資である以上「自己のリスクでなされる取引」となります。

よって、ケース1とケース2で表示された事情は「事情の誤りのリスクを相手方に転嫁することを正当化する事情」とはならず、民法95条2項の要件を満たさないため、錯誤取消しはできないというのが結論となります。

(※なんども言いますが、見解は他にありますが、少なくとも結論において「錯誤取消しできない」とい結論をとるために、何らかの解釈をして修正するということがポイントとなります。)

第3章 まとめ

予備試験や司法試験で基本的に出題されるのは、基礎事情錯誤です。
そのような場合に、本当に錯誤取消しが認められるかという結論の妥当性は債権法改正において重要な関心事でした。

ですので、本記事を参考に実際の出題において、「錯誤取消しを認める」という結論をとろうとしたとき、その結論が妥当かどうか立ち止まって考えていただけたらよいと思います。

本記事は売買契約についてでしたが、保証契約や贈与契約など契約の類型ごとに、リスクの転嫁が妥当かの考慮が変わります。

これについては、他の記事や教材でお伝えしようと思っております。
是非、楽しみにしていただけたらと思います。

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