【上級者に駆け上がれ!】契約の解釈の基本を徹底解説!予備試験の過去問も利用
この記事を読んで理解できること
- 契約の解釈の基本と具体例
- 平成26年予備試験民法を題材にした契約の解釈の検討
民法が本当の意味で得意になるためには、契約の解釈ができるようにならなければならないことをご存じでしょうか。
司法試験においては、契約の解釈に全体の4割程度の点数が振られることが多く、確実な合格を目指したい場合は、契約の解釈について確固たる手法を身に着けたほうがよいです。
しかし、契約の解釈の手法について大学や予備校でなかなか体系的に学べないため、やり方を知らない人が多いと思います。
また、実際に出題されるとかなり難易度の高い出題もされます。有名な平成24年司法試験の『山菜おこわと和風だし』も契約の解釈の高難易度の問題です。
そこで、本記事では、
第1章で契約の解釈の基本を伝授し、
第2章で具体的に予備試験平成26年の問題を使い、契約の解釈による解法を具体的に示します。
実務家や上位合格者にとって当たり前のスキルですが、予備校では教わらない者なので、これを知ることで、一気に民法は無双状態になれますので、ぜひ最後まで読んでくださいね。
第1章 契約の解釈の基本と具体例
1 基本的な例
例えば、以下のような会話があったとします。
X「たばこ10箱ください」
Y「いいですよ。500円となります。」
この場合、Xの申込みに対してYが承諾しており、XY間で売買契約が成立することとなります。
ここで、「たばこ」とはなんでしょうか。
「たばこ」といっても、銘柄がたくさんありますよね。セブンスターやマールボロなど。XもYも「たばこ」の銘柄について一言もいっていません。つまり、何の銘柄の「たばこ」を売買契約の目的としているかは字面を見るだけではわからないのです。
この「たばこ」という複数の意味にとらえうるような文言を、一つの意味に確定していく作業。
これが、契約の解釈というものになります。
(※契約だけでなく、単に意思表示を解釈する場合は、「意思表示の解釈」といいます。本記事は、便宜上、契約の解釈で統一して以下記述します。)
以上の図では、結論を書くなら、『「たばこ」とは「銘柄Bのたばこ」のことであると解釈することができる。』と答案に記載することになります。
2 検討の順番
(1)まずは「文言」から見る
契約の解釈が苦手な人は、まず実質論から書いてぐちゃぐちゃになっていることが多いのです。
法解釈が条文に書いてある「文言」から検討するのと同様に、当事者が発した言葉や契約書記載の「文言」からまずスタートします。
文言からまずスタート!!
そして、その文言を読んだ際に、「字面から形式的に読み取れる意味」を確定します。
「たばこ」であれば、まさに「たばこ」という意味であり、何の銘柄のたばこかは形式的には読み取れません。
「(銘柄不明の)たばこ」というのが文言の字面から読み取れる意味となります。
(2)当事者の「意思」を確定する
「文言」を検討したら、ようやく次に、当事者の「意思」を確定することから始めます。
意思を確定していく際に、重要なファクターがいくつかあります。
それは、
・当事者の属性
・当事者の関係
・取引の経済的・社会的目的
・契約の動機
・交渉過程のやりとり
・当事者の認識
など
です。
これらの事実を問題文からたくさん拾って、当事者の意思を解釈していくことになります。
例えば、XとYとの間に以下のような事実があった場合に、契約の解釈に使える事実となります。
・XはYの店の常連でありよく「マールボロ」を買っていた(当事者の関係)。
・そして、Xは無類のたばこ好きであり、いつも自分で吸うために買っていた(交渉の経緯)。
・そのことをYは知っていた(当事者の認識)。
上で示したリストに従って、上のような事実をただ拾うだけでも点数は来ると思います。
しかし、今回はもう少し練ってみましょう。事実認定の訓練です。
まず、
『XはYの店の常連でありよく「マールボロ」を買っていた』という事実から、すぐに今回もXが買ったのは「マールボロ」と言えるでしょうか。
そのように考えることももちろんできますが、反論の余地はあります。点数を取りたい場合はもう少し頑張ってみます。
というのも、家族や友達のためにたばこを購入したという可能性はあり得るからです。
つまり、「マールボロ」以外のたばこを買うという可能性は多少は残ります。
そこで、『Xは無類のたばこ好きであり、いつも自分で吸うために買っていた』という二つ目の事実に意味が出てきます。
今までの経緯から、Xは家族や友人の代わりにたばこを買うということがなく、今回も自分で吸うために「マールボロ」を買う可能性が高いと言えます。
そして、以上のことは『Yは知っていた』わけですから、そのようなXとYの関係性や認識においてはXが「たばこ」と発言した「たばこ」とは「マールボロ」と解釈することができるわけです。
以上のことを解答に書いてみましたので確認してみてください。
本件売買契約は「たばこ」を目的物とするところ、たばこには銘柄が複数あり特定されていない。
しかし、XはY店の常連であり、いつも「マールボロ」を購入しており、数年同様に「マールボロ」のみを購入していた。
Xは長年Yに通う中で、たばこ好きであることをYに伝えているため、YもXが自分で消費するために「マールボロ」を購入していると認識していた。
したがって、XとYに上記のような関係性が構築されているなかで、特段にたばこの銘柄を特定してせずに「たばこ」を目的物とした場合は、他の者が吸うために購入したとは想定できない。
よって、今回もX自己消費のためにたばこを購入しYもそれを認識していたと解するのが相当であり、「たばこ」とは「マールボロ」と解するのが当事者の合理的意思に合致する。
第2章 平成26年予備試験民法を題材にした契約の解釈の検討
以上が契約の解釈についての基本的な解法です。
これを前提に、予備試験の過去問に挑戦してみましょう。
・平成26年司法試験予備試験問題 民法
https://www.moj.go.jp/content/000125209.pdf
【事実】
1.Aは,自宅近くにあるB所有の建物(以下「B邸」という。)の外壁(れんが風タイル張り仕上げ)がとても気に入り,自己が所有する別荘(以下「A邸」という。)を改修する際は,B邸のような外壁にしたいと思っていた。
2.Aは,A邸の外壁が傷んできたのを機に,外壁の改修をすることとし,工務店を営むCにその工事を依頼することにした。Aは,発注前にCと打合せをした際に,CにB邸を実際に見せて,A邸の外壁をB邸と同じ仕様にしてほしい旨を伝えた。
3.Cは,B邸を建築した業者であるD社から,B邸の外壁に用いられているタイルがE社製造の商品名「シャトー」であることを聞いた。CはE社に問い合わせ,「シャトー」が出荷可能であることを確認した。
4.Cは,Aに対し,Aの希望に沿った改修工事が可能である旨を伝えた。そこで,AとCは,工事完成を1か月後とするA邸の改修工事の請負契約を締結した。Aは,契約締結当日,Cに対し,請負代金の全額を支払った。
5.工事の開始時に現場に立ち会ったAは,A邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」の色がB邸のものとは若干違うと思った。しかし,Aは,Cから,光の具合で色も違って見えるし,長年の使用により多少変色するとの説明を受け,また,E社に問い合わせて確認したから間違いないと言われたので,Aはそれ以上何も言わなかった。
6.Cは,【事実】5に記したA邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」を使用して,A邸の外壁の改修を終えた。ところが,Aは,出来上がった外壁がB邸のものと異なる感じを拭えなかったので,直接E社に問い合わせた。そして,E社からAに対し,タイル「シャトー」の原料の一部につき従前使用していたものが入手しにくくなり,最近になって他の原料に変えた結果,表面の手触りや光沢が若干異なるようになり,そのため色も少し違って見えるが,耐火性,防水性等の性能は同一であるとの説明があった。また,Aは,B邸で使用したタイルと完全に同じものは,特注品として注文を受けてから2週間あれば製作することができる旨をE社から伝えられた。
7.そこで,Aは,Cに対し,E社から特注品であるタイルの納入を受けた上でA邸の改修工事をやり直すよう求めることにし,特注品であるタイルの製作及び改修工事のために必要な期間を考慮して,3か月以内にその工事を完成させるよう請求した。
[注:太字は筆者による]
AC間には建物の外壁の改修という仕事を目的とする請負契約(民法632条)が成立しているところ、【事実】7の「工事の完成させるよう請求」とは、目的物の修補請求であると解されます(562条1項、559条)。
ここで条文を見てみましょう。
(買主の追完請求権)
第562条
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
このように、目的物の修補請求は、契約不適合責任の効果の一つです。
契約不適合責任は、その効果の多さから苦手意識を感じる受験生も多いようです。
しかし、効果の話をする前に、
①「契約」が存在すること
②「目的物」の「品質」等が「契約の内容に適合しない」こと
が大前提となります。
そして、①「契約」が何だったのかを認定する「契約の解釈」の問題がメインであることが実は多いのです。
本件でも、「A邸の改修工事の請負契約」とは具体的にどのような契約だったのかを解釈することで、初めて「契約の内容に適合しない」かどうかを判断することができます。
ということで、第1章と同じ方法で契約内容を検討していきましょう。
1 まずは「文言」から見る
AはCに対し、「B邸と同じ仕様」にしてほしいと述べています。
つまり、本件は「B邸と同じ仕様」の解釈をする問題ということです。
文言だけを見ると、「同じ仕様」とはどのような仕様を意味するのかは明らかではありません。
契約締結交渉で、AはCに「同じ色」とは一言も言っていないのです。
そして、本件の「シャトー」はB邸のものと比べて「表面の手触りや光沢が若干異なるようになり,そのため色も少し違って見える」ものの、「耐火性,防水性等の性能は同一である」とされています。
したがって、「B邸と同じ仕様」が「同じ性能」のことなのか「同じ色」も含むのかによって、契約の内容に適合するかしないかの結論が180度変わってしまうのです。
そこで、当事者の意思を確定するという作業が必要となります。
2 当事者の「意思」を確定する
まず、Cに有利な解釈(「同じ仕様」とは「同じ性能」)となる事情を挙げていきます。
・「仕様」という文言
▶ 色合いではなく「性能」の意味で使うのが通常。
例:PCの仕様
・A邸の外壁が痛んできたことを契機としている
▶ 経年劣化に対応するということは「性能」の意味に解釈する事情となる。
他方、Aに有利な解釈(「同じ性能」に「同じ色」を含む)となる事情は以下のとおりです。
・Aは元々B邸の外壁の色を好んでいた
▶ Aの動機はB邸と同じ色にすることであった。
・契約締結前に、Cに実際にB邸を見せた
▶ 「性能」だけが目的ならあえて実物を見せる必要がない。
・契約締結後ただちにAはCに「色」の違いに疑義を呈し、Cは説明している
▶ Aが「色」に関心を持っていることを前提としたやり取りがなされている。
ここまで指摘することで
①「B邸と同じ仕様」⇒「B邸と同じ性能+同じ色」という契約
②B邸と色が違う⇒目的物の品質が契約の内容に適合しない
という要件を満たすのです。
第3章 まとめ
以上のとおり、契約の解釈は契約不適合責任などを論じる上での大前提であり、どのような契約がなされたかという事実認定が結論を大きく左右することになります。
あらゆる契約で多かれ少なかれ検討が必要となりますので、しっかり押さえるようにしてください。
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