【憲法入門2】プライバシー権とは? 憲法13条の定義から具体的判例まで完全解説

目次

この記事を読んで理解できること
- プライバシー権とは何か
- プライバシー権の重要性
- プライバシー権の制約態様
▼前回の記事▼
あなたは、
- プライバシー権とは何かを知りたい
- プライバシー権は何が論点になるのかを知りたい
- プライバシー権について答案を書けるようになりたい
などとお考えではありませんか?
プライバシー権は、基本的人権の一つと考えられていますが、憲法の条文に明記されていないため、定義についても見解が分かれています。
この記事では、
第1章でプライバシー権とは何かについて、
第2章でプライバシー権の重要性を検討する方法について、
第3章でプライバシー権の制約態様を検討する方法について、
それぞれ解説します。
この記事を読めば、初学者の方がプライバシー権について理解を深められることはもちろん、中級者以上の方の総まとめ用にも活用いただけます。
なお、プライバシー権は単に「プライバシー」と表現することもあります。
基本的に同じ意味だとお考えください。
第1章 プライバシー権とは何か
この章では、そもそもプライバシー権とは何かについて解説します。
実は、プライバシー権の定義は明確なものではありません。
憲法の条文を読んでみましょう。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
プライバシー権は、憲法13条の幸福追求権の一つであると解釈されており、憲法には「プライバシー権」という言葉はないのです。
そこで、プライバシー権とは何かについて、伝統的な考え方と最近の考え方をそれぞれ紹介します。
1-1 伝統的な考え方
伝統的な考え方としては、プライバシー権は
「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」
と考えられてきました。
有名な裁判例として、「宴のあと」事件(東京地判昭和39年9月28日)がこのような定義を用いています。
具体的には、
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という要件を満たした場合には、プライバシーの侵害に対し法的な救済が与えられると判断しました。
簡単に言えば、
普通の人は公開しないでほしいと思うような個人情報を公開されてしまった
という場合には、プライバシー侵害が認められるということです。
1-2 最近の考え方
上記の伝統的な考え方に対しては、「プライバシー権の範囲が狭すぎる」という批判がなされてきました。
例えば、政府を批判するような表現活動をしている人に警察が目を付けて、個人情報を収集したとしましょう。
この場合に伝統的な考え方を前提とすると、「警察が個人情報を公開しなければ、収集しても構わない」ということになってしまいます。
そこで、最近の考え方は、プライバシーを「自己情報コントロール権」と解釈するようになりました。
簡単に言えば、
「同意なく個人情報を収集、管理、開示されない権利」
ということです。
伝統的な考え方よりも、個人情報が守られる範囲が広くなっています。
もちろん、国家が個人情報を何一つ管理してはいけないということにはなりません。
具体的にどのような場合が許されないのかは最高裁判例をしっかり勉強する必要があります。
とはいえ、ひとまずは
「プライバシーとは自己情報コントロール権のこと」
と理解していただければ問題ありません。
第2章 プライバシー権の重要性
前回の記事では、
「憲法上の権利が侵害された場合、権利の重要性と制約の態様を検討する」という話をしました。
プライバシー侵害の場合も、
- プライバシー権の重要性
- プライバシー権の制約態様
を検討する必要があります。
まずはこの章では、プライバシー権の重要性をどのように検討すればよいのかを解説します。
2-1 プライバシー固有情報vsプライバシー外延情報
一般的に、
- プライバシー固有情報は審査基準が上がる
- プライバシー外延情報は審査基準が下がる
と考えられています。
プライバシー固有情報とは、
- 個人の思想信条に関わる情報
- 病気や障害などの身体的特徴に関する情報
- 前科などの名誉、信用に直接つながる情報
といった、個人の心身や名誉の基本に関わる情報を意味します。
このような情報は、誰にとっても他人に勝手に使われたくないことは明らかなので、厳格に審査すべきと考えられています。
他方、プライバシー外延情報は氏名、住所といった単純な情報を意味します。
これらの個人情報は国家により管理されることや、私生活でも他者に開示することが予定されており、比較的緩やかに審査されます。
ただ、そうはいっても、SNSで自分の氏名と住所を晒されたり、知らない間に個人情報を警察に集められたりすることなどは、普通の人は嫌ですよね。
プライバシー外延情報なら好きに扱っていいというわけではなく、ケースバイケースの判断が必要となります。
2-2 私的領域vs公共空間
次に、
- 私的領域は審査基準が上がる
- 公共空間は審査基準が下がる
という考え方があります。
私的領域とは、「不特定多数人に観察されることを予定していない領域」のことです。
例えば、家の中、スマホの中身といった情報は、他の人に知られるとは思いませんよね。
このような情報は、自分が信頼している特定の人にだけ見せてもいいと考えるのが普通です。
そのため、私的領域のプライバシーを侵害された場合、審査基準は上がりやすくなります。
他方、公共空間とは「不特定多数人に観察されることが予定されている領域」のことです。
例えば、公道を歩いていて知らない人と出会ったとき、
「私の顔を見るな!プライバシー侵害だ!」と言われても困りますよね。
このように、日常生活において、知らない人に個人情報を知られることは受忍せざるを得ない場面においては、審査基準は下がる傾向があります。
ただし、公道を歩いているときも、知らない人に見られるだけでなく、こっそり写真を撮られたりするのは嫌ですよね。
やはりこれもケースバイケースの判断になります。
高い ◀ 権利の重要性 ▶ 低い 固有情報 ◀ ▶ 外延情報 私的領域 ◀ ▶ 公共空間 ↓ 厳格 ◀ 違憲審査基準 ▶ 緩やか |
第3章 プライバシー権の制約態様
この章では、プライバシー権の制約態様をどのように判断するのかを解説します。
プライバシー制約は、大きく分けて3つの態様があることを覚えておきましょう。
3-1 収集段階
まずは収集段階です。
この段階では、個人情報を集められること自体が問題となります。
例えば、警察官による写真撮影や、防犯カメラの設置などが挙げられます。
一般的には、収集段階で直ちに厳格な審査がされることは少ない傾向があります。
情報を集めるだけであれば、直接的な実害がないためです。
ただし、収集された情報が膨大であるような場合には、本当に必要があるのか厳しく審査されるケースもあります。
例えば、最近ニュースにもなった大垣警察事件(名古屋高判令和6年9月13日)は、風力発電所の建設に反対している市民活動家の個人情報を、警察が長年にわたり収集したことが違法と判断されました。
3-2 開示段階
次に開示段階です。
この段階では、収集された個人情報が他の人に伝わっています。
一般的には、本来予定されていない第三者に情報が開示された場合、審査基準は厳しくなる傾向があります。
情報収集自体は適法な場合や、個人が情報収集に同意した場合であっても、「他の人にまで知られるなんて聞いてないよ!」ということになるわけです。
例えば、前科照会事件(最判昭和56年4月14日)は、政令指定都市の区長が、弁護士会照会に応じて個人の前科や犯罪履歴を開示したことが違法と判断されました。
3-3 管理段階
収集段階と開示段階との間に、管理段階があります。
収集した情報を利用している場合に、利用方法が適切か問題となります。
この段階では、情報漏えいの危険性が高いかどうかという観点が重要になります。
実際には他者に知られていなくても、情報の管理体制が甘く、第三者に知られるおそれがあるような場合は厳格に審査されます。
例えば、住基ネット事件(最判平成20年3月6日)は、氏名、生年月日、性別、住所などが記載された住民基本台帳をネットワーク化し、全国の地方公共段階で個人情報を管理するという体制の違法性が問題になりました。
この判例では、個人情報が第三者に開示又は公表される具体的な危険はないということで合憲と判断されました。
・収集段階 →一般的には緩やかな審査 ただし、情報量が膨大な場合などは厳格になり得る ・開示段階 →本来予定されていない第三者への開示は厳格な審査 ・管理段階 →情報漏えいの危険性が高いかにより判断 |
第4章 まとめ
以上のとおり、プライバシー権の定義は明確ではなく、判例をしっかり勉強する必要がありますが、ひとまずは「自己情報コントロール権」のことであると考えれば問題ありません。
権利の重要性を判断する際には、
- プライバシー固有情報かプライバシー外延情報か
- 私的領域か公共空間か
などを検討します。
制約の態様を判断する際には、
- 収集段階
- 開示段階
- 利用段階
のどれであるかを意識しましょう。
この記事では、初学者の方にもわかりやすいように、一般的な考え方をざっくりと解説しています。
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