- 公開日:2024.10.04
- 更新日:2024.11.21
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もう迷わない!明らかな差し迫った危険の基準のを使いどころを徹底解説!使える場面を明確に言えるようになって憲法を制覇しよう!【合憲限定解釈】
目次
この記事を読んで理解できること
- 明らかな差し迫った危険の概要と判例
- 明らかな差し迫った危険の基準の使いどころ
「明らかな差し迫った危険」というワードを覚えているが、具体的にどの場面で使えばよいか分からないと悩む受験生もいるのではないかと思います。
厳しい審査基準でいうと「厳格審査基準」も存在するため、明らかな差し迫った危険の基準と厳格審査基準の使い分けが分からないという受験生の相談もよく受けます。
明らかな差し迫った危険は「①〇〇〇〇〇かつ②▽▽▽▽の場合に限り使える」のですが①と②に入る言葉がすぐに出てこなかった人はこの記事で勉強してみてください。
第1章 明らかな差し迫った危険の概要と判例
1 概要
まず、明らかな差し迫った危険といのは、人権の反対利益が侵害される可能性が、もう今まさに迫っているというイメージで理解してみてください。
かなり緊急性が高い状況をイメージしていただければ足ります。
これに対して、法益侵害の可能性は存在するものの「明らかな差し迫った危険」にまでは至っていない場合は、「危険な事態を生ずる蓋然性」という言葉を使います。
明らかな差し迫った危険の基準を採用し、受験生にも有名な泉佐野市民会館事件を見てみましょう。
・泉佐野市民会館事件 最判平成7年3月7日
「単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であると解するのが相当である」
明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見 > 危険な事態を生ずる蓋然性
2 実は最初に採用されたのは泉佐野市民会館事件ではない
さて、多くの受験生は「明らかな差し迫った危険」=「泉佐野市民会館事件」と思っていますが、その理解は半分間違っています。
泉佐野市民会館事件において、明らかな差し迫った危険は、新潟県公安条例事件を引用する形で用いています。
新潟県公安条例事件を見てみましょう。
・新潟県公安条例事件 最判昭和29年11月24日
「これらの行動について公共の安全に対し明らかな差迫った危険を及ぼすことが予見されるときは、これを許可せず又は禁止することができる旨の規定を設けることも、これをもって直ちに憲法の保障する国民の自由を不当に制限することにはならないと解すべきである。」
つまり、明らかな差し迫った危険を初めて判例で採用したのは泉佐野市民会館事件ではなく新潟県公安条例事件なのです。
そして、新潟県公安条例事件は屋外集会(デモ行進)の判例、泉佐野市民会館事件は屋内集会の判例ですから、デモ行進の問題において明らかな差し迫った危険の基準を答案で書く場合は、新潟県公安条例事件を指摘しなければなりません。
第2章 明らかな差し迫った危険の基準の使いどころ
1 明らかな差し迫った危険の基準の使用場面
さて、本題に入りましょう。
新潟県公安条例事件にせよ泉佐野市民会館事件にせよ、問題となるのは許可制です。
集会の自由の重要性に鑑みて、事前に不許可とできる場合を「明らかな差し迫った危険」が存在する場合に限定するという使い方をしています。
すなわち、明らかな差し迫った危険の基準が主として使えるのは
①精神的自由(特に、集会の自由)
かつ
②事前規制
が問題となっている場合です。
それ以外の場合に、明らかな差し迫った危険の基準は基本的に使わないと考えてください。
この点、駒村先生も以下のように述べています。
・駒村圭吾『憲法訴訟の現代的転回―憲法的論証を求めて』(日本評論社、2013年)
「明らかな差し迫った危険の基準は、主として精神的自由権などの重要な権利に対する事前的・予防的規制の審査を念頭に置くものであり、その意味では特殊な文脈で利用される厳格審査基準である。」(太字強調は筆者によるもの)
※なお発展的ですが、令和3年司法試験は許可制の問題ではなく、「覆面禁止」という規制の問題でした。
この場合も、「覆面禁止」されることにより集団行進への参加自体を委縮することが考えられ、実質的に事前規制として、明らかな差し迫った危険の検討を行うべき問題といえます。
2 合憲限定解釈
泉佐野市民会館事件における明らかな差し迫った危険の基準は、合憲限定解釈という手法のなかで用いられていました。
具体的には、不許可要件を定めた条例7条1号の「公の秩序をみだすおそれがある場合」という要件について、
「おそれ」という危険性の程度について「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される」と限定解釈しています。
このようなことから、出題においても一般的には、個別法が与えられてその許可要件を限定的に解釈する中で「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される」と合憲限定解釈する場面で使うのが通常です。
平成25年司法試験では、以下のような不許可要件で出題されています。
「第14条 何人も,住民投票の付議事項に対し賛成又は反対の投票をし,又はしないよう勧誘する行為(以下「住民投票運動」という。)をするに当たっては,次に掲げる行為をしてはならない。」
一 買収,脅迫その他不正の手段により住民の自由な意思を拘束し又は干渉する行為
二 平穏な生活環境を害する行為
三 商業活動に支障を来す行為」
このような場合も、例えば「害する」(二号)、「支障を来す」(三号)について、「明らかな差迫った危険の発生が具体的に予見される」と限定解釈して答案を作っていくことになります。(ただし、屋外集会なのでそれで本当に良いかは議論の余地あり)
なお、この点に関し、泉佐野市民会館事件は危険性の程度(「明らかな差し迫った危険」)についての合憲限定解釈だけではなく、保護法益の合憲限定解釈をも行う二重の合憲限定解釈を施していることは重要ですので、別記事で紹介します。
記事リンク~泉佐野市民会館事件 合憲限定解釈~~
※ただし、前述の令和3年司法試験は許可制の場面ではないので、合憲限定解釈のしようがありません。このような場合にどのように処理するかは工夫が必要なので、憲法が分かっている予備校講師の個別の過去問対策講座を受講するとよいでしょう。
第3章 まとめ
以上のように、明らかな差迫った危険は、
①精神的自由(特に、集会の自由)
かつ
②事前規制
の場面でのみ検討してください。(②は実質的に事前規制も含む。)
それ以外の場合で、明らかな差迫った危険を答案で使うことはありませんので、使い時に迷うところはないでしょう。
今後は、自信をもって明らかな差し迫った危険の基準を使って答案を作成していただければ幸いです。
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