【論証付き】転用物訴権を基礎から予備試験・司法試験合格レベルまで一気に解説。
目次
この記事を読んで理解できること
- 転用物訴権とは
- 実質的判例変更:最判平成7年9月19日
- 司法試験の過去問にチャレンジ!
転用物訴権と聞くと演習量が足りておらず、いざ予備試験や司法試験で応用されて出題されると手も足も出なくなる受験生は多いのではないかと思います。
応用どころかそもそも基礎自体もよくわからないという受験生も多いと思います。
論文1桁合格の予備試験ジャーナルにお任せください。
今回は、予備校や学部・ローでもさらっとだけ触れられるだけで、対策がおろそかになっている転用物訴権を徹底解説します。
司法試験で転用物訴権が問題となった少し難しめの問題も解説しますので、この記事だけを復習していれば、基礎から予備試験・司法試験レベルの発展的問題まで攻略できるような記事を作ってみました。
張り切っていきましょう!
【初級】第1章 転用物訴権とは
1 基本的な意味
いきなり聞かれてドキリとしてしまう方がいるかもしれませんが、転用物訴権の定義はすぐに出てきますでしょうか?
法律学習において(というより何を学ぶにしても)、定義というものが何よりも成長のために大事です。
その中でも、転用物訴権のような特定の条文が存在しないものは定義を覚えてしまってもよいと思います。
定義がいえないと「この問題は転用物訴権だ」と明確に問題を捉えることができないからです。
【転用物訴権とは】
契約上の給付が契約の相手方以外の第三者の利益になった場合に、給付をした契約当事者が第三者(受益者)に対してその利益の返還を請求することのできる権利
覚えてしまいましょうね。
転用物訴権は騙取金弁済と並んで「三当事者間の不当利得」に分類されていることから分かるとおり、第三者が登場する類型なのです。
(なお、たまに騙取金の不当利得と転用物訴権で、頭が混乱する人がいますが、騙取金の不当利得は、所有権に基づく返還請求権の金銭バージョンとイメージしてもらえればよいと思います。)
2 ブルドーザー事件:最判昭和45年7月16日
今はこの考え方が採られていない判例ではありますが、現在の考え方を理解するにあたって重要な判例なので解説します。現在の議論だけ知りたい方は、読み飛ばしてもらい第2章から読み進めていただいても構いません。
【事案】
Y(賃貸人)所有のブルドーザーを賃借していたA(賃借人)が、このブルドーザーをX(請負人)に修理させたところ、AはXから引渡しを受けた後に倒産しました。
XはAに対して本来は、契約上の権利として修理代金を請求できるはずですが、注文者であるAが倒産している以上、修理代金の回収はできません(損失)。
他方、YはXの修理を受けたブルドーザーをA倒産後にAから返還を受けています。つまり、Xからすると「YはXの修理による利益を得ている」(利得)といえるため、この利益を不当利得として請求したという事件です。
これに対して、ブルドーザー判決はXの損失と利得との間の「直接の因果関係」を肯定しています。
そして、中間者であるAが無資力であり、修理代金の全部が無価値である場合にその限度において、Yの受けた利得はXの財産に由来したものとして、XはYに対して不当利得返還請求をすることができると結論付けました。
しかし、ブルドーザー判決の結論は、学説から強い批判を受けます。
YとAとの間の事情を考慮せずに、XのYに対する不当利得返還請求を認めることは妥当とはいえないからです。
そのような批判があるなかで、判例は実質的に変更されました。
【初級】第2章 実質的判例変更:最判平成7年9月19日
転用物訴権は、あてはめが極めて重要になります。
そこで、結論として先に以下の解法を示しておきます。
転用物訴権の出題がされた場合は、賃貸人の賃貸借契約における負担が、賃貸人が修理により得た利益と対応するかどうかを緻密に検討せよ!
これが分からないと、予備試験・司法試験レベルの問題は解けません。
以下、判例の事案・判示を見て解法を整理していきます。
【事案】
ブルドーザー事件と同様にY(賃貸人)がA(賃借人)に対し、営業用建物を賃貸し、そして、AはX(請負人)に対して、建物の修理工事を依頼しました。工事完成後建物がXからAに引き渡された後に、MAは行方不明になり、Xの残代金債権の回収は事実上不可能な状態に陥りました。
ここまではブルドーザー事件と同じなのですが、ここからがポイントです。
YとAとの間には、Aが権利金を支払わないこととの代償として、建物の修繕、造作の新設、変更等の工事は全てAの負担とする旨の特約が交わされていました。
とすると、Yは「本来Aからもらえていたはずの権利金をもらえない」という負担を引き受けていたにもかかわらず、Xから修理代金まで請求されることになり、二重の経済的負担となります。
そこで、その不都合性を避けるために判例は、以下のように判示しました。
・最判平成7年9月19日
「甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。」
(甲はYX、乙はA、丙はXYとして読んでください。)
判断枠組みを整理します。
①因果関係要件
まず、Aが無資力になったことについては、因果関係要件の問題であることはブルドーザー事件と同様です。
②「法律上の原因」欠如要件
そして、「法律上の原因」欠如要件について、Y・A間の賃貸借契約を全体としてみて、Yが対価関係なしに利益を受けた場合に充足されると述べています。
そしてその上で、「法律上の原因」欠如要件について以下のように敷衍します。
そして、以下のようにあてはめます。
「本件建物の所有者である被上告人が上告人のした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通常であれば賃借人である高島から得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものというべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできず」
(被上告人はY、上告人はXだと考えてください。)
上記のように、権利金を免除するというYの負担が、Xによる工事によりYが受けた利益に相応するため「法律上の原因」がないと判断しています。
したがって、当たり前のことを言うようですが、転用物訴権の問題の解法は以下のようになります。
転用物訴権の出題がされた場合は、賃貸人の賃貸借契約における負担が、賃貸人が修理により得た利益と対応するかどうかを緻密に検討せよ!
【上級】第3章 司法試験の過去問にチャレンジ!
平成23年司法試験民法(民事系第1問)の設問1⑴が転用物訴権の問題でした。
問題文は以下から見ることができます。
https://www.moj.go.jp/content/000073973.pdf
問題文が長いので、転用物訴権の問題に必要な部分だけ簡略化してみます。
【簡略化した事例】
1 Bは甲建物(時価1億円)を所有していた。
2 B(賃貸人)はA(賃借人)に対し、平成22年2月1日に、賃貸期間3年で建物甲を賃貸借した。
その際、本来賃料の相場は400万円であったが、内装費用をA(賃借人)が負担することを条件に、賃料は半額の200万円とした。
敷金は2500万円であった。
3 A(賃借人)はC(請負人)に対、建物の内装工事を、工事代金5000万円で依頼した。その後、Cは工事を完成させた。Aは、その内2500万円を支払った。
4 Aは、Bに賃料を支払わなかった。未払賃料が6か月分の1200万円となった平成22年8月1日、B(賃貸人)はFに甲建物を1億6000万円で譲渡した(つまり、内装により甲建物の価値が上がっている。)。
その際、1300万円の敷金返還債務は買主であるFに移転した。
5 平成22年9月末頃、Aは事実上の倒産状態(無資力)となった。
6 このような場合、内装工事を請け負ったCは賃貸人Bに対し、内装費用を不当利得返還請求権を根拠に請求することができるか。
Cは残代金2500万円を無資力のAに請求できず(損失)、Bは甲建物の売買で内装により甲建物の価値が上がったことで、6000万円の利ザヤ(利得)を得ています(事実4)。
他方、この事件は、判例の事案と同様に、賃貸人であるBは、内装費用を賃借人Aが負担する代わりに、賃料を相場の半額にするという負担を負っています(事実2)。
したがって、単純に判例法理に従うと「法律上の原因」があるため、請負人CはBに対して不当利得返還請求ができないと考える受験生もいるかと思います。
しかし、さすが司法試験。ここをひねってくるわけですね。
確かに、賃料は相場の半額ですが、実際に賃料半額の損失を被ったのは、契約開始の2月1日からBがFに甲土地を売却する8月1日までの、6か月です。
ですので、200万円×6か月で1200万円の負担にすぎません。
つまり、Bの負担は、残代金2500万円の半分にも満たないのです。
また、その1200万円の負担でさえも、Bが甲建物移転による敷金の返還債務の移転に伴い1300万円の敷金返還債務を免れるという利益を得たことで、事実上相殺されたといえます。
したがって、全体として見た際に、賃借人Bは、内装費用をAに負担してもらうことに対応する負担を負っていないことになります。
ここで、最判平成7年9月19日の判旨をもう一度見てみましょう。
このように、最高裁は、「利益に相応する出捐ないし負担をしたとき」は法律上の原因が認められると判旨しています。
逆に言えば、受益者に何らかの負担があったとしても、得られる利益に相応していない場合、判例の射程は及ばないことになります。
したがって、Bの甲建物売却の際に得た利得は「法律上の原因」がないといえるため、請負人CはBに対して、不当利得返還請求権を行使できます。
なお、契約時の条件に加えて、Bが実際に弁済した金額も考慮に入れた場合でも結論は変わりません。
すなわち、AはBに賃料を支払わなかったため、本来の賃料相場と比較すれば、Bの負担は400万円×6か月で2400万円となります。
他方、AはCに対して、工事代金5000万円の一部である2500万円は弁済しています。
そのため、Bの負担は、Aが内装費用を負担するという条件により、Aが実際に弁済した金額の範囲内にとどまっており、未払の工事代金に対応する負担は存在しません。
以上をまとめれば解答になります。
民法が苦手な方にはかなり難しい問題といえますが、司法試験・予備試験レベルになると長い問題文を多角的に分析させて、「本当に賃貸人が実質的な工事代金分の負担を負っているのか」を丁寧に検討させる問題が出題されるわけです。
【転用物訴権】
転用物訴権の問題は、本当に賃貸人が工事代金分の実質的負担をしているか否かを問題文全体から検討せよ。
第4章 まとめ
以上のとおり、転用物訴権は、「法律上の原因」が認められるかどうかを、受益者の利益と負担を比較するという緻密な検討が求められます。
予備校でもほとんど教えられていない論点だからこそ、マスターすれば周りと圧倒的な差をつけることができるので、ぜひ今回紹介した解法を活用してください。
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