【宮本から君へ事件】三段階審査ではもう対応できない!表現助成の本質と解法を徹底解説【司法試験・予備試験】

監修者
講師 赤坂けい
株式会社ヨビワン
講師 赤坂けい
【宮本から君へ事件】三段階審査ではもう対応できない!表現助成の本質と解法を徹底解説【司法試験・予備試験】
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この記事を読んで理解できること
  • 「宮本から君へ」事件の事案
  • 「宮本から君へ」事件の判旨を徹底分析

表現活動に対して国による助成の制度が存在する場合、国が助成を拒否することは憲法上どのような問題があるでしょうか?

この問いに対して、真っ先に「パブリックフォーラム」や「表現の自由の実質的制約」を考えた人は要注意です。

「宮本から君へ」事件判決は、表現の自由に対する「制約」を認定することなく、行政裁量論で違法の結論を導いています。
これを理解することなく安易に「パブリックフォーラム」や「表現の自由の実質的制約」といった理論を濫用すると、答案としては致命傷になりかねません。

そこで今回は、「宮本から君へ」事件の事案や判旨を徹底的に分析することで、表現の助成について問題の本質を理解していただきたいと思います。

司法試験や予備試験で重要論点の一つとなることは必至ですので、ぜひマスターしてください。

第1章 「宮本から君へ」事件の事案

1 事案の概要

まずは事案の概要を把握しましょう。

判例の原文から抜粋します。

・「宮本から君へ」事件 最判令和5年11月17日

「本件は、映画製作会社である上告人が、被上告人の理事長(以下、単に「理事長」という。)に対し、「宮本から君へ」と題する劇映画(以下「本件映画」という。)の製作活動につき、文化芸術振興費補助金による助成金(以下「本件助成金」という。)の交付の申請をしたところ、理事長から、本件助成金を交付することは公益性の観点から適当でないとして、本件助成金を交付しない旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたため、被上告人を相手に、本件処分の取消しを求める事案である。」

このように、「宮本から君へ」事件は映画製作に対する助成金を交付しない旨の決定に対し、取消訴訟が提起されたという事案です。

ここで注意していただきたいポイントとして、助成金は文字通り「お金」を提供するものです。

これに対し、予備校でも教わることが多い「パブリックフォーラム」とは、表現活動に公共の場を利用するという「場所」の提供に関するものです。

そのため、「本件助成金はパブリックフォーラムである」といった表現は、形式レベルで基本的な理解を疑われかねないので気を付けてください。
(思考過程でパブリックフォーラム「的な」考え方をすること自体は否定しませんが、「パブリックフォーラムである」と答案に書くことはNGです)

2 本件助成金の交付手続

次に、本件助成金の交付手続を見ていきましょう。

原文を要約して紹介します。

1 本件助成金の交付を受けようとする者は、助成金交付要望書を理事長に提出する。理事長は、外部の有識者で構成される基金運営委員会の議を経て、対象となる活動及び助成金の額の交付内定をする。

2 交付内定の通知を受けた者は、内容を受諾した場合は助成金交付申請書を理事長に提出する。理事長は、その内容を審査し、本件助成金を交付すべきと認めたときは、交付決定をする。

このように、本件助成金は、

助成金

①助成金交付要望書を理事長に提出
②理事長が基金運営委員会の議を経て交付内定
③助成金交付申請書を理事長に提出
④理事長が内容を審査して交付決定

という手続を経て交付されます。

そして、前述のとおり、本件は理事長が本件助成金を交付しない旨の決定をしたことに対する取消訴訟なので、④の交付決定の問題ということです。

つまり、確定的な権利を剥奪したわけではなく、あくまで正規の手続に則って不交付の決定がなされたことは理解しておきましょう。

3 本件処分の経緯

では、本件処分はどのような経緯でなされたのでしょうか。

原文を要約して紹介します。

上告人は、本件映画の製作活動につき、助成金交付要望書を理事長に提出した。理事長は、要望を採択すべき旨の基金運営委員会の答申を受け、交付内定をした。

その後、本件映画の出演者の一人が、コカインを使用したとして、麻薬及び向精神薬取締法違反の罪により有罪判決を受け、判決が確定した。

上告人は、本件内定に係る助成金交付申請書を理事長に提出したが、理事長は、「国の事業による助成金を交付することは、公益性の観点から、適当ではない」として、本件助成金を交付しない旨の本件処分をした。

このように、本件は②交付内定が出た後に出演者が有罪判決を受け、その後③助成金交付申請書を理事長に提出したが、④理事長が本件助成金を交付しない決定をしたというものでした。

つまり、外部の有識者から成る基金運営委員会の議を経ており、本件映画は芸術的な観点からは何も問題がないということです。

しかし、その後出演者が有罪判決を受けたという事情を考慮して不交付の決定をすることの適法性が問題になりました。

第2章 「宮本から君へ」事件の判旨を徹底分析

それではいよいよ、「宮本から君へ」事件の判旨を見ていきましょう。

1 理事長の裁量

(1) 本件助成金については、振興会法や補助金等適正化法に具体的な交付の要件等を定める規定がないこと、芸術の創造又は普及を図るための活動に対する援助等により芸術その他の文化の向上に寄与するという本件助成金の趣旨ないし被上告人の目的…を達成するために限られた財源によって賄われる給付であること、上記の趣旨ないし目的を達成するためにどのような活動を助成の対象とすべきかを適切に判断するには芸術等の実情に通じている必要があること等からすると、その交付に係る判断は、理事長の裁量に委ねられており、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に違法となるものというべきである。

(2) そして、被上告人は、公共の利益の増進を推進することを目的とする独立行政法人であり…、理事長は、本件助成金が法令及び予算で定めるところに従って公正かつ効率的に使用されるように努めなければならないこと…等に照らすと、芸術的な観点からは助成の対象とすることが相当といえる活動についても、本件助成金を交付すると一般的な公益が害されると認められるときは、そのことを、交付に係る判断において、消極的な事情として考慮することができるものと解される。

このように、判旨は

判旨

①具体的な交付の要件等を定める規定がない
②限られた財源によって賄われる給付である
③芸術等の実情に通じている必要がある

という三つの理由から、理事長の裁量を認めました。


①は条文等の形式から裁量を認めるものであり、③は専門的判断が必要であることを理由に裁量を認めるものです。
どちらも行政裁量の認定でよく用いられています。
②は財源を理由に裁量を認めるものであり、生存権が問題になる場面でよく使われます。

そして、「芸術的な観点からは助成の対象とすることが相当といえる活動についても、本件助成金を交付すると一般的な公益が害されると認められるときは、そのことを、交付に係る判断において、消極的な事情として考慮することができる」、つまり本件映画が芸術的な観点で問題がないとしても、それ以外の事情を問題にして不交付の決定をすることが直ちに他事考慮として違法になるわけではないことを示しています。

2 消極的事情の限定解釈

「本件助成金を交付すると当該活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されることを理由とする交付の拒否が広く行われるとすれば、公益がそもそも抽象的な概念であって助成対象活動の選別の基準が不明確にならざるを得ないことから、助成を必要とする者による交付の申請や助成を得ようとする者の表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性がある。このような事態は、本件助成金の趣旨ないし被上告人の目的を害するのみならず、芸術家等の自主性や創造性をも損なうものであり、憲法21条1項による表現の自由の保障の趣旨に照らしても、看過し難いものということができる。そうすると、本件助成金の交付に係る判断において、これを交付するとその対象とする活動に係る表現行為の内容に照らして一般的な公益が害されるということを消極的な考慮事情として重視し得るのは、当該公益が重要なものであり、かつ、当該公益が害される具体的な危険がある場合に限られるものと解するのが相当である。」

このように、判旨は

判旨

公益は抽象的な概念であり基準が不明確
      ▼
表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性
      ▼
芸術家等の自主性や創造性をも損なうことは、表現の自由の保障の趣旨に照らして看過し難い
      ▼
一般的な公益が害されるということを消極的な考慮事情として重視し得るのは
当該公益が重要なものであること
当該公益が害される具体的な危険があること
の両方が認められる場合に限られる

という理論構成をしています。

ここで注目すべきことは、表現の自由の「制約」が認められたわけではないということです。

泉佐野市民会館事件(最判平成7年3月7日)は、市民会館の使用拒否について「集会の自由の不当な制限につながるおそれ」、「集会の自由を実質的に否定することにならないかどうかを検討すべき」という表現をしており、実質的制約を認めた判例とされています。

これに対し、本件では「表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性」、「表現の自由の保障の趣旨に照らしても、看過し難い」という表現にとどまっています。

本件がこのような表現をしているのは、不交付の決定はあくまで「お金を提供しない」だけであり、表現の自由の制約を認定するのは困難であることから、あくまで裁量論において判断過程統制をする要素の一つとしているものと考えられます。

したがって、本件のような事案で「表現の自由の実質的制約」といった理由を使って三段階審査をすることは明らかに的外れといえるでしょう。

3 あてはめ

「被上告人は、本件出演者が出演している本件映画の製作活動につき本件助成金を交付すると、被上告人が「国は薬物犯罪に寛容である」といった誤ったメッセージを発したと受け取られて薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれが高く、…国民の税金を原資とする本件助成金の在り方に対する国民の理解を低下させるおそれがあると主張する。」

「しかしながら、本件出演者が本件助成金の交付により直接利益を受ける立場にあるとはいえないこと等からすれば、本件映画の製作活動につき本件助成金を交付したからといって、被上告人が上記のようなメッセージを発したと受け取られるなどということ自体、…にわかに想定し難い上、これにより直ちに薬物に対する許容的な態度が一般に広まり薬物を使用する者等が増加するという根拠も見当たらないから、薬物乱用の防止という公益が害される具体的な危険があるとはいい難い。そして、被上告人のいう本件助成金の在り方に対する国民の理解については、…このような抽象的な公益が薬物乱用の防止と同様に重要なものであるということはできない

 そうすると、本件処分に当たり、本件映画の製作活動につき本件助成金を交付すると、本件出演者が一定の役を演じているという本件映画の内容に照らし上記のような公益が害されるということを、消極的な考慮事情として重視することはできないというべきである。そして、前記事実関係等によれば、理事長は基金運営委員会の答申を受けて本件内定をしており、本件映画の製作活動を助成対象活動とすべきとの判断が芸術的な観点から不合理であるとはいえないところ、ほかに本件助成金を交付することが不合理であるというべき事情もうかがわれないから、本件処分は、重視すべきでない事情を重視した結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるということができる。」

国側の主張としては、

国側の主張

⑴ 薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれ
⑵ 本件助成金の在り方に対する国民の理解を低下させるおそれ

という二つの公益が害される旨の主張をしました。


まず、⑴については以下の判断がなされました。

⑴について判断

⑴ 薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれ
        
本件出演者が本件助成金の交付により直接利益を受ける立場にあるとはいえない
        
・「国は薬物犯罪に寛容である」というメッセージを発したと受け取られることは想定し難い
・直ちに薬物に対する許容的な態度が一般に広まり薬物を使用する者等が増加するという根拠も見当たらない
        
②公益が害される具体的な危険があるとはいい難い

薬物に対する許容的な態度が一般に広まることによる害悪は大きいので、公益の重要性は否定できないことが前提になっているものと考えられます。
しかし、本当にそのようなおそれが現実化する具体的危険があるのかということを緻密に審査しているのです。
このような審査方法は、目的手段審査でいうところの実質的関連性に類似しています。

次に、⑵については以下の判断がなされました。

⑵について判断

⑵ 本件助成金の在り方に対する国民の理解を低下させるおそれ
        
①抽象的な公益が薬物乱用の防止と同様に重要なものとはいえない

このように、⑵については、そもそも公益が抽象的なものであり重要性が認められないと判断したのです。
これは、目的手段審査でいうところの目的の重要性の検討と類似しています。

すでにお気づきかと思いますが、最高裁は行政裁量という枠組みを用いているものの、実質的には目的手段審査に近い検討を行っているのです。
「三段階審査でないと目的や手段を検討できない」という考え方は明確に終わりを迎えたといえます。

【コラム】

目的が「安心」「信頼」といった抽象的なものである場合、本当に重要な目的であるのかは必ず指摘する必要があります。
過去問でどのような形で問題となり、どのように解けば良いのかは「ヨビロン憲法」テキストをご参照ください。

第3章 まとめ

以上のとおり、「宮本から君へ」事件は裁量論の中で考慮できる事情を限定解釈した上で、目的や手段を緻密に検討するという審査方法を採用しました。

今後、表現の助成に関する事例(特に「お金」の提供に関するもの)が出題された際、三段階審査しか使えないか裁量論を使いこなせるかが合否を左右するといっても過言ではありません。
具体的な主張反論パターンは「ヨビロン憲法」テキストに記載しているのでご参照ください。

また、平成28年予備試験憲法は、結婚支援事業を行うNPO法人が誓約書を提出しないと助成を受けられないという事案であり、まさしく裁量論が問題となる過去問です。
具体的な解法や答案は過去問解説でご覧いただけます。

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