【憲法入門4】思想良心の自由とは?基礎から重要判例まで解説!

目次

この記事を読んで理解できること
- 思想良心の自由とは何か
- 思想良心の自由の4類型
- 外部的行為の強制と重要判例
▼前回の記事▼
【憲法入門3】平等権とは? 基礎から違憲審査の重要ポイントまで解説!
この記事は、
- 思想良心の自由とは何かを知りたい
- 思想良心の自由は具体的にどのようなものがあるかを知りたい
- 思想良心の自由が問題となった判例を理解したい
といった方におすすめです。
思想良心の自由は精神的自由権の中でも最も根本的な権利ですが、抽象的でわかりにくいと感じる方もいるのではないでしょうか?
そこで、この記事では、
第1章で思想良心の自由とは何かについて、
第2章で思想良心の自由の4類型について、
第3章で「外部的行為の強制」という重要論点と君が代に関する判例について、
それぞれ解説します。
基礎知識をわかりやすく簡潔に説明しますので、初学者の方はもちろん、憲法をひと通り学んだ方のまとめ用にも最適です。
第1章 思想良心の自由とは何か
この章では、そもそも思想良心の自由とはどういうものなのかを解説します。
まずは条文を読んでみましょう。
憲法19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
このように、とてもシンプルな表現となっています。
条文では「思想及び良心」と書かれていますが、明確に区別する必要はありません。
思想と良心の二つを合わせて、世界観、人生観、主義、主張などを意味します。
難しい言い方をすると、「個人の人格的な内面的精神作用」というのが思想良心の定義です。
要するに、頭の中で考えていることが何でもかんでも思想良心になるわけではなく、自分の人格に関わるような価値観に限定されます。
例えば、謝罪広告事件(最判昭和31年7月4日)は、名誉毀損の加害者に対し、謝罪広告を新聞紙に掲載するよう命じることは、憲法19条に反しないと判断しました。
一般的な解釈としては、事実の認識や謝罪の意思などは、そもそも思想良心の自由に含まれないとした判例であると考えられています。
ここまで、思想良心の自由とは何かについて説明しました。
ただ、これだけでは抽象的すぎて、具体的なイメージが湧きにくいと思います。
そこで、次の章では、思想良心の自由にはどのような類型があるのかを解説します。
第2章 思想良心の自由の4類型
思想良心の自由は、大きく分けて以下の4つに分類されます。
- 内心の自由
- 不利益取扱いの禁止
- 沈黙の自由
- 外部的行為強制の禁止
それぞれ説明します。
2-1 内心の自由
これは、特定の思想を持つことを強制されたり禁止されたりしない自由のことです。
明治憲法下の日本のように、天皇崇拝を強制することなどが典型例として挙げられます。
ただ、現代において国家があからさまにそのような思想強制をしてくることは考えにくいですよね。
過去に思想良心の自由が問題となった判例も、思想そのものの強制が正面から問題となっているわけではありません。
2-2 不利益取扱いの禁止
これは、特定の思想を有していることを理由に、不利益を与えることは許されないということです。
これも国家があからさまにそのような取扱いをしてくる可能性は低いですが、会社と個人との間では問題となるケースもあります。
会社が個人の思想を理由に不採用としたところ、思想良心に基づく不利益取扱いではないかが争われるような場合です。
この場合、憲法が私人と私人の間にも適用されるのかという私人間効力の問題も出てきます。
最高裁は三菱樹脂事件(最判昭和48年12月12日)において、
・企業は採用の自由がある →思想を理由とする採用拒否も違法ではない。 ・雇い入れた労働者の地位を奪う自由は広くない →思想を理由とする解雇は許されない。 |
と判断しました。
2-3 沈黙の自由
これは、国家権力が個人の思想を調査したり、推知しようとしたりしてはいけないということです。
なお、国家が個人の思想を調べることだけでなく、国家が個人の思想を第三者に暴露することも禁止されます。
これが争われるケースとしては、国公立の学校の内申書に、個人の思想に関わるような情報を記載する場合が挙げられます。
例えば、麹町中学内申書事件(最判昭和63年7月15日)は、内申書に生徒の全共闘活動への参加やビラ配付などの活動を記載したことについて、「思想、信条を了知し得るものではない」として、憲法19条に違反しないと判断しました。
2-4 外部的行為強制の禁止
これは、個人の思想に反する行為を強制することは許されないということです。
一番重要な部分ですので、次の章で詳しく解説します。
第3章 外部的行為の強制と重要判例
3-1 外部的行為の強制は絶対にダメ?
前章で説明したとおり、個人の思想に反する行為を強制することは許されません。
しかし、外部的行為の強制が全て禁止されるとどうなると思いますか?
例えば、ある法律が制定されたとき、「それは自分の思想に反する!」と言えば守らなくてもいいのでしょうか?
そんなわけはないですよね。
いくら思想良心の自由が大事でも、すべての人が自分の思想を貫いて好き勝手に行動したら、社会は成り立ちません。
そのため、外部的行為の強制がどのような場合に違憲となるのかについては、事案に応じた判断が必要となるのです。
(これに対し、内心そのものを強制することは絶対的に禁止されるので、直ちに違憲となります)
そこで、思想良心の自由の中で特に重要な判例である
- 君が代ピアノ伴奏事件
- 君が代起立斉唱事件
をそれぞれ見ていきましょう。
3-2 君が代ピアノ伴奏事件
まずは、君が代ピアノ伴奏事件(最判平成19年2月27日)について解説します。
事案は以下のとおりです。
市立小学校の音楽専科の教諭が、入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うことを内容とする校長の職務上の命令に従わなかったことを理由に教育委員会から戒告処分を受けたため、校長の命令は憲法19条に違反するなどとして、戒告処分の取消しを求めた。 |
原告(上告人)である音楽教諭は、君が代は過去の日本のアジア侵略と結び付いており、これを公然と歌ったり、伴奏したりすることはできないと考えていました。
そのような考えを持っている人に対し、ピアノ伴奏を命令することは許されるのかが本件の争点です。
結論として、最高裁は、本件の命令及び処分を適法と判断しました。
理由を要約すると以下のとおりです。
・音楽教諭がピアノ伴奏をすることは通常期待される。 →特定の思想を外部に表明する行為とはいえない ・ピアノ伴奏の命令は儀式的に広く行われている →特定の思想を強制、禁止するものではない。 |
一般的な解釈としては、そもそも思想良心の自由に対する制約を認めなかった判例であると考えられています。
3-3 君が代起立斉唱事件
次に、君が代起立斉唱事件(最判平成23年5月30日)について解説します。
事案は以下のとおりです。
都立高等学校の教諭が、卒業式における国歌の起立斉唱を命ずる校長の職務命令に従わなかった。 その後、定年退職に先立ち申し込んだ非常勤の嘱託員等の採用選考において、教育委員会から、職務命令違反等を理由に不合格とされた。 上記職務命令は憲法19条に違反するなどと主張して、国家賠償を求めた。 |
結論として、最高裁は、本件の職務命令は適法であると判断しました。
結論はピアノ伴奏事件と同じですが、理由に違いがあります。
要約すると以下のとおりです。
・起立斉唱行為は、国歌に対する敬意の表明の要素を含む →自らの歴史観や世界観との関係で君が代に否定的評価をしている者にとっては、思想良心の自由についての間接的な制約となる。 ・学校の儀式的行事においては、教育上の行事にふさわしい秩序を確保して式典の円滑な進行を図ることが必要 →職務命令には必要性、合理性が認められる。 |
このように、最高裁は、起立斉唱行為の命令は思想良心の自由を制約することをはっきり認めています。
ただし、特定の思想を強制、禁止しているわけではないので、あくまで間接的な制約であるとしたのです。
その上で、卒業式などの儀式的な行事で円滑な進行を図る必要があるので、起立斉唱の命令には必要性、合理性があるとして憲法19条違反を認めませんでした。
このように、間接的な制約というフレーズは、「確かに制約はあるけれど、違憲審査基準は下がるよ」という文脈で用いられます。
第4章 まとめ
以上のとおり、思想良心の自由とは「個人の人格的な内面的精神作用」についての自由であり、世界観、人生観、主義、主張などを意味します。
思想良心の自由を分類すると
- 内心の自由
- 不利益取扱いの禁止
- 沈黙の自由
- 外部的行為強制の禁止
の4つがあり、④外部的行為強制の禁止が特に重要です。
外部的行為の強制が憲法19条に反するのかについては、事案に応じた判断が必要となります。
最高裁判例では、
- 君が代ピアノ伴奏事件
- 君が代起立斉唱事件
の2つが有名です。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
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