【未成年の知る自由】岐阜県青少年保護育成条例事件ベースの問題は未成年と成年両方検討せよ【パターナリズム】
目次
この記事を読んで理解できること
- 未成年の知る権利の問題は①未成年の知る権利と②成年の知る権利
- 未成年と成人では審査基準が下がる理由が違う
- 未成年の閲覧制限は「社会共通の認識」がキーワード
- 成人の閲覧制限は付随的制約か否かの検討
- 司法試験を使った検討(フィルタリングソフトとゾーニング)
令和6年7月現在、司法試験に二回出てるくらい頻出なのに、予備試験でまだ出ていない未成年に対する有害図書規制(岐阜県青少年保護育成条例)
このような問題の注意点は、
①未成年規制が同時に成人の知る権利の規制になっている事
②「未成年」と「成人」では審査基準が下がる理由がそれぞれ異なる
③成人への制約が間接的・付随的制約にとどまるか
を検討することになります。
この解法を普通の予備校ではなぜか教えていないことが多いため、岐阜県青少年保護育成条例事件を参照にしながら、解説していきます。
なお、未成年の知る権利については司法試験で頻出中の頻出なのでしっかりマスターしましょう。
第1章 未成年の知る権利の問題は①未成年の知る権利と②成年の知る権利を分けよ
まず、ポイントとしては、未成年に有害図書を見せないようにする場合、①未成年の知る権利の制約を立法の狙いとしているわけですが、
未成年に見せないようにする結果、成人も当該有害図書などを閲覧することが困難になります。
つまり、未成年の知る権利の制約の問題は同時に成人の知る権利の制約にもなっており、正確には、①未成年と②成人についてそれぞれ三段階審査をしていくことになるわけです。
青少年保護育成条例事件判決でも以下のように両方の権利を制約することを適切にして聞いています。
・岐阜県青少年保護育成条例事件 最判平成元年9月19日
「有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係において、憲法21条1項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても、有害図書の流通を幾分制約することにはなる」
第2章 未成年と成人では審査基準が下がる理由が違う【重要】
「有害図書」や「有害サイト」として閲覧を制限することは、表現内容の有害性に着目する規制である以上、原則的な考えとしては厳格審査基準を免れません。
しかし、このような未成年保護のための閲覧制限については、審査基準が下がると考えることが多いです。
ここでポイントなのは、
未成年と成人では審査基準が下がる理由が全く違う!!
ということです。
上の図のとおり
未成年の知る自由に対する制約の審査基準が下がる理由は、
「判断能力が未熟であり、成年と同様の情報受領権の前提を欠く」から(岐阜県青少年保護育成条例事件伊藤補足意見参照)です。
すなわち、完全なる情報受領権を有する成人の閲覧の自由を制約する場合は原則として、厳格審査基準になりますが、思慮分別能力が未熟である以上、完全なる情報受領権を有していないため、審査基準が下がるという理屈になります。
他方、
成人の知る自由に対する制約の審査基準が下がる理由は、
「未成年を狙った法律がたまたま成人の権利も規制したにすぎず付随的制約にすぎない」からです(同判決調査官解説)
答案では、未成年と成人とで別々に目的審査基準をすることになるのが通常ですが、両者の審査基準を同じに整えることで、二者同時に目的手段審査をすることは可能と考えます。
第3章 未成年の閲覧制限は「社会共通の認識」がキーワード
岐阜県青少年保護育成条例事件判決の未成年に対する制約について、以下のように述べています。
「有害図書が…青少年の健全な育成に有害であることは、既に社会共通の認識になっているといってよい」
この判示部分は批判されることが多く、答案でも否定することはもちろん可能です。
しかし、批判するにしても、「社会共通の認識」となっていることについて公権力側の反論で必ず指摘しなければなりません。
「社会共通の認識」という言葉は未成年の知る権利の制約の問題においては必ず答案に記載するキーワードです。
例えば、以下に「社会共通の認識」が存在することを前提とした判例ベースの主張反論の具体例を記載しておきます。
(論法例)
規制図書類が青少年に悪影響を及ぼす科学的根拠は存在しないとの反論が考えられるが、未成年保護の事例であることに照らし目的と手段の関連性についても科学的根拠までは不要であり相当の蓋然性が存在すれば足りると解すべきである。有害図書が思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼすことは社会共通の認識となっている(岐阜県青少年保護育成条例事件参照)ことからも相当の蓋然性は存在すると解する。
以上の論証は、目的審査での目的の重要性や実質的関連性を肯定する場合に使うことになります。
第4章 成人の閲覧制限は付随的制約か否かの検討をせよ
岐阜県青少年保護育成条例事件で、成人に対する知る自由の制約について審査基準を下げる理由は付随的制約でした。
しかし、それはあくまで「自動販売機による販売禁止」というケースに射程が限定されています。
岐阜県青少年保護育成条例事件
岐阜県青少年保護育成条例事件は「自動販売機での販売制限」であり、それ以外の閲覧規制についてはただちに射程が及ぶわけではない!
そこでポイントは成人に対する知る自由の制約について、具体的な事案検討で本当に「付随的制約」か否かを検討することになります。
そのために重要なのは、岐阜県青少年保護育成条例事件が「自動販売機」の事例であったことを物差しにすることです。
ここで、自動販売機で有害図書が包括指定されても大人は他の方法・場所で見ることができるのがポイントです。
では、司法試験の過去問を使って具体的に検討してみましょう。
第5章 司法試験を使った検討 フィルタリングソフトとゾーニング
以下では、二つの司法試験の問題について、「自動販売機」との比較により成人の知る権利の制約が「付随的か否か」を検討していきます。
二つの問題で結論が違うのでその理由に着目して読んでみてください。
1 フィルタリングソフト 平成20年司法試験
平成20年司法試験憲法はフィルタリングソフトにより、有害指定されたサイトについて成人も閲覧できないという問題でした。
この場合、大人は有害サイトを見るために「フィルタリングソフトの削除」という金銭的・心理的負担の重い行為を要求されるため「付随的」とはいえないことになります。
したがって、審査基準は下がりません。厳格審査基準になるを用いることとなりましょう。
これが、いわゆる「判例の射程」です。
「自動販売機」という判例の事案を物差しに考えていくわけですね。
2 ゾーニング 平成30年司法試験
平成30年司法試験問題 論文式試験 公法系科目
平成30年司法のゾーニングの場合は、学校周辺200mのエリアでは、有害図書は販売禁止です。
しかし、学校の周辺200mを超えた店舗では大人は有害図書を購入できますので、大人は場所を選べば有害図書を閲覧することになります。
とすれば、「自動販売機」以外の方法・場所では大人は有害図書を閲覧できるという意味で、岐阜県青少年保護育成条例事件と同じであり、「付随的制約」といえます。
したがって、ゾーニングの場合は審査基準が下がる(中間審査基準)ということになると思います。
こちらも「自動販売機」を物差しに考えていくわけです。
第6章 まとめ
以上のように、未成年の知る権利の制約の問題が出題された場合は、
①未成年規制が同時に成人の知る権利の規制になっている事
②「未成年」と「成人」では審査基準が下がる理由がそれぞれ異なる
③成人への制約が間接的・付随的制約にとどまるか
を必ず検討するようにしましょう。
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